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【シリーズ1】ドクター・フー感想:12話目【9代目】

初めに。この記事はとにかくドクター・フー 新シリーズ1の感想をゆるっと語るだけのものです。深い考察や裏情報・昔からの根強いファンが書いたものではありません。『ドクター・フーおもしろ!他の人の感想も読みたい!』と思ってググってみても、なかなか探し当てられずもやもやして、仕方なく自分の感想を吐き出すことにした次第です。どこかにシリーズ1の感想を書いておられる方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。読ませてください。よろしくお願いします。 

・Bad Wolf
 邦題「バッド・ウルフ」

 とうとうシリーズ1もクライマックス。最終回・前後編の前編となります。タイトルは満を持しての『バッド・ウルフ』。
 この前編、特に序盤が、もうとにかくめっっっちゃくちゃ怖い。初見の際も早い時点で『なんかやべえな』という空気を感じ取っていました。じわじわと視聴者の恐怖を煽っていく描写が堪らない。

●冒頭からばらばらに引き離されたドクター・ローズ・ジャック
 7話【宇宙ステーションの悪魔】の回想を流した後『100年後』のテロップが入り、そして物語が始まったかと思えば、ドクター一行はそれぞれテレビ番組の収録現場のような場所で意識を取り戻します。
 ドクターは若者たちがルームシェアする番組、ローズはクイズ番組、そしてジャックがファッション番組。このあたり、最近の日本のゴールデンタイムでは見かけなくなった感じがするのでなんとなく懐かしい。ローズが引っ張り込まれた番組は『なんだこれ、ミリオネア?懐かしい〜』と初見のイメージで思い込んでいたのだけど、実際は『ザ・ウィーケスト・リンク』という実在するイギリスのクイズ番組が元ネタだそう。ちなみに調べてみたらミリオネアのほうもイギリス発の番組らしいです。
 ドクターとジャックの番組もそれぞれ元ネタがあるそうな。しかし、妙にサイケデリックな内装の部屋の中で、黒の革ジャン姿のドクターがまあ浮くこと浮くこと(笑)

 それにしても、いきなり全裸に剥かれても動じずに『やったね視聴率アップだ』と白い歯を見せて笑うことができるジャックの胆の据わり具合が凄い。彼の精神的なタフさはすでに幾度か描かれてきたとはいえ、何もこういった方面でも見せなくてもいいだろうに!(笑)
 Wikipedia先生によると、

当初制作チームはジャックの臀部を映像に映すつもりであったが、BBCの編集方針部門が介入し、2005年のシリーズで唯一このシーンを却下した。

 との記述がありましたが、製作側の『わかったよ、じゃあケツ“を”出さなきゃいいんだろ!』とばかりに攻めた撮り方が目立ちました。真正面に配置したマシン(衣服だけを消失するビームを放つ、エロ同人も真っ青の未来道具)で股間を隠すという熱意とこだわり。
 こだわる部分がおかしいだろ!

「ラキシコリコファラパトリアスから京都に行った。1336年の日本に」というドクターの台詞から考えるに、前回卵にまで戻ってしまったマーガレットは母星に戻され、スリジーン一家とは別の善き里親へと預けられたということかな。いい子に育ってくれ、マーガレット……。そのままターディスで生まれたばかりのベビー・ラキシコリコファラパトリアス人を育てるハートフル・コメディー路線に行っても良かったと思うけど。宇宙版フルハウスじゃん……
1336年の日本は南北朝時代に突入した時代ですね。室町時代の走り。後醍醐天皇と光明天皇がばっちばちにやり合っていた年では。そんな時に、渦中も渦中の京都に赴くとはさすがドクター一行。その頃の日本に欧米人がいたら、どんな扱いを受けたことやら。


●長いながいデスゲーム
 そうして三者三様にこれはおかしいぞ〜変だな〜と異常事態を認識しつつも、全員がとりあえず状況を受け入れてしまう。三人ともトラブルに慣れてしまっているが故の悪い癖とも言えるかもしれない。
 特にローズは、単なるクイズ番組だと思って普通に楽しんで大笑いしている姿で、他の参加者との温度差が酷すぎて視聴者はもうはらはらが止まらない。『2002世紀になってもウィーケストリンクやってるの?マジ!?』的な感じで、そんな番組に自分も飛び入り参加している現状がおかしくてたまらなかったのかな。あとみんなが真面目な顔して張り詰めた雰囲気になると、途端に笑いのハードルが下がることあるよね。そういう感じ?
 ドクターもローズも物語序盤で『ただのゲーム・ショーだ』『でもゲームだもの』といった台詞を口にしている。しかしすぐに、自分たちが参加しているのがとんでもないデスゲームだと気づくわけです。さらに、最初にサテライト5が登場した7話の原題は『The Long Game』。最初からこの脚本が繋がっていたのだとしたら、いや本当に、実に長いながい【ゲーム】です。
 そして、そのゲームの盤面を操っているのは『誰』なのか。

