ふわり

小瓶に詰めた物語をあなたに@fuwa_ri13

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最近の記事

他者を愛するということ

「愛するとは何ですか」という問いに、一度も上手く答えられたことがない。だけど「愛されるとは何ですか」という問いならば、ぼんやりと答えを見つけられる。頭を撫でられること、抱きしめられること、頬をこすりつけられること。呆れるほど、いつだって相手にして欲しいことばかり、頭に浮かぶ性分だ。 1年ほど前から、付き合っている恋人がいる。恋人は、私のことを「愛して」くれていると思う。だけど、求めればその分、好きだという気持ちをくれる恋人のことを、私が「愛して」あげられているかどうかは、正

    • さよなら恋人、もう会わないね

      見上げたけいくんの顔はよく見えなくて、ぶたれた頬が熱を持っている。あたしは何処かほっとしていた。後ろめたいこの関係に終止符が打たれたこと。愛液でぬめった恋愛が、タバコの煙に薄汚れた青春が、遂に「最後」を迎えようとしていること。人混みの中から、「こわあい」という女の声が聞こえた。けいくんは言った、「どうしてそんな風にしかなれないの」。あたしは答えた、「だってあたしはこんな風にしかなれないんだもの」。 一人目の彼氏は、付き合って一週間で暴言を吐いた。二人目の彼氏は、Hして一ヶ月

      • 0と100

         眠れないのは前職の頃から同じだけど、最近睡眠不足が加速して、自分が起きているのか寝ているのかわからない。24時間、気が付いたら仕事のことを考えている。「好きだから」の一言で片付けられてしまえるほど、それは些細な問題ではなくて、私の心も体もすべて、仕事に支配されていると言っても良い。  昔から何か一つのことにしかエネルギーを割けないタチで、それは私の美点でもあるけれど同時に大きな欠点でもあった。仕事が上手くいかなければ頭はそのことでいっぱい、恋愛が傾けば相手に心の比重すべて

        • 物語が好きだから

          文章を書くこと。わたしにとって、文章を書くことは、胸のなかにどろどろと渦巻いている感情を吐き出すためのたったひとつのやり方だった。世界から押し付けられる規範が怖くて、自分以外の人間と関わることが苦手で、狭くて暗い部屋のなかに引きこもって、鬱々とした黒い塊をキーボードの上に叩きつけてばかりいた。 自分の感覚を文章に落とし込む作業は、自傷とよく似ていた。自分の流した血の色を見て息を吐けるようになり、心のやわらかいところへ傷をつけるほどに精神が落ち着いた。さらに深く思考のなかへ沈

        他者を愛するということ

          女友だちへ捧ぐひみつの恋文

          わたしは世界一、きみのことが好きなのに。どうしてわたしは、わたしが女であるというだけで、きみの一番大切な人間になることができないのだろう? 多くの女の子に大切な友人がいたように。中学生だったわたしにも、とても好きな女の子がいた。 きみ以外の友人なんて、いらない。恋人も、家族もいらない。わたしはただ、きみとふたりでいられればそれでよかった。わたしたちはふたりでいれば、最高で最強だったから。 わたしたちは、光と影のように、いつも一緒だった。ハート型に折った手紙を回し合い、休

          女友だちへ捧ぐひみつの恋文

          zaregoto

          かれはわたしの 物語がはじまるのはいつも突然。超新星爆発、流れ星が東京に突っ込んできたみたいな偶然、UFOとか超常現象とかそういったものに近い現実に、眩暈がしながら埃まみれの世界にメガネをかけたら彼と目が合ってしまった。大体わたしはこんなことは予期していなかった。恋をするなら、きちんとした下着をいつでも身につけておかなければならない。何事も抜け目ない準備がきっと勝負を決めるのに。シャンパングラスの細かい泡がさらさらと溶けて、わたしの心壁を壊してゆく。三本電車を見送って終電を

          きっと何者にもなれないわたしたちでも

          「10点でも20点でもいいから自分の中から出しなよ。あたしたちはもう、そういうところまで来たんだよ」、映画「何者」に出てくる言葉だ。有村架純が口にしたこのセリフに、わたしは胸の奥を貫かれたような気がした。「何者」かになりたいのに、「何者」かになれない自分を直視することが怖くて、上から目線で誰かを批評する。そんな自分を真正面から否定されたような気がした。 かつてわたしは、「いつか王子様のような人間がわたしのことを認めてくれるシンデレラストーリー」を夢見るワナビだった。誰もがひ

          きっと何者にもなれないわたしたちでも

          きみの友だち

          公園の広場でシロツメクサの冠をつくったこと、きみは憶えていますか。朝の登校の待ち合わせは四つ角の郵便ポストの前で。下校のチャイムが鳴り響いたら、2年3組の下駄箱の前にダッシュ。憧れる先生のこと、クラスメイトのボスキャラのこと、幼い弟の泣き声が鬱陶しいこと。まるで統一感のない話をとりとめもなく話している内に、わたしたちふたりの長い影は長くなって、煮物の煮える匂いがする頃には、いつの間にかきみの家に着いていた。 右腕に残る体温を、「ずっと友だちだよ」と囁く声を、今も耳の近くに思

