見出し画像

「波の音」

幾つもの糸が
絡み合って
心が窮屈になってくると
玉ねぎをみじん切りにしなくても
ささいな場面を見ているだけで
涙は溢れる

心は
ほんのひと握りの
戸惑いさえ
丁寧に拾い集め
消化しきれない量を
抱え込んで
働いている


なにがどう悲しいのか
なにがどうして沈むのか


子供の頃
夕焼け空の帰り道
道端で転んで
傷口から赤い血がにじんで
ズキズキ痛くなって
泣いた。
その悲しみは
手のひらに降りた白い雪が跡形もなく
溶けてゆくような
明快な理由だった

はっきりと掴めない
感情の枝は
大人と子供が
共存している
ひとりの人間の中で
伸びたり
縮んだりしながら
時折にょっきり
顔を出す


夕暮れ時の
静かな海が好きだ

寄せては返す波打ち際に
耳を澄ますと
いつかの微笑みを
取り戻すようで
いつまでも
ただ聴いていたい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?