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超年下男子に恋をする㉙(傷ついて酔って抱きよせられて)

 羽田とミワ、そして私と彼で飲みに行くことになった。

 その日、ミワはバイトだったので、先に私と彼と羽田三人で飲み始めるという感じ。

 私は彼と待ち合わせして店まで行ったけど羽田は遅刻。

 四人席に案内されて、私はいつものように彼の隣に座ったけれど

「え! 隣くるんですか?」

と彼は戸惑っている。

 まあ確かに。
 四人席で二人なのに隣座るってカップルシートかって感じ。

「前空いてるのにおかしいでしょ!」

「えー、べつにいいじゃん」

 そう言って、私は彼を窓側にして、隣に座ってしまった。

 彼もやれやれと言った様子であきらめた。

 そして少ししてから羽田が来て、私たちの向かいに座った。

 そもそも彼と羽田は接点もなく話すこともほとんどない。当然私がその場で話すことになる。まあ一つ確認しておきたかったこともあったので、私はミワが来る前に羽田に聞いた。

「ちゃんと離婚してるの?」

 実はバツイチとは言っても噂で、はっきりとは誰も知らなかった。すると本当に最近離婚はしたという。その元嫁も実は以前同じ店にいたバイトで、私もその子は知っているので、結婚に至る経緯なども聞いた。簡単に言うとデキ婚。まあ男と女は色々あるっていうような感じの話だったけど、隣で彼は口を挟むこともなく、ただおとなしく聞いている。

 その横顔を見て、これは何も考えてないなと私はすぐにわかった。聞いているふりもできないのが彼だ。

 羽田はこのポンコツ鈍感男子とはちがい、女慣れしている。ミワの気持ちも当然わかっている。でも未成年には手を出せないなんてかっこつけていた。

 年齢で付き合えないってされるのは、ミワだって納得いかないだろう。私は自分に重なることもあり、「年齢は関係ないでしょ」と羽田に言った。

 すると羽田が思わぬ反撃。

「そっちこそどうなの? 二人、付き合っちゃえば?」

 もしも私が年上の女の余裕をみせれたら、きっと彼に「どうするー?付き合っちゃう?」なんて言えたかもしれない。でもこの時の私は……

「私、彼女とか恋人とかそういう役割与えられるの好きじゃない。彼女だから当然とか彼氏ならこうしてとか要求したくないし。だから興味ない」

なんてことを早口で言った。

 単純に、彼に「ないですね」とか「無理です」とか目の前でバッサリ言われたくなかったから。

 彼はそういう場面でも笑って流すとかできないし、真顔で私を拒絶しそう。さすがにそれは辛い。だから私は彼に何も言わせないために、そんなの望んでないなんて嘘をついた。

 ただただ傷つきたくなかっただけ。逃げただけ。

 なのにポンコツ男子はそんな私の気持ちなどまるでわからず、平気で私を傷つける。

「僕、三年になったらゼミ始まるから、そこで可愛い彼女でもつくろうかなぁ」

 そしてニヤニヤ笑っている。

 もうこの辺から私の記憶はあいまいだ。

 ミワが合流した時には、私はすでにけっこう飲んでいた。

 彼の無神経な言葉に私は相当傷ついた。

 店を出る時にはもうへろへろで、私はミワに抱きついていた。
 外の階段はとても降りられない状態。

「ミワさん、僕が……」

 そう言って、彼は私を抱きよせた。

 そこはなんとなく覚えてる。

「さわんないでよ、そっちが悪いんだからね。なんであんなにひどいこと言うの?」

「はいはい、ごめんなさい」

 そんな感じだったかも。

 タクシー乗り場まで彼にもたれかかって歩いたのは覚えている。そして私をタクシーに乗せようとしたらしいけど、私はもう半分寝ていて住所を言わなかったらしい。

 結局誰かがタクシーに乗らねばならないということになり、羽田が彼をタクシーに乗せたという。

 そのあと、私はどうやって家に帰ったかもよく覚えていない。

 覚えているのは彼が私より先に帰ったということ。

 だからバイトで会った彼に

「私を置いて帰ったよねー」

と言ってみた。

 軽い口調で言ったのに、彼は怒った。

「置いて帰ったって何ですか! あの後、僕がどれだけ心配したと思ってるんですか!」

「ご、ごめん」

 まさか怒ると思わなかったから私は謝ったけれど、そもそも私が酔いつぶれたのはポンコツ王子の無神経発言によるものだ。

「でも、あれは君が悪いんだからね! ゼミで彼女作るとか言うから! だからあんなに飲んだんだよ!」

 はっきりいって、別に付き合ってるわけでも何でもないのにうっとうしいぐらいの彼女ヅラ。

 「あなたに関係ないでしょう!」と言われてもおかしくないのに、彼はそうは言わなかった。

「ごめんなさい。でも、あんなの冗談じゃないですか」

「冗談でもひどいよ! でも私もごめん。心配かけてごめんね」

「いえ、僕も悪かったです」

 そうやっていつもの仲直り。

 私たちって本当になんなんだろう。

 友だちでもない、恋人でもない。

 そしてもう、きっと「お母さん」なんかじゃない。

 

 

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