 ローズとクイズバトルをしたロドリックや、ドクターとハウスメイトになったベリースイートなリンダ、他のハウスメイトたち、さらにこのいかれた番組のスタッフたちを見るに、2001世紀から百年後の人類はどこか倫理観が薄く、退廃的で、ほんのりと死のにおいを纏っている。ディストピア的と表現してもいいのだろうか。死にたくはないけれど死に対する諦めも強く、また他人の生死に興味が薄い。恐らく、意識して興味や人間的な情をシャットアウトしておかなければ精神がもたないのかもしれない。意思とは無関係にデスゲームの参加者に選ばれ、拒否権もなく、自分の生死が娯楽とされ、その様子が地球人類のお茶の間に届けられている……なんて、想像しただけで頭がおかしくなる。だからこの時代・この世界の人たちは、あえて生死に対する希望を薄くして防御線を張っているのかもしれない。
 そんな終末的な環境においても、なんとか明るさを失わず生き残ろうとしていたリンダの前向きさは健気で好感が持てる。彼女も彼女でやっぱり倫理観はちょっとばかし終わってしまってはいるけれど、それでも当たり前に良い子で、優しく前向きで、とても素敵。

 事態の異常さ・危険さを理解し一気に緊張感を持つドクターやローズとは対照的に、着せ替え人形にされるのを割合楽しんでいたジャックも、いよいよ本気で『オモチャ』にされかけます。しかしそこは、百戦錬磨(色々な意味で)のキャプテン・ジャック・ハークネス。全裸でも慌てず騒がず、どこからともなく武器を取り出す。あからさまに画面の外に出ている腰から下。意味深な後ろ姿……。うん。ドコカラダロウナー
「コンパクトレーザー?」
「いったいどこから?」
 ほんとそれな
 しかし、そんなどうにも決まらないはずの状況でも、ばっちり格好良く決めてしまうところが、ジャックのニクいところ


●バッド・ウルフ
 どの世界・どの時代に行っても、ローズとドクターに付き纏う『バッド・ウルフ』。12話というシリーズがクライマックスに達した今回ではとうとうタイトルまでジャック(notハークネス)しちゃう。
 一体、この言葉が指し示すものは。

 さて、機転を利かせて脱出を果たしたドクター&リンダ。今いる場所がかつてのサテライト5で、現在はゲーム・ステーションと呼ばれる施設だと気づきます。この二人は大きな目と淡い色の瞳がよく似ていますね。ドクターとリンダのやり取りを見ると、実はほんのりロマンス展開もあったんじゃないかなあ〜と考えたりもしますが、とてもじゃないけどこの緊迫した場面では番組的に恋愛要素をぶっ込む尺も隙間もない。
 えっ『ドクターにはローズがいるだろ』
 ここは9代目ドクターとローズは、あくまで恋愛関係には至らないという解釈を推していますので!!!

 よろしく!!!!!

 ね!!!!!!!!!!!



「ここを抜け出せたらどうするの?また旅に?」
「さっさとね」
「……一緒に行っても?」
「……いいよ」
「邪魔しないわ」
「されてもいい。楽しいかもな」

フラグを立てるんじゃないよ!!!

 そんなベリベリスイートなリンダとの会話で、前回サテライト5を訪れた際に自分が後始末を投げっぱなしにして去っていってしまったせいで歴史が歪み、地球や人類の経済・文明が崩壊したことを知るドクター。
 はい、『これだからドクターは!!!!』案件
 さすがに焦りや自責の念が強いのか、再会を果たしたジャックの『早くしないとローズの命も危ないぜ』という軽口にも乗る余裕はない模様。そこで、声を荒げるドクターの感情をすぐに察して応援に回ってくれるジャックの頼れる仲間感よ〜〜〜! 一家に一人、キャプテン・ジャック・ハークネス。むしろジャックがいなくて今までどうやってやってこれたのか不思議なレベルで、ドクター一向に必要不可欠な存在となっている。
 ところで、ドクターとジャックが合流をした裏で必死に命懸けのクイズに挑んでいるローズは、当てずっぽうの口任せで『フェイス・オブ・ボー』と回答して正解を獲得し、ぎりぎりのところで死のカウントダウンを遅くしていたので、こんなところでもジャックは仲間を救っていたんですね……泣けるぜ(ちなみにクイズ序盤で別の回答者が『トーチウッド』と答えている箇所もある)。

