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想(一次創作)

ガタンゴトン、と心地よい揺れに身を任せ、ぼんやりと外を眺めていた。外を一面に色付けているのは、アネモネだろうか。電車の中は暖かいが、窓の外で風に揺れる青を見ると、外はまだ少し肌寒そうだ。青い絨毯を切るように電車は真っ直ぐ走り続ける。

ガガ、という雑音の後に、車掌の声が次の駅の名を告げる。いつから握りしめているか分からない切符を確認し、自分が降りる駅ではないことを確かめた。隣の彼が、静かに身を固くしたのを気配で感じる。

「次で、降りなきゃだ。」

彼の声はいつもと変わらない。そう、と目では青色を追ったまま返し、しばらくの沈黙。冷たい私を無視して、暖かそうな場所でよかった、と。見なくても彼が情けなく微笑んでるのが分かった。黙って上着を脱いで、彼の膝に置く。困惑しているのも、手に取るように分かる。

「まだ寒いかもしれないわ。」

「でも、君が降りる所も寒いかもしれない。」

それには返事をせず、睨むように外を見る。彼が上着を手にしてオロオロしている。私より彼の方が大きいのだから、どんなに寒くても彼は私の上着を着ることは出来ない。それでも、持って行って欲しかった。

「別にあげるわけじゃないんだから。」

迷子の犬のように視線を右往左往させる彼に痺れを切らして言った。

「返してもらうわよ。」

「だからその時までーー」

続きは言わなかった。彼は、小さく笑い、大事そうに上着を抱えた。

電車の速度が緩やかになりやがて止まる。アネモネに半分埋もれた、小さな駅だった。

ドアが開く。

彼が立ち上がる。

背を向ける彼に、手を伸ばすことは許されない。

ドアが閉まる。窓の外、目の前に彼が立ち、久しぶりに目を合わせた。

「ちはる」

彼の口が確かにそう動いたのを確認し、堪えきれずに立ち上がる。窓をへだてた向こう側の、彼の情けない笑顔に触れることはもう出来ないと分かっているのに。

電車が動き出す。彼の口が、5文字分動く。ゆらゆらと揺れる視界ではそれが正しいかは分からなかったが、私も同じ五文字を口にする。

彼はどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。

旅はまだ、終わらない。私は外を眺め続ける。


※同内容を、某小説投稿サイトに投稿しています(noteにて加筆修正済み)

※みんなのフォトギャラリーより、画像をお借りしました。ありがとうございました。

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