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超年下男子に恋をする㊽(彼はやはり雛鳥で背を向けてもまだ鳴いている)

 彼が辞めてから、彼のお別れ会をやることを知った。

 彼と一番仲が良かった私は誘われてはいない。
 企画したのはマウント女子高生カリン。私はこれをミワから聞いた。
 ミワは私が行かないなら行かないと言ったけど、彼のお別れ会がなくなるのは気の毒なので、行ってやってと頼んだ。

 メンバーは男子は彼、リョウ、カイの三人。女子はミワとカリンの二人。ミワがいなければカリンは誰とも話せない。だからカリンは必死にミワに来るよう頼んだらしい。

「山田さんがシフトの日にやろうって自体、悪意ありますよね」

 ミワはそう言うけどカリンは彼の都合に合わせたと言っているという。

「つまりそれって私いなくてもいいって彼も思ってるんでしょ」

 最後の挨拶もされず、お別れ会まではずされて、私はかなり傷ついていた。

 それでも私は彼に『進撃の巨人』の新刊を借りてたので、彼がバイトの制服を返しにくる時にでも返そうと思ってたけど、来ると予定してた日になかなか来ない。

 彼の好きなおやつと一緒に袋に入れて休憩室に置いておいたりもしたけれど彼は来ない。

 なんなら私が家まで返しに行ったついでに制服も預かろうかと提案したけど返事もない。

 そう連絡した直後に彼はバイト先に姿を見せた。
 それも日曜日の忙しい時間。その時間に来るとはさすがポンコツ王子。

 私はその時レジにいた。

 その時裏にいたミワに

「来たよー」

と言って現れた彼はご機嫌だった。

 ミワは私のところに来て「来ましたよ」と言ったけれど、私は複雑な気持ちで「へー」とそっけなく返して、レジも交代しなかった。

 彼はもどかしそうにこちらに来て

「山田さん!僕来ましたよ!」

といつものはにかんだ笑顔を見せる。

「あー久しぶり。今日来るって知らなかったから漫画持ってきてないよ」

そう言うと

「そんなのいつでもいいのに。それより山田さんお別れ会来ますよね!」

 彼はニコニコと笑って言う。

「行かないよ。バイトだし」

「えーっ!なんでですか?なんで来ないんですか!」

 彼は大声をあげる。

 私は無視してレジを打ち続ける。

 彼はなかなか帰ろうとはせず、裏でせっせと手伝っている。

 古参のパートの人に「まだいたの?帰りなさいよ」と邪魔にされても、彼は私が裏にくるのを待っているのかなかなか帰ろうとしない。

 そしてやっと手があくと、

「山田さん!じゃ、二次会からでも参加してくださいよ!バイト終わってからでいいから!」

と彼が必死に裏から声をかけてくる。

「行かない」

 そう言って私は彼に背を向けた。

 彼はどこかしょんぼりした。
 凹んでたのはこっちだというのに。

 でもこっちの気持ちをわかれと言っても彼には無理な話。そもそも何もしないでわかってもらおうなんてただの甘えと怠慢だ。本当にわかりあいたい相手なら、そこは努力するべきところ。

 私はいつだって彼とは誠実に向き合ってきた。たとえ不機嫌になっても、彼がわかるようにきちんと理由を伝えてきた。だから今回も私は彼に伝えた。

 そもそも私は以前から約束してた健との飲み会も彼都合で2回も延期にされたし、名古屋飯一緒に行くのも断られたままでいつ行くのかも決めてないし都合も聞かされていない。 
 なのになぜ今回騙し打ちみたいなことをしてきたカリンの企画には参加するのか。

 いつも私は後回しにされる。
 そのくせバイト終わってから来いとかなんなんだ。

 お別れ会のメンバーをあえて伏せたのもカリンの策略。そんなことにも気づかないで、私との約束よりもカリン優先はおかしいんじゃないのかと言った。そもそもこれはお別れ会とは名ばかりのカリンのための合コンみたいなものだと。カリンに狙われてるということまで教えてやった。これはカリンへの報復だ。

 もしかしたら私は彼のお母さんと似たようなことやったのかも。「あんた狙われてるよ」って彼の警戒心を高めて邪魔な女を寄せ付けなくするみたいな……。

 だいたい同じ狙われてるとわかっても、私じゃなくカリンのためには時間作るのかと思うと腹が立つ。まあ、「お別れ会」と言われたことと、私も来ると思ってたのだから、この場合比較にはならないけれど。でもカリンの度重なるマウントですっかりやさぐれてた私は、結局若い子が誘えばほいほい行くんでしょなんて思ってた。

 ところが……

 彼は突然、私のシフトの休みを聞いてきた。お別れ会の前日は私は休み。それを言うと、

「二人でやりましょ、お別れ会」

と彼の方から誘ってきた。

 同情なんていらないと思ったけれど、私も彼のお別れ会をしてあげたい気持ちはあった。

「いいよ、何食べたい?」

 こうして私たちは二人で会うことになった。

 二週間前からスケジュール帳に書かないと約束できないという彼が、突然週末に時間を作ってくれたのは初めてのこと。

 そしてこの後、私は大きく選択を誤ってしまうことになる。

 

 


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