「重力」
時間には
重さがある。
わしはこの森で
時間と対話して暮らしてきた。
だから君らの云う
虚無感の波に襲われたことも
無気力の雨にさらされたこともなかった。
何気ない暮らしの
ほんのひと欠片に
どれだけ重さを感じられるか
それが肝なのだよ。
にっこりと笑って
私にそう教えてくれたのは
この島の日影の森にひっそりと住んでいる
影法師だった
ひとつの生命として
この世に生まれる前から
時間は人々の心の中に宿り
姿を何処にも明かさず
ひっそり呼吸していた
植物や動物、微生物
あらゆる生命には
はじまりがあり
終わりがある
時に前触れもなく
唐突に
あるいはゆっくりと
着実に
終わりを告げる
ないがしろにした時間を
どんなに詫びて
後悔したところで、
時間は振り向きもせず
過ぎ去る
そうして
時間の重さを実感するのは
ひとつの季節のともし火の跡
時と静寂が契りを交わした
瞬間なのだ
ただ 君を想う
あなたとふたり
並んで歩く
ふたりの影も
並んで寄り添う
やがて
影はひとつになった
その瞬間を永遠に灯す
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