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樹のこころ

エネルギーが満ちているとき
空は明るく
とてつもなく肯定していて
たとえ
隣人が不機嫌な小雨だとしても
いっこうに気にならない

何かが足りないと
えらく自分の重力が気にかかっていると
空はどんより霞んでいて
肯定もしなければ
否定もしない
ただ曖昧に口を結んでいる

私の心模様は
幾度も
あの空にこだましていて
空は
何よりもその孤独を
受け止め
優しく還してくれる


足早に行き交う
人々の群衆に
ぬくもりは感じられず
それぞれが足りない欠片を
探していて
それが何なのか
誰もわからないまま
SNS上のアイデンティティだけが
地上と切り離された世界で
笑顔を振りまいている


都会の空が
わたしと
同じ言語を話していたのは
遠い昔の話だ


「それはただの逃避行だよ。」と
笑われても
夏のおわりに
大きな樹のそばで
真っ赤に熟れた
トマトをかじって
風になびく枝の吐息と
交わしたい

そうして
日が暮れるまで
いつまでも
諦観している樹の心根を
見つめていたい

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