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落語

そういうわけで、今日の好きは落語。

まず落語について軽く書こう。・・・と思ったが、私が書くよりもWikipediaのほうがわかりやすいのでこちらを参考に(笑)していただくとして。

落語を初めて聞いたのは、今から23年ほど前。17時から25時までの準夜勤が終わって帰宅した夜中だった。NHKラジオ深夜便を低音量でかけながら寝る支度をすすめて布団に入った3時頃。「つづいて深夜寄席のコーナーです」と聞こえてきた。落語は聞いたことが無いけど夜中だしガヤガヤうるさいことも無いだろうと、ラジオはそのままに室内灯を消して布団をかぶった。

静かに聞こえてきたのは、鈴々舎馬風「禁酒番屋」だった。

とある藩で、酒席のうえの揉め事から刃傷沙汰があった。これに怒った藩のお殿様が武士に禁酒令を出した。でも酒好きな武士は必ずいて、バレないから屋敷に酒をもってこい、と馴染みの酒屋に言いつける。困った酒屋はなんとか届ける事を決めた。お屋敷までの間に番屋があり通行人の荷を検められるから、そこさえ突破できれば、と、丁稚や番頭みな総出で策を練る。「酒ではない他のもの」だと偽って行くが、運んでいるのは酒だとバレてしまう。貴様らが運ぶその荷物が酒ではない事を確認せねばならん!と荷を解かれ酒を呑み干されてしまった。これを何回か繰り返した後、ただ呑まれるのは悔しいと、最後の策を講じて番屋にやってくる。

はなしが進むにつれて、番屋の当番さんが酔っ払ってくるのが可笑しかった。仕事疲れと眠気、夜中のテンションが混じって、声を出して笑ってしまった。落語とはこんなに楽しいものなのかと初めて気づいた夜だった。

それから15年くらいして、朝の連続テレビ小説で「ちりとてちん」の放送があった。落語をモチーフにしたドラマだ。毎週ひとつの演目がベースになって話が進む。月曜に出てきた伏線はその週の金・土で回収され、そして必ず泣かされる展開。もう面白くて、作中に出て来る演目の落語をチェックするのが日課になった。そうしているうちに落語のある暮らしが楽しくなった。有料の落語動画サイトに登録したり新宿池袋浅草の寄席、笑点で馴染みの落語家さんの落語会に出かけるようになった。そうして色々知った。

同じ演目でも、演る方が違えば感じ方もまったく違う。「寝床」なら、十八番にしていた古今亭圓菊師匠のが一番楽しい。義太夫節のあたりがなんとも言えず可笑しいのだ。古今亭一門は他にも代々十八番とする演目が他にもあった。「火焔太鼓」がそうだった。

上方でしか演らないものもあった。有名なものだと「崇徳院」「たちぎれ線香」など。上方では「ちりとてちん」だけど江戸だと「酢豆腐」になったりするものもある。上方といえば、上方はあんなに賑やかなのは祭りや往来で人々にこちらを向いてもらうために見台を叩いたり声を張ってる(諸説あるんだろうが)ことも知った。対して江戸落語は静かな室内で演る事が多いので見台などは要らない。聞こうと思って集まってくれているから注目させる必要が無いのだ。

そんな感じで、落語のことを知っていき、次第に落語家さんの数だけ演目のバリエーションがあるんだと気づいたから、色々な落語家さんで同じ演目の聴き比べもしてみた。話し方、声、間、サゲ(演るひと、教えてくれた師匠によって少しずつ違う)などすべてひっくるめて一番気楽に聞けて心地いいなーという贔屓にしたい落語家さんも見つかった。

落語を聞き続けて11年。今までで一番、ああ素晴らしいな!と感じたのは、桂歌丸師匠「竹の水仙」だ。これは何度聞いても清々しく気持ちがいい。

ボロい宿屋を営む夫婦のところに一人の客が来る。毎日酒を呑み山海の珍味を味わい寝るだけの、非常に不審な客。そろそろ金を払って欲しいと頼みに行くと、金はない、と威張る。ようやくいらしたお客様が一文無しだったなんて!と怒り嘆く亭主。裏の竹林で竹を数本切り倒すよう頼み、切った竹を抱えてまた部屋に篭ってしまった。次に呼ばれて行ったら、竹細工が置いてあった。これを同じ竹で作った花立てに水を張り竹細工を浮かべたら宿の通りに面したところに置いておけ、そうしたら明朝には売れる。売れたら宿賃を払う。花立ての中の水は切らすな、と言い渡して、翌朝。事態は一変する。

