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【シリーズ1】ドクター・フー感想:6話目【9代目】

初めに。この記事はとにかくドクター・フー 新シリーズ1の感想をゆるっと語るだけのものです。深い考察や裏情報・昔からの根強いファンが書いたものではありません。『ドクター・フーおもしろ!他の人の感想も読みたい!』と思ってググってみても、なかなか探し当てられずもやもやして、仕方なく自分の感想を吐き出すことにした次第です。どこかにシリーズ1の感想を書いておられる方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。読ませてください。よろしくお願いします。 

・Dalek
 邦題「ダーレク 孤独な魂」

 邦題での副題『孤独な魂』が非常にいい。たった一人生き残ってしまったことに対する『孤独』でもあるだろうけど(この副題はドクターにも掛かっているのかもしれない)、自分たち以外の種族を全て根絶やしにすることのみを目的とした慈悲も何もないダーレク族はある意味で哀れで、孤独な存在であり、そしてローズとの出会いによってその孤独な有様に気づいてしまった……という見方もできて、胸が苦しくなる。孤独な彼にローズが寄り添うことで、最期にはダーレクは孤独ではなくなるというのが泣ける。そしてまた一人残されたドクター(彼もまた孤独な魂)のそばにローズがいるという図がいい。

 さて冒頭。ほんの数年先の地球に降り立つターディス。個人運営のエイリアン博物館。初見の際はもちろん気づかなかったのだけど、のっけから出てくるサイバーマンにうお!とびっくりしてしまった。『古い友……いや敵だ』と口ごもるドクター。9代目以前の話は知らないけども、やはり一口には言えない因縁があるんでしょうね。
 そしてこの回では、また別の因縁の相手と再会することになります。
 ところで9代目は、その少ない登場回数の割に『大勢の人間から銃を向けて取り囲まれる』という結構なシチュエーションに遭遇しすぎだと思う。

「女を見る目はあるな」
「ぶっ飛ばすわよ」
 ローズの間髪入れずのこの返し。さすがジャッキー・タイラーの娘である。


 暗闇の中、友好的に話しかけていたドクターが、相手の声を聞いて態度が一変、これまで見たことがないほど取り乱し、激昂し、溢れる怒りと憎しみで今にも決壊ぎりぎりになる様に、シリーズ初見勢はかなりびっくり。これまでドクターがちょっと声を荒らげたり、張り上げたりすることはあっても、これほど激しく激昂するのは初めて見るので本当に驚いた。まさかあのドクター(しかも常に飄々として幾分か落ち着いた印象の強い9代目)が、ここまで感情を乱すことがあるなんて。それほど、とてもじゃないが冷静にはなれない相手なのだと視聴者も想像が及ぶのが、これまでの5話の積み重ねの賜物。
 そして、今シリーズ初登場のダーレク。ドクターの最大の宿敵、一族の滅亡にこれ以上なく深く関わった因縁の相手。そのやり取りで、2話から示唆されていた、たった一人生き残ってしまったドクターの身の上をさらに深掘りして知ることができる。
 ダーレクとドクター。互いに生き残ってしまった、同じく孤独な存在。似ているなと一族の仇に言われて激昂した後、そうだなと表情を変えて同意し、ダーレクの口癖である『抹殺だ!』をそれはそれは楽しそうに口にするドクターの、あの今にも壊れてしまいそうな笑顔よ。狂気を帯びているし、嬉しそうでありながら、泣きそうにも見える。
 その後『ダーレク以外で、宇宙で【唯一】のエイリアン』ということで、拘束されてなんだか妙にエロ同人ちっくなノリで検査(拷問?)を受ける羽目になるドクター。エクルストン氏の上裸が拝めるのはここだけ!(たぶん)
 ドクターに心臓が二つあることが明かされるのは、シリーズ1ではこの回が初めてかな? 謎ビーム照射されて身悶えして苦しむドクターだけども、具体的にあのビームはどういうものなのかちょっと不思議。やっぱり痛いの?

