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企画もの

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#恋愛小説

貸し出し中?いえいえ、予約中です。(小説)

中学の卒業式の日。進学をきっかけに好きな人と離れることになり、私は告白をしようとした。けど待ち伏せた場所に彼は来なかった。公園でベンチに座って俯いていると、ランドセルを背負った男の子が目の前に立った。 「みーちゃん大丈夫?お兄ちゃんが何かした?」 「ゆうくん」 思わず私は苦笑する。 「かなとに会えなかった」 「うちに来ればいいじゃん」 「それじゃ意味がないっていうか」 「何それ」 ゆうくんはかなとの弟だ。そして私がかなとのことを好きだということをいち早く見抜いた。バレ

移り変わっていく季節の中でその名前を呼べたのなら(小説)

何でも君のいうことを一つだけ叶えてあげるよ、 ある日気まぐれな彼はそう言った。 唐突なお願い事をするときには彼は大抵私を見ていない。窓の外で降り積もる落ち葉を見ながら、歌でも歌うように彼は呟いた。今は秋の終わり。それに呼応するかのように、付き合い始めてしばらく優しかった彼がなんとなく冷たくなってきたような気がしていた頃のことだった。 「この前のデートをドタキャンしたことへの償いのつもり?」 自然と語尾が強くなる。私は爪の先にきれいにトップコートを塗れてちょうど満足したと

「もう好きじゃないよ」ってどういう意味?【才の祭小説】

雪の降る街を一人歩きながら、溢れる涙を拭う。かれこれ20分以上止まらないそれは、頬に触れて溶けていく結晶よりもずっと温度が高いはずだった。そのはずなのに、つうっと流れては流れるほどにどんどん冷たくなっていく。衝突したのは他愛もないことだった。彼が私たちの関係を否定したのだ。それは私が最も言われたくない言葉であって、過去に最も傷ついたことだった。 足早に通り過ぎる駅前。行き交う人たちは誰も私のことなんか見ていない。それもそのはず、もうすぐクリスマスということで室内にはたくさん