バファローズという不器用な友人に久々に会いに行ったはなし

私が応援しているプロ野球チーム、オリックス・バファローズは、色々と不器用だ。……と私は思っている。

まず、このチームはオリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズという二つのチームが合併した末に生まれたものだ。その合併もすんなりいったものではなく、かつて二つのチームを応援していたファンは殆ど離れてしまっている。

そんな哀しみを背負って生まれた今のバファローズ。お世辞にも知名度があるとは言えないし、はっきり言って弱い。観客席は基本的にガラガラで、(去年までなら)前日どころか当日でも余裕でチケットが取れる。

横浜スタジアムのチケットを取ろうとした時、数週間前からチケットを予約しないと入れないことに驚いたぐらいだ。

他にも、企画用に作られたユニが何故かパジャマっぽかったり、突然「インドデー」なんてものを開催してインドの方を無料で球場に招いたり、スポンサーの応援マスコットが負けるたびに脱いだり……と愉快なエピソードは色々ある。

私にとって去年までのバファローズは、「プロ野球球団」というより、気が向いたらすぐに会える友人のような感じの存在だった。


だが、今年はコロナの事情で「現地観戦」どころか「野球の試合」そのものが有難いモノと化してしまった。

緊急事態が解除されてしばらく経ち、ようやく待ち望んでいた試合が始まったが、まだまだその時点でも「観戦」は幻のモノだった。

じっと待ち続けて、7月上旬。ようやくプロ野球の試合が見に行けるようになったと言うことで、私は久々に不器用な友人に会いに行くことにした。

新しい応援スタイルに戸惑うファン

18時。

応援歌合唱も、国歌斉唱も、Bsgirlsのショーの時にフェンス前で踊り狂うおっちゃんもいない、全く新しい試合が幕を開けた。

タオルを掲げることと拍手ぐらいしかできない限られた状況に、最初はファンも戸惑っていたように思える。

一回裏になっていよいよバファローズの攻撃!となった時。選手の登場には大きな拍手が飛んだが、選手がフォアボールを選んだ時は妙に静かになる。

相手投手がストライクを取った時には、ファイターズベンチからの歓声とファイターズ側からの拍手がしっかり鳴るのに。

今度こそはフォアボールに拍手を送ろうと、ボードの緑の点灯に合わせて拍手を送る。……と思いきや、ミスだったのか緑が消えて黄色に変身する。おぉーい!!

ボードは信頼ならんからと球審に注目するも、ボールもストライクも同じノリで出すから、目の悪い私には見分けが全くつかない。

ロドリゲスの華麗なファインプレーはあったのだが、相手投手の有原がサクサクと三者凡退に抑えてしまったのもあって、一回はやや不完全燃焼な感じで終わってしまった。

その後も、バファローズにとってはちょっと苦しい展開が続く。

調子が悪いなりになんとか踏ん張る榊原くんと、対照的に超絶好調な有原Kingdom。攻撃時にベンチが大声で騒ぐファイターズと、それに比べたらやや静かなバファローズ。

(その時は一塁側に座っていたため、位置の関係上バファローズベンチの声が聞こえにくかったのかもしれないが)

