006.【Mリーグ】トップが必要な3チームの鍔迫り合い。3連闘の役満プリンスが土俵際で見せた、先輩たちとユニバースに贈る意地の『伍萬単騎』
※この話は麻雀、Mリーグについてある程度知識のある方にしかわからない話がふんだんに含まれています。ご了承ください。
どうも、風茶でございます。
2024年3月21日のMリーグは、なんという運命の悪戯か、このレギュラーシーズン最終盤に、ボーダー争いに生き残るためにはトップが必要な3チームが相見えることになりました。
BEAST、雷電、フェニックス。
マイナスすら致命傷になりかねない極限の状況で、Mリーグ史に残る死闘が繰り広げられました。
その中心にいたのは、TEAM雷電・本田朋広選手でした。
前回の連闘から日跨ぎで3連闘。
……これは僕の想像なので確かなことではないのですが、これには、雷電の強い意志があった、という気がします。
「本田、君が雷電を引っ張る存在になるんだ」
本田選手の3連闘が決まったのを目にした時、僕には、雷電を束ねる高柳寛哉監督の願いが見えたような…そんな気がしたのです。
TEAM雷電は、昨年こそファイナルに進出したものの、それまでは苦しんだチームでした。
大スター・萩原聖人プロを筆頭に、業界を引っ張る第一人者でもある瀬戸熊直樹プロ、そして唯一無二の『泣かない麻雀』を操るセレブ・黒沢咲プロ。
人気、実力、実績。いずれも申し分ない。
しかし結果が伴わない、そんな日々が続きました。
果ては2年前、悪夢の1200ポイントマイナスという『屈辱』すら味わいました。
そして今期も、ボーダー争い。
それも、この場面でよもやのラスを引くようなことがあれば、それは実質終戦をも意味するような状況。
そんな中で、高柳監督が選んだのは本田選手でした。
昨年、本田選手はKONAMI麻雀格闘倶楽部・伊達朱里紗選手やU-NEXT Pirates・瑞原明奈選手らとともに、最終日までMVPを争い、大躍進を遂げました。先述の屈辱をバネに、ついにその実力をMの舞台でも開花させ、チームを初のファイナルに押し上げる原動力となったのです。
しかし今年は個人ポイントもマイナス。
ジリジリと下がるチーム順位。そんな中で選ばれたのは偉大な先輩たちではなく、本田選手だったのです。
見据えるのは、この瞬間だけでなく、この瞬間を越えた先。
セミファイナル、ファイナル。
そして来年。その先まで。
TEAM雷電として、魔境・Mリーグの中にある強いチームとして生き抜いていくために。
いずれ起こる引き継ぎの時、後輩たちに背中を見せる存在になるために、今一番の後輩である本田選手に、さらなる経験と成長が求められたのです。
かくして、本田選手は、自身3連闘となるこの日、先輩たちに背中を押され、チームの命運を握る対局に臨みます。
同卓したのは7位・BEASTの猿川真寿選手、9位・フェニックスの魚谷侑未選手。各チームのエースが同卓となりました。
場は平たく、僅差の闘いが続きます。
迎えた南2局、本田選手の親番。
テンパイの形から掴んだ6筒。
当然その手からこぼれ落ちます。
これが猿川選手に高目の放銃となり、本田選手は3番手に後退。苦しい展開になります。
ロンの声を聞いた瞬間、どれほど肝が冷えたことか……
この待ちを選択した時点で、不利なことは承知の上。
それでもあまりに悔しい親落ちでした。
着順は変わらぬまま、オーラスを迎えます。
本田選手の配牌はこちら。
自風の西を第1ツモで暗刻にした本田選手。
この時点で実況・日吉辰哉プロは、跳満ツモ条件を加味した上で、
「リーヅモ、西、混一色」
と、現実的に可能性のありそうな手役が存在することを示唆します。
しかし、3巡目になると、この手はとんでもない変貌を遂げます。
暗刻が2つになり、対子も2つ。
「あるってばよ!」
日吉プロの叫びと同時に、先ほどの予測など彼方に消え、ある可能性が、この場面を見ていたすべての人の脳内に浮かんだことでしょう。
役満・四暗刻。
今期未だに出ていない役満を、極限のボーダー争いの中でやってのけるという、まるで麻雀の神に魅入られたかのような展開。
当然、役満である以上、そうそう上手くいくものではありません。
そんな中、引き入れたのは伍萬。
この伍萬、実はこの時残り3枚全てが山に眠っていました。
伍萬をよしと見た本田選手は、これを手に収めます。
そして手が進み……
彼はまっすぐ、四暗刻に向かっていきます。
ここでの勝利は絶対条件であることは、本田選手でなくともわかっていたことです。
しかし、この一手には、彼の意志を感じずにはいられませんでした。
「俺は、雷電の本田だ。俺はこのチームを勝たせなければいけないんだ」
ただのトップじゃない。
大きなトップでなければならない。
先輩たちが押してくれた背中に応えないまま、ダメでしたって楽屋に帰れるわけがない……
「来た」
四暗刻単騎。
こだわり続けた伍萬はこの時点で依然として3山。
ここで5筒を残して広く待つことも、一応はできました。しかしそうすると4筒を引いた時に、リーチ、ツモ、西、三暗刻ではトップ条件の跳満ツモに届かず、裏ドラに期待しないといけません。
もとより、彼は伍萬を良いとみて残していたし、何度も申し上げた通り、勝利はボーダー争いの上では絶対条件でした。
「やってます!!」
日吉プロの絶叫と共に、彼は静かに大逆転へのピースを全て揃えました。
直後。