 一方、ドクターとは別行動で、イギリス人のイケメンのもてなしを受けているローズ。
 前回あれだけ尽くして助けてくれたミッキーを残して冒険の旅に出発したローズが、出向いて早々知り合ったばかりの男とちょっといい感じになることに、初見では動揺しまくって耐えられなかった視聴者。ローズ!ローーーズ!待ちなさい!ミッキーは!?ミッキーはどうしたの!
 しかしこんなどこの馬の骨ともわからん男とちょっとキャッキャウフフしつつも、見知らぬエイリアンに加えられる非道な行いにはすぐさま助けなきゃ!と行動できるのがローズの魅力であり、強さだとしみじみ。

 ここのダーレクの恐ろしいところは、憎悪と殺意しか持ち合わせていない冷酷なキリングマシンでありながら、頭の良い搦手も使えること。拷問で衰弱していたことは間違いないにしろ、素肌を露にした姿で現れたローズ(生きた細胞・DNAを得られるチャンス)を前にして、殊さら哀れっぽく、同情を誘うような物言いをしたのは、おそらく彼女が自分に触れるよう誘導したんでしょうね。そこで一気に力を回復し、拘束を解き、形成を逆転させる。
 この時のローズの行動はまあ~確かにやらかしではあるけれど、あのローズ・タイラーが弱りきって一人で死に行くと絶望している相手を前にして、触れて慰め助けてあげようとしないはずもないので仕方ないかと。
 またこのローズの痛恨のミスが、最終的にダーレクの失敗にも繋がるのだから面白い。

 こっからのダーレクの無理ゲーレベルの強さがえげつなくて、初見の際はほんと引きました。ドン引きですよ。いや強すぎやろ。妙にゆっくりした動きが、ずっとペースを落とさずどこまでもどこまでも追跡してくる怖さよ。
 大勢に囲まれて一斉射撃を食らってもびくともせず、スプリンクラーを発動させ辺りを水浸しにした後、自分は空中に浮遊し、ビーム一発で全員を感電死(たぶん)させる効率の良さ。恐ろしく巧み。さすがは抹殺だけを目的にする存在。
 愚かな人間が人知の及ばぬ危険な存在を解き放ってしまって災厄に見舞われるのはよくある展開だけど、まんまこれですね。

 しかしそうして本能としての抹殺を遂行した後、自分ひとりを残して一族が滅亡してしまったダーレクが、ドクターに『どうすれば?』と尋ねる、このシーンの物悲しさよ。宿敵に対して助言を求める、そうしてしまうほどに追い詰められ、心細くなっているのだろうな。
 しかし、宇宙でひとりぼっちになってしまった悲しさ、つらさを唯一理解できるはずのドクターから返ってきたのは『自殺しろ』という無慈悲な一言。彼の境遇を考えれば当然ではある。その返事に、ダーレクは一瞬の無言を挟んだ後『お前のほうがダーレクらしい』とこれまた痛恨の一言。たぶん、ドクターにとっては最も言われたくない、忌まわしい言葉でしょう。
 この回はドクターが過去に負い、そして今もなお生々しく傷が残るトラウマに向き合うことになるお話なので、普段のドクターからは想像もつかないほど激昂するし、冷酷なことも言いまくる(実は1話の時点で口は悪いし切羽詰まるとすぐ感情が昂る性格ではあったのだけど、たいていのピンチはファンタスティック・スマイルで楽しげに乗り越えてきたので、やはり意外の感が強い)。それだけ彼の憎しみと悲しみが強いしるしであり、この後のローズの情の深さと優しさが光る、上手い塩梅。

「あなたのせいじゃない。私は後悔してない」
 ひとりシャッターの外に取り残され、死を前にしたこの局面で相棒に向けてこの台詞を言えるローズ・タイラー、まだ19歳という驚愕の事実。
 この後、ドクターが明らかに八つ当たりとわかる様子で周りの人間に当たり散らすのも、『自分が悪いとわかっていても怒りと悲しみの捌け口を求めて暴れているのだ』とこれまでのダーレクとのやり取りで察することができるのがまたつらい。

