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忘れてください

30歳にして、たぶんはじめて本当の失恋をした。
別れてから2週間ほど経つが、いまは”本当”の意味するところを議論する余裕もない。
本気でマジの失恋だから、議論に意味すら見出せない。
アドバイスも改善点も聞いてない。
「ただただ、黙ってずっと話を聞いてほしい」
大好きだった人がよく私に言っていた言葉だ。相手の言葉にぼくは耳を傾けて、ただうなずくことすらできず、聞かれても求められてもない助言をしてはそう諌められていた。こんな気持ちだったのかな。別れて気づいたって遅いのにね。

こんな最低ないまをこれから乗り越えて、きっともっと魅力的な人間になりたいから、ここに今の気持ちを残す。
あまりに自分勝手な文章だけれど、少し思う。
いつかどこかでこの文章が、いまの私ときっとおなじ気持ちでいるあなたのなにかになったらいいと。
そうやって読んでから、泣いて怒って落ち込んで、たぶん数日たって落ち着いたら、ちゃんと前を向いて歩きたい。

恋愛に関するくだらない書籍や情報、ありきたりな言葉とメロディでうたわれたラブソングが巷にあふれかえっていることが嫌で嫌で仕方なかった。けれど、いまならわかる。
人と別れてしまうことは本当につらい。ひとりじゃとても耐えられない。
だからだれかに教えてほしいし、聞いてほしいし、なによりずっと隣にあった、いまはもうこれからずっとない共感がしたいんだ。
だからいつの世も恋愛は産業足り得るのだろう。

しかし、やっぱりそれでも納得できない。
この如何ともし難い痛さはなんなのだ。
うたをうたう気持ちになんかならない。他人の恋愛事情を見聞きしてこころの最も汚れている部分を潤す輩をおなじ人間とは思えない。
繁華街を行き交う多くの人たちがこんな痛みを経験しながら、それでも平気な顔で働いたり笑ったりしている意味がわからない。いかれてると思う。

なにものにも代え難いこの気持ちに名前はあるのだろうか。涙と一緒に流れて消えてしまえたらどんなにいいだろう。相手のことも思い出も、ぜんぶ忘れてしまえたらどんなにいいだろう。
けれど、泣いても泣いても、いくら泣いたってきっと消えない。
いまになっては厄介な強度である。それだけ私が相手に真剣だったという証明であるなら、いまはそれを反故にしたいぐらい。”愛はいれずみ”とはよくうたったものだ。だけど、きっとこれからもそうだろう。

おいしいものを食べたとき、それを分けてあげたいと思える人がそばにいない。
かっこいい曲を見つけたとき、これを一緒に聞いてくれる人がいない。
映画だって本だってそう。くだらない日常のあれこれだってそうだ。
私の日常に愛した人の感性がこれからはちっとも介入しない。
いまは、こんな現実に立ち向かう勇気がまるでない。

別れた次の日、世界がなにごともなく続いている現実が理解できなかった。
私たちが終わったんだから、当然のように世界も終わってほしかった。
街には普通に人が歩いていて、コンビニが営業中で、異常に暑い夏が続いていた。そんななか私が世界にとって異物である様子もない。
ふざけんなと思うぐらい日常は平常運転で、実感としてちゃんとここに独我論の限界を感じた。

これから、この失恋による痛みが私をどうこうするのだろう。通説ではそんなふうに書かれていることがお約束だ。
これからもっと自ら感じなきゃなと思う。建前はそうだけど、本当はもうマジでどこか遠くへ逃げてしまいたい。怖くて怖くて仕方ない。

あたまでわかって、こころでわかろうとして、からだが涙を流してそんな現実を拒否する日々だ。けれどちゃんと向き合うほかない。
関係が終わることの生々しさを無視するようでは、いままでとおなじだから。

振り返っても相手はいない。もうどこにもいないのだ。来た道を戻って仲直りができたなら、きっとこんなことにはなっていない。
思い出をなぞって、そのたび郷愁にふけっても、きっと私は変わらない。進まないといけない。そう思う。
なにか夢中になれるものを探そう。仕事でも趣味でも、いまはとても考えられなくても、それが恋愛だっていいはずだ。
大好きだった人となんでも共有していたことを、これからはひとりで経験する。そんな積み重ねが私をここからどこかへ連れて行くんだろうと思う。そしてそれは、きっと相手もおんなじだ。

別れることが”いっしょにいた場所からお互いが出ていく”ことなら、私はそろそろここから出ていかなくちゃならない。
いつまでもこころの弱い自分を”いやちがうね”とごまかすことをやめる。
30を超えて未だちっぽけでどうしようもない自分ときちんと向き合おう。
別れをきっかけにすることはあまりにダサいけれど、こんな思いをもう2度とだれかにさせないようになろう。
”私にとってはあなたしかいない、ということもない”という現実を否定するのでなく受けいれよう。
そのうえで、これから進んだその先でまたばったり出会えたら、そのときはいま思ってることを笑って話せたらいいなと思う。

だけどいまだけはもう少し。
もうちょっとだけちゃんと痛がってようと思う。5年間いっしょにいたこの場所で。

P.S.
このMVのあがったのがタイムリーすぎて、マジで自分のことをうたってるのかと思ったよ。ちょろいね。
https://www.youtube.com/watch?v=J_DE2d1F9wU

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