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短話連作『終末カフェ』

「CLOSED MOON」

朝のニュースで月が無くなったことを知った。
それはあまりにも突然で、冗談みたいな話だったけれど、確かな話らしい。

テレビではNASAや官房長官や評論家が何か深刻な顔をして語り、ネットでは特集記事のほかに軍事国家の陰謀論や嘘末が横行していた。
『本当に月が無くなったら、今頃地球の自転めっちゃ早く回って俺たち生きてないよ』
『信じてる人っているの?』
そんな書き込みがあるように、大半の人たちにとっては今日も何も変わらない1日で、夜になってみて初めて月の不在に気づく人や気づかない人がいるくらいのものだった。

しかし海に住むものたちは困った。海から満ち引きがなくなった。これにより干潟が失われた。そこに住まう微生物や海の生き物が消えた。それを食べる鳥たちは飢え、暮らす場所を変えた。

山や森に住むものも困った。夜は月明かりを失い、それを頼りに生きる動物は捕食の術を失った。人間は電灯があるので暮らせたが、それのせいで何人か捕食された。

静かに、確実に世界は変わっていった。それに気づく人はごく一部で、大半の人はまだ変わらない日常を信じていた。

今日は月曜日。



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