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短話連作『終末カフェ』2

「CLOSED MARS」

宇宙科学の研究者たちは今騒然となって過去のデータを読み漁り、討論に討論を重ねているところだった。なぜなら自分たちが観測し、到達を目指していた目標物を見失ったからだ。消えたもの。それは火星だ。探査機からのデータ通信は途絶え、望遠鏡で捉えることもできない。それこそ瞬き一つしている間に、わからなくなってしまった。火星はどこにいったのか?コンピュータに火星の位置を再解析させ、通信を再起動を試みても、彼らは火星を確認することができないでいた。

「巨大隕石で壊れてしまったか?」

「だとしたら相当のインパクトやデブリ円盤が確認できないと」

実際のところそんなものはなかった。ただ、初めからそうだったかのように、火星はどこにも見えなくなっていた。それはどこの国の機関も同じことで、地球からはもう観測することができなかった。

「困ったことになったぞ」

ひとまず、上には報告しないことにした。惑星が消滅したなんて馬鹿げているし、研究費がなくなるし、下手すれば火星探査チームは解散だ。それは避けたいことだった。

結果として、人類はパニックの危機を免れることができた。大多数の人々は何も知らないまま月の不在を論じ合い、何も変わらない日常を信じていた。

異変に気づいているのは、まだ一部だった。

今日は火曜日。

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