 混乱したダーレクが口にする「汚染された」というのは、つまり憎悪と殺意以外の感情を知っ(てしまっ)たということで。
「なぜお前は生きている?」
「殺すことが本能なのに」
「私はどうなったのだ?」
 愛じゃよ……愛を知ってしまったのじゃよ……


 さて、非道な拷問を続けてきた憎きヴァンを殺そうとするダーレクを、必死で止めるローズ。
「他にしたいことは? 欲しいものはないの?」と訊く。話題を逸らすという理由もあっただろうけど、ローズの様子はあくまで真摯で、助命の嘆願ではなく、ただダーレクの望みを知りたいという純粋な気持ちが窺える。ビリー・バイパーの熱演が素晴らしい。
 その問いに少し考えた後「私は…自由が欲しい」と明かすダーレク。もしかしたら『自由が欲しい』と思うことさえ初めてだったのではなかろうか。ローズとの出会いが、抹殺にしか興味がなかったダーレクを変えていっている。

 ローズのDNAを得たことで恐らく精神的に変化が訪れたダーレクは、自由を欲しがり、陽の光を浴びてみたいと欲するようになる。とてもありきたりで、当たり前の生き物としての欲求。それは彼に感情のようなものが芽生えた証ではないだろうか。同時にその事実は、想像もできないほどの苦痛と自己嫌悪を知ることにもなる。
 ローズのおかげで、ローズ(人間)と同じように愛や優しさや情のようなものを得たとしても、ダーレクである彼(彼女?)にはこれまでの生き方を変えることはまず不可能だろうし、過去に行ってきた惨い凶行がなくなることもない。感情を持ったまま生きていくにはあまりにつらい状況で、だからこそダーレクは自殺の命令をローズに望んだのだろう。
 ところであのバカでかい胡椒の容器みたいな見た目の中にいたのがでろでろの触手脳みそモノアイモンスターだったら、私だったら悲鳴上げてるとこなのでやっぱりローズの胆力やべぇ。

 一方、ローズを守る・ダーレク殺す! と息巻いて武器持って駆けつけてみれば、その両者が妙に親しげにしているものだから、ドクターももう頭のなかぐちゃぐちゃになっただろうな。
 このシーンでの三者の台詞は言葉のキャッチボールとはとても言えないもので、各々が好き勝手に思ったことを口にしている。軽く錯綜するようなその中で、ドクターは憎き仇の変化を認めざるを得ず、そしてその変化の意味を知るが故に『気の毒』と評する。
 『あなたは変わろうとしている?』とローズに問われるドクター。彼もまた、ローズに変えられていっている一人なのだ。
 この質問に、涙を堪えるように何度も言葉に詰まって『ダメだ』『僕は…』と言い淀むドクターの混乱と悲しさが見える。

 心を持たない人外の存在が、思わぬところで感情を得て、悩み戸惑い苦しむというのが本当に堪らないんだよなあ。美しくて悲しくて、ぼろぼろに泣いてしまった回でした。
 孤独な宿敵同士であるドクターとダーレク。心を知ってしまったダーレクは死を選び、ドクターはまた、ある意味で執着の先を失い一人になる。そんな彼に寄り添い『私はどこにもいかない』と、最もドクターの心を慰撫する言葉をくれるローズ……尊い……一生二人できゃあきゃあ言いながら旅をしててくれや……。
 なんて思っていたところでおじゃま虫が追加されるんだから、もう!
 このイケメンくんも、ヴァンも、その秘書も、どこかのタイミングで死んでもおかしくないなと(なぜならこの番組はドクター・フーなので)気を引き締めながら視聴していたのだけど、結局誰も死ななくてほっと一安心。その代わり200人以上のモブさんがダーレクによって殺害されました。モブ厳。

 こんな物悲しく切ないダーレクの滅亡を描いておきながら、次シーズンからも準レギュレベルで再登場を重ねることになるなんて、ほんと思いもしなかったよね!!!涙を返してくれよ!!!

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