 そうやってローズが何とか回答を引き伸ばしたお陰もあって、間一髪のタイミングで駆けつけることができたドクター一行。しかし、アン・ドロイドの攻撃から庇うように咄嗟に走り寄ってしまったローズは、ドクターたちの目の前で分解ビームを浴びて塵と化してしまう。
 このシーン、直前までは目の前に迫る死の恐怖に怯えていたローズが、自分を助けに来てくれた仲間を見て『彼らを助けるため』に思わず動いてしまうのがいいんですよね。どんなに恐ろしく絶望的な局面でも、誰かを助けるために咄嗟に体が動いてしまう。ローズ・タイラーが当たり前に所持している、心根の美しさと気高さですよ。
 しかしそんな最高のパートナーであるローズを目の前で失ってしまった、ドクターの衝撃たるや。
 骨すら残さず、ただの砂塵に成り果てたローズ(だったもの)を前にして、茫然自失の体で崩れ落ちる姿は、もうとにかく痛々しい。お喋りなはずの彼が一声も漏らさず精神的ダメージを受けているのと対比するように、怒りを爆発させて番組スタッフたちに突撃し、大声で喚き散らすジャックの激しい悲しみ方。彼もまた、ローズを大切に思っている仲間だったのだと痛感する。

 ローズを失ったショックで、逮捕後にどんな取り調べを受けても魂が抜けたように無言を貫くドクターに、心が壊れてしまったのではと本当に心配しました。……ええ、しましたよ。
 しかしそんな視聴者の心配も束の間。何の打ち合わせもしていないはずなのに、タイミングを図ってジャックと息ぴったりに牢屋を破ります(FooooooooooooOOOO!!!)このシーンの二人の呼吸の絶妙さが最高で、何度見ても拍手喝采してしまう。往年の相棒かよ……? 過度な馴れ合いはしないけれど、互いが互いのことをよく理解しているのだと窺えるのが本当に素晴らしいシーン。
 ジャックがターディスで過ごした時間は決して長いものではなかったかもしれないけれど、ローズともドクターとも、間違いなく確固とした絆を築いていたんだろうな。それをもっと見せてくれよ!!!スペースフルハウスinターディスをやってくれよ!!!

 そんなふうにスタイリッシュスパイ映画の一幕のように脱獄したドクター&ジャック&リンダが向かった先といえば、因縁のフロア500。もちろん、そこで働く番組製作陣は、もう戦々恐々ですよ。そりゃあ怖いよね、手負いの獣が一直線にこっちに向かってくるようなものだもん。
 しかし、あっという間にフロアを制圧したドクターの目的は、制作スタッフを皆殺しにしてローズの復讐を果たす……ではなく、あくまで黒幕の正体を掴むこと。物々しい銃で武装してきたとはいえ、それを本気でぶっ放すつもりなど毛頭ないのがドクターという男ですよ。10代目ほど大きくフィーチャーされてはいなかったけれど、9代目も知恵と口と、そしてほんのちょっと便利な道具(我らがソニック・スクリュー・ドライバー)でどんな困難も乗り切ろうとするのがいい。まあ10代目に比べると圧倒的に『暴力も時には必要だけどね』って主張しそうな雰囲気はあるけど(なんでだろうね。普通に2、3発くらいなら気に食わないやつ腹パンしてても違和感ないんだよ9代目)。
 その後、アーカイブ6に隠されていたターディスを発見したジャックが、その中に残されていたローズのデニムジャケットを目にして、悼むようなつらそうな表情を一瞬見せるのがいい。そしてここでもいい仕事をするジャックよ〜〜〜!

ジャック「出演者は宇宙のどこかに飛ばされたんだ。ローズは生きてる!」
 この瞬間、喝采して固く抱き合うドクターとジャックの溢れんばかりの喜び様よ。


●マスター
 五歳の時から装置に繋がれて、ただただゲーム・ステーションを機能させるためだけに生かされてきた『コントローラー』。同じ場所で働く者たちから人間扱いされることもなく、意思も感情もないと思われていた彼女だけれど、ひっそりと、何年もの時間をかけて、ただただ彼女の『マスター』を倒してくれる相手を求めていたんでしょうか。生きること自体が苦しみだったのかもしれない。彼女はただ解放されたかっただけなのかな。
 そして、人生の全てを賭けて探し求めていた存在……自分のマスターが唯一恐れる男『ドクター』を呼び寄せることに成功した彼女は、とうとう『死』という解放を得る。フロア500の青白い光に照らされてではなく、普通の少し黄みがかった光を浴びて映し出されるコントローラーの肌の青白さや色素の薄さに、如何に彼女が長い間、非人道的な扱いを受けてきたのかが窺えてつらい。こんなになるまでただ『使われ』続けて、そして最後は用無しになって殺されて。
 それでも、もはや彼女にとってそれは救いだったのかもしれない。悲しい。

 ところでフロア500の職員・ダヴィッチを見るジャックの目が怪しい。ドクターストップ(“口説くな”)が入ります。


「ダーレク艦隊の真ん中からローズを救い出し、その上、地球も救ってやる。そしてお前らの息の根を止めてやる!」
「ローズ。今、助けに行く」

 明かされた『マスター』の正体。
 因縁の相手を前に堂々と宣言し、真っ直ぐに相棒の目を見て、助けに行くよと誓うドクター。


次回:ドクター・フー シリーズ1・完

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