コロナに歌声を奪われたファンに出来ることは、拍手を送ることと、静かに見守ることだけだった。

「なんだか、劇場で演劇を観ている時みたいだなぁ」と感じた。

一つのヤジから秩序が乱れていく

去年までヤジを飛ばすおっさんが紛れ込んでいたとは思えないほどにお行儀良くしていたファンの秩序が乱れたのは、七回表のことだった。

高々と上がった内野フライ。普通ならアウト間違いなしの打球だ。

だが、内野陣が若干お見合い状態となり、ファーストのロドリゲスが取りに行こうとして、ポロリとこぼしてしまった。

途端に球場を覆うため息、呻めき。そして、鳴り響くおっさんの怒声。

今まで静まっていたヤジがついに目を覚ましてしまった。

おっさんのヤジを皮切りに、次々と大声でヤジを飛ばすおっさんがあちらこちらから生えてくる。

ヤジに勢いつけられてか、ヤジを覆い隠そうとしてなのか、有原の完璧なピッチングで冷やされていた応援の熱気が皮肉にも高まっていく。

極め付けは、八回裏でみんな大好きな伏見寅威が代打に入った時だ。

寅威が打席に入った途端に割れんばかりの拍手が降り注ぎ、寅威にエネルギーを送り込むかのように、打席で構えてる時ですら拍手が送られる。

高まる会場の熱気に、おっさんのヤジも徐々にヒートアップしていく。

「伏見お前今日一番応援されとるぞー!」「宮西打たせてくれ!」「宮西もっと高め投げてー!」

いや後半寅威関係ないやんけ。

そういうヤジが少し収まって、緊迫した場面になろうかといった瞬間、

「よそ見すんな清宮ー!!」


思わず笑ってしまった。申し訳ない。

だが、他の人の笑い声も響く様に流石に我に返る。これはまずい。

去年のように応援歌が流れている状態なら、周りの数席の人の中だけで完結するものが、ドーム全体に、そして選手に容易に伝わっていってしまう。

応援歌がないってこういうことなんか……と違いを痛感しながら、熱気が空回って産まれたカオスな空間の中で、私は大声にならないようなぐらいの声で「頑張れ」と言うしかなかった。

バファローズ、チームも不器用だけど、ファンもきっと同じくらい不器用だ。

それはまるで祈りのようだった

九回表の満塁のピンチを無失点で乗り切り、ついに9回裏。

宗が三振、正尚が初球レフトフライと秋吉にサクサク抑えられ、思わず「今日は早く帰れそうだな」という考えが過ぎった。

9回裏2点ビハインド。ツーアウトランナー無し。去年ならあっさり負け確定の展開だ。

でも、次はジョーンズだ。去年とはきっと違う。

ジョーンズがボールを選ぶ度に拍手が大きくなり、フォアボールになった途端に拍手喝采が鳴り響く。

盛り上がってきたバファローズファンの元に流れてきたのは、軽快な音楽。T-岡田の新しい登場曲だ。

ノリやすいテンポに、ファンの手拍子が乗り、次第に球場のボルテージが上がっていく。

T-岡田が打席に入ると、チャンステーマのように拍手が惜しみなく送られる。

秋吉が投球動作に入ると、今度はきちんと拍手が鳴り止み、先ほどとはうってかわってシンと静まり返る。

緊迫した状態を邪魔しないように。今度こそは、上手くできますように。上手くいきますように。

降り注ぐ願いの拍手と、祈るような沈黙。

まるでそれは教会の祝詞と祈りのようで、球場が教会のような厳かな空間になったかのような錯覚を覚えるほどだった。

緑色のランプが増えていく度に拍手の音量が上がる。歓声があちらこちらから湧きあがる。

そして、二つ目のフォアボール。

次に打席に立ったのはロドリゲス。スコアボードの戦績を見ると、三打席目で安打を打っている。もしかしたら、という気持ちがますます強くなる。

四球目。小気味良い打球音。鋭く飛んでいく打球。この速さはタイムリーだ!いや、もしかして、まさか……

打球が宣伝の立て看板と青い壁の隙間に吸い込まれるかのように刺さり、その瞬間、球場全体が湧いた。

逆転サヨナラスリーラン。

今まで私が見たこともない程に、格好良くて衝撃的な瞬間だった。


オリックス・バファローズは、チームもファンも色々と不器用だ。

でも、一寸先も闇なこの状況下で、手探りで試行錯誤しながら自分たちのできることをやろうとしている。

不揃いだったピースが徐々に繋がり、やがて一つの形になって、この日の勝利を掴み取ったんだと、私は信じている。


この日のことを、私はこれからも忘れない。

私は、不器用で時々格好いいオリックス・バファローズが大好きだ!


もう少し色んなものが落ち着いたら、また会いに来よう。そう思った。





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