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短話連作『終末カフェ』3

「CLOSED MERCURY」

一部のスレッドが大盛り上がりを見せていた。タイトルは《火星が見当たらんのだが俺だけ?》
初めは釣りとして扱われ、反応も薄かったが次第に天体観測を趣味としている人々が集まり始めちょっとした議論になっているようだった。普段天体は興味の範囲外なのだが、速報としてまとめられていたその記事が妙に心に引っ掛かった。書き込みの詳しい内容は正直暗号のようで伝わってこなかったが、信じるに火星が観測できないようだ。
「火星……」
ふと気になって、水星について調べてみた。今まで生きてきて一度も意識したこともない星だ。恐らく大部分がそうだろう。それにもかかわらず検索エンジンは『水星 なくなったらどうなる』を示してきた。開くと、子ども電話相談室の素朴な疑問を扱ったサイトの内容が表示された。
『水星がなくなったら地球はどうなるの?』
子どもの疑問に研究者が真剣に答えている。子どもの発想は微笑ましく、時に深く考えさせられる。結局、この日は少し水星について詳しくなっただけで、特に目新しい記事を見つけることは出来なかった。

心配は杞憂で終わってよかった。天体がそんな簡単に消えていいもんじゃないはずだ。何気なく空を見上げる。空にはいつものように青空が広がっている。今日も一日が正常に回っている。だから、もう考えるのはやめることにした。

それでも水星は消えていた。太陽に近いこの惑星は観測も難しく、探査されることも少なかった。そのためか誰にも気づかれることはなかったが、はっきりと水星は消えていた。

異変に気づき始めた人々は調べ始めていた。それでも、どこにも真実は書かれていなかった。遠い遠い宇宙の現在のことなど、誰にも見通すことなどできなかった。

今日は水曜日。

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