女房に叱られている情けない亭主、ボロボロの畳の部屋、唯一お泊りになっているお客様の仕草、その方が作った竹細工の描写、それから、間。セリフとセリフの間の、目線や仕草、姿勢をゆっくり挟むことで生まれる間で、背景に竹林が浮かんで来るようて、ほんとうにため息モノだった。

そしてサゲがとてもきれいなのだ。このはなし、元は講談だった。天下の名工の名を欲しいままにした左甚五郎伝説を落語にしたものなので、いわゆる「サゲ」、「オチ」が無い。無いから、演られる落語家さんによって色々な「サゲ」が付け加えられている。聞いた事があるのは、左甚五郎が名工だと知ったことで、それまでの飲んだくれていた日々の酒の飲みっぷりをかけて「どうりでノミクチ(道具のノミにかけて)がいいはずだ」と言うケース、オチをつけずに人情噺として締めるケースがあって、歌丸師匠のはノミクチとは違うサゲだった。ちょっと考えを拡げないと理解できないサゲかもしれないが、理解できた時の清々しさったらない。

竹の寿命は数十年~百数十年と言われている。その寿命が尽きる間際に花を咲かせ枯れるという。株分けした竹は離れていても同じ株から育った竹は同じ時期に花を咲かせ、そして枯れるんだそう。で、このはなしを歌丸師匠は乗っていたタクシーの運転手さんから聞いて、コレだ!!と思いついたと何かで読んだ。そうして、竹の生態に左甚五郎が作った竹細工を引っ掛けたサゲになっている。とても静かできれいだと思う。竹林の中をサーッと歩いているような静かさもあってすごくいい時間だった。間の大切さ、品格、厳しさと優しさを持った方だったな。

落語を聞きたいけれどおすすめ教えてほしいと言われる時がある。顔も名前も知られている笑点メンバーの落語なら聞きやすいと思うから、桂歌丸師匠、春風亭昇太師匠、林家たい平師匠からすすめている。聞きやすい声だし楽しさにハマると思う。特に昇太師匠は新作もいいが古典の「権助魚」などは短くてすぐに終わるからいい。権助が買ってきた魚を紹介するところはもうたまらない。

寄席でもホール落語会でも、ネット動画サイトでもなんでも、この話が聞きたい!と思って選ぶのもいいし、そうじゃなくてこの落語家さんが聞きたい、その中で演目を選ぶ!というのでもいいと思う。そうして聞いているうちにハマっていくと思うから。ズブズブ…

笑点以外だと、柳家喬太郎師匠も楽しい。喬太郎師匠のばあいはとにかく途中が盛り上がる。人物の会話は今風で理解しやすい。とくに「時そば」がおすすめ。身振りも大きく派手で、あの高座の座布団からはみ出て演じられるのが楽しくて泣き笑いしてしまうくらい好き。「死神」は少し前、NHKでドラマ化された「昭和元禄 落語心中」で監修に関わっていて、迫力があって素晴らしい。新作落語もなさる。楽しい世界観で作られた新作落語もよい。

ほかにもたくさんのすばらしい師匠方がいる。五街道雲助、柳亭市馬、瀧川鯉昇、古今亭志ん朝、柳家さん喬、春風亭一之輔、古今亭菊之丞、柳家小三治、柳家三三、柳家菊之丞、桃月庵白酒、桂よね吉、桂枝雀、桂雀々、桂吉弥・・・。お一人ずつ感想みたいな事を書いていったら長編小説になってしまいそうだから今回は割愛させて頂くが、いずれの師匠も楽しくすばらしい落語を聴かせてくださる。

現役の師匠方で笑う一方、桂歌丸、古今亭圓菊、上方では桂米朝をはじめ多くの師匠方が鬼籍に入られた。色物の師匠方もだし、若くしてあちらに逝かれた方も多い。それでも落語は途切れる事がなく、日々、定席小屋では笑いが起きている。人生に彩りを与えてくれているわけで、もし落語に出会わなかったらどうだったんだろうか。インスタ映えにハマり流行りのお店に通ったりしたんだろうか。部屋は汚いのにインスタに映るところだけキレイにしてみたり、ファッション感覚で子犬を飼ってただろうか。ジムに通い身体を鍛えたり?まあ身体を鍛えるのそれはそれでいいかもしれないなあと思いつつ、だけど今日も落語を聞いている。

流行りのスイーツよりも落語がいい。



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