          きみの友だち

          旅行終わりのエモーショナル

          本当は旅行はそんなに好きじゃないし、人と長くいっしょにいるのは苦手だった。何もかも終わった後、一人でトランクケースを持って歩く帰路が頭に浮かんでしまうから。 ゴールデンウィークは有休をつなげて9連休で、その殆どをわたしは恋人と過ごした。わたしは恋人と一緒にいてもさびしいくらいなので、(むしろそっちの方がさびしいこともある)、最終日は朝からずっと今夜さよならが来てしまうことに怯えてばかりいた。情緒不安定は治ったと思っていたのに、どうやらわたしの悪癖はまだまだ健在らしい。 誰

          旅行終わりのエモーショナル

          依存からの脱却の物語−「リズと青い鳥」感想

          あの頃、いちばん近くに居た友達だけが、わたしの世界だった。学校という閉鎖空間の中で、寄り添うように側にいたあの子の顔を、もう思い出すことができないのはどうしてだろう。女ともだちがいちばん大切な存在である期間はとても短くて、あっと言う間に彼氏や子どもと順位がすり替わってしまうのはどうしてだろう。 「リズと青い鳥」という映画を観た。「けいおん」や「たまこマーケット」をつくった山田尚子監督の作品ということで、当然ながら「女の子の密な関係性」を期待して劇場に足を運んだのだけれど、「

          依存からの脱却の物語−「リズと青い鳥」感想

          終わらないで今日、忘れないで明日

          瞬間的な幸福はやがて流れゆく記憶だと分かっていても、いつまでも消えずに胸の中で光ってほしいと願ってしまうことがある。例えばそれは私にとっての今日のような日。人の名前を聞いた瞬間に忘れてしまうくらい短期記憶力のない私が、百年経っても覚えていようと自分に誓いたくなるようなふつうの日。 気温が高く日差しの強い夏日だった。恋人と久しぶりに駅で待ち合わせて、手をつないで歩いた。水族館は親子連れでごったがえしていて、ぬいぐるみを買ってもらえない子どもが全身をつかって泣きわめいていた。マ

          終わらないで今日、忘れないで明日

          眠れない夜のこと

          毎週日曜日の夜は眠れない。眠れない夜というものは不気味だ。1DKの部屋が、随分広々としたものに感じられる。目を閉じることは無意味で、永遠のような闇がそこに広がっているばかりだ。それは1日の内最も孤独を感じる時間だった。夜眠るときはわたしたちはいつもひとりぼっちで、手をつないで布団に入ったとしても、同じ夢を見ることはできないのだから。 蜂蜜入りのホットミルクを飲んだり、ユーチューブの睡眠導入オルゴールに耳を傾けたり、眠りやすくなるストレッチに勤しんだりしたとしても、睡魔は頑固

          眠れない夜のこと

          23:48、小田急線小田原行き最終電車にて

          ヒールの女性が全力疾走するのを見て、家までの終電が近いと気付いた。発車ベルがホームに鳴り響く。酔っ払った女の子が、彼氏の胸にしなだれかかっている。気泡の浮かんだ嘔吐物を横目に、電車のドアの中へと滑り込んだ。眠りこけているサラリーマンの唇の中にじゃがりこを突っ込みたい、わたしの肩に頭を載せるな。 真っ暗な闇の中を最終電車が駆けてゆく、藍色は夜が更けていく色だ。寝静まった街に明かりは少なくて、息を思い切り吸い込むと誰かの夢の匂いがする。腕時計の針は、今日と明日の境目を越えようと

          23:48、小田急線小田原行き最終電車にて

          きみは空っぽの冷蔵庫と同じ

          部屋の中央に置かれた、食材の入っていない、空っぽな冷蔵庫がぶうううんと鳴る。私には何もない、そんな風に感じることが増えた。経験も才能も知識もない、やる気と根気だけがある退屈な人間。 これまで私に文章を書かせていたのはネガティブな感情だった。泥にまみれながら踠いて、必死に手足をばたつかせて、明日を生きてゆくためにキーボードを叩いた。何もかもがうまくいかなくて、絶望にころされそうになったとき、文章だけが私に光を見せてくれた。闇に満たされたこの世界の片隅に存在する、ただひとつの光

          きみは空っぽの冷蔵庫と同じ

          日曜の深夜三時、眠れない夜の永遠

          スマホの光は身体に毒だとわかっていても、言葉がほしくて仕方がなかった。永遠につづくような日曜日深夜三時、ひとりぼっちの雨の夜。心の表面をやさしく撫でてくれるような言葉をインターネットの中から発見したくて、yahoo!知恵袋に幾つかのワードを打ち込んだ。 「二年目 仕事 辞めたい」 「ライター なるには 未経験」 「夢 期限 いつまで」 yahoo!知恵袋は便利だ。先人の投稿を眺めれば、オールジャンルの悩みとそれに対する解決策を閲覧できる。だけどya

          日曜の深夜三時、眠れない夜の永遠

          「おもしろい」と「わかりにくい」は両立するか?

          物語を書いて、もうすぐ1年が経つ。1年前から考え続けている問題がひとつある。「おもしろい」と「分かりにくい」をどのように両立すべきか、という問題である。尖っていて、万人受けしないテーマが素晴らしいと言いたい訳ではない。ただ、私の感じる「おもしろい」は、心の奥底まで届くような言葉であり、そういった言葉はごく一部の人間の心にしか届かないものなのだ。つまりは少数の人間だけでなく、大多数の人間から「おもしろいと思ってほしい」という気持ちが膨らんでいるという問題である。 体や心の皮膚

          「おもしろい」と「わかりにくい」は両立するか?