見出し画像

日本ジャーナリスト会議賞受賞に思う「人の不幸」の取材

《受賞御礼》

 財務省近畿財務局赤木俊夫さんが死の間際に書き遺した、公文書改ざんの実態に迫る「手記」を公開し、真実を知りたいと国などを相手に裁判を起こした、妻の赤木雅子さん(49)。忘れられかけていた森友事件に世の関心が再び集まりました。

 その赤木雅子さんと、手記を報道した私に連名で、日本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞)が贈られることになりました。 受賞決定を受けて大変多くの方からお祝いのメッセージを頂戴しました。さらには先に私が酒で大失態を演じた時にも多くの方からお叱りと励ましのお言葉を頂きました。深く感謝致しております。この場をお借りしまして、祝福と叱咤激励を頂きましたことに、あつく御礼申し上げます。ありがとうございました。

画像7

《報道される側が受賞する意味》 

 赤木雅子さんは報道する側ではなく、される立場です。報道される側の赤木さんがジャーナリズムに対して贈られる賞を受賞することの意味を私は深く感じています。

 2年半前に夫の俊夫さんが亡くなった直後、赤木さんの周りにはマスコミの人々が群れをなして集まりました。まさにメディアスクラムと言える状況に赤木さんは心底から恐怖を感じたそうです。それは夫の手記の公開まで2年かかる一因にもなりました。

 マスコミの遺族取材のあり方に、赤木さんは大きな疑問を抱いています。その目線は、連名で受賞する私にも向けられています。私は「報道する側」であって、「報道される」赤木さんと同じ立場にないからです。

画像10

[7月15日、大阪地裁正門で弁護団の入庁を待ち構える報道陣]

《人の不幸を取材してきた私》

 私はNHK時代、主に社会部畑を歩み、事件事故を中心に取材を重ねてきました。これは多くの方の「不幸」を取材してきたことに他なりません。

 神戸局時代、6434人の方が犠牲になった阪神・淡路大震災(1995年1月17日)。大阪局時代、107人の方が亡くなったJR福知山線脱線事故(2005年4月25日)。ご遺族にしてみれば「人の不幸を飯の種にしている」と言いたくもなると思います。

 これほど一度に多くの犠牲者が出る災害や事件事故ではなくても、1人が亡くなる交通事故の原稿も山ほど書いてきました。亡くなったお一人お一人、ご遺族お一人お一人にそれぞれの人生があり悲しみがあります。でもそこに思いが至るようになるまで、ずいぶん時間がかかりました。

画像9

[32年前、山口局の新人記者時代の私]

 NHK大阪でデスクとして泊まり勤務中に、そういう死亡事故の原稿を巡り、若手記者と丁々発止の激論を交わし、最終的に双方納得の上ニュースにしたことを思い出します。詳細は覚えていませんが、なぜこの事故をニュースにするのか? どこに着目して見出しに取るのか? という意見のやり取りだったと思います。 マスコミの人間は時にこういうよくある死亡事故を「何てことない」とみなしてネグる(ニュースにしない)、もしくは軽く定型原稿にしてお茶を濁すことがあります。しかし当事者やご遺族にとって「何てことない」事故などありえません。それを感じ取れる記者、生きのいい魂を持った記者だと感じました。

 私は何千何万という方の不幸を取材する中で、記者として形作られてきました。その延長線上に、赤木雅子さんと俊夫さんの事件があります。お二人の苦しみ、悲しみ、憤りがあり、様々な思いが交錯し、葛藤があって、手記の公開、提訴に至りました。そして裁判の開始にあわせて共著「私は真実が知りたい」を刊行しました。

画像11

[共著「私は真実が知りたい」を手にする赤木雅子さん]https://www.amazon.co.jp/dp/4163912533

 受賞決定後、赤木さんからLINEが届きました。「私と相澤さんが一緒に受賞といってもスタートもゴールもまったく違うし。同じ道を歩んではないですよ。私の悪夢は3年前からずっと覚めないままです

 3年余り前、赤木俊夫さんが近畿財務局で公文書の改ざんをさせられてから、赤木雅子さんの悪夢は続いています。そういう中での受賞、人の不幸を取材し続けた結果の受賞なのだ、という事実を忘れません。

画像10

[7月15日、初の法廷を終えて夫の遺影と大阪地裁を出る赤木雅子さん]

《新たなテーマへ 「不幸」と同時に「幸せ」も》

 森友事件と、赤木雅子さんの裁判。赤木さんの「私は真実が知りたい」という闘いについて、私はこれからも取材を続けます。それはNHKを辞める時の決意でもあります。社会問題全般について取材を続けるつもりですので、これからも「人の不幸」を取材するということになります。

 ですが、時には「不幸」が絡まない取材もしたい。「幸せ」「楽しい」「大好き」「愉快」「素敵」な取材も。せっかく自由に行動できる新天地に躍り出たのだから、他のテーマについても取材の幅を広げたいと考えています。

 例えば、世の中を動かすのはビジネス。「お金を稼ぐ」ことは重要です。お金がなければ、どんな善意の構想も何事も実現できません。素敵で愉快なこともあるし、場合によっては人の幸せにつながることもあるでしょう。

 もちろん経済分野に精通している記者は大勢いらっしゃるので、そういう方々にかなうはずはありません。自分の視点でニッチで身近なビジネスの取材が隙間産業的にできたらいいなあと考えています。いくつかヤフーニュースで試行的に書きました。

【ローラのビームハイは国産ウイスキー原酒確保につながるか?】

画像1

 https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20190929-00144655/

【“消費者金融が恐れる司法書士”が断言「マイナス金利が多重債務を生む」】

画像2

https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20190719-00134899/

【“大阪の迎賓館”復活へ 豪華大絨毯 一夜ではり替え】

画像3

https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20190607-00129202/

 そして世の中を動かすのがビジネスだとしたら、人の心を動かすのは芸能芸術スポーツでしょう。これも「幸せ」「楽しい」「大好き」「素敵」につながります。それに近い分野の記事も書いています。

【日本のアイドルとたこ焼きはモンゴルで受け入れられるか?】

画像11

https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20190817-00138775/

【空手女子が「父の日」の魔法で「シンデレラ」に】

画像5

https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20190617-00130432/

 ビジネスも芸能も芸術もスポーツも、私があまり取材してこなかったテーマです。しかし社会問題と同様、人が極めて重要だというのはどの分野も変わりないと思います。大いに学んで視野見聞を広げ、人の「不幸」と「幸せ」の双方を見据えられる記者でありたいと考えています。

 これからもどうぞよろしくお願い致します。

画像6

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?