『家庭の事情』 ZORN

ZORNを教えてくれたのは、高校の友人であった。私たちの代の野球部ではHIPHOPが流行っていたが、彼らが好きだったのはバトルで、私の趣向とは異なっていると思っていたが、ある曲を機に私も彼らの輪に入っていくことになる。(その曲についてはまたの機会に)
さて、ハードコアなHIPHOPを聞いたことはなかった私に、彼らが勧めてくれたのがZORNであった。彼らの語るZORNの凄さは、R-指定も語っていた「韻の飛距離」である。アングラな雰囲気から、家庭の温かさまで飛んでくる。そう、ZORNのリリックに必ずと言っていいほど織り込まれているのが、「家庭」というテーマである。

洗濯物干すのもHiphop 『My life』
国産の昆布ダシ 奥さんも文句なし
評判を呼ぶ歌詞 冗談も上手だし
ようは超DopeなShit コンサート即満員
でも日曜は動物園でゾウさんと撮る写真
『カマす or Die feat. ZORN』 AKLO

 特に前者は語るまでもない、あまりにも有名すぎるパンチラインだ。
そんなZORNの生い立ちを描いたのがこの『家庭の事情』である。いきなり、

人生の最初の方
洗い物の溜まった台所
ママがパパのこと刺し殺そうとしても
親は選べない子供

という重い、あまりに重い言葉から始まる。ZORNの幼少期、かなり家庭は荒れていたようだ。この後も思いもよらない「家庭の事情」が次々と表れてくる。それでも、そんな親御さんに向けて素敵な言葉を送るのである。

親だって完璧じゃない人間
恨んじゃない ありがとうが言いてー
危ねー あやうくまともな人生
これがラップなんだ わりーな
バカ息子見に来い 横浜アリーナ
ろくな思い出じゃねーのによ
感謝しかない家庭の事情

ZORNというラッパーの歩いてきた道は、決して美しい道ではない。少年院を経て、HIPHOPの世界で成功を収め、家庭を持つことでようやく自己のルーツに思いを馳せることができるようになったのだと推察する。

お前らが生まれた日は知らない
でも過ごした時間は血よりも濃い
『Letter [Pro. EVISBEATS & Kazuhiko Maeda / Dir. 飛沫]』

これはZORNが娘に綴った一節である。娘たちと過ごした時間の温もりが、ZORNを血の繋がった肉親へ筆を走らせたのだと、私は確信している。

切っても切れない血の繋がりというものは存在する。私は親とはわかりあえないと思っているが、ここまで丈夫に育ててくれたことには感謝しかない。ZORNは辛い想いもたくさんしてきたはずなのに、愛に溢れるリリックを送った。私も親ともう少しわかりあえるように努力しよう。

皆様も是非ご両親と過ごす時間を大切にしてください。

明日のご飯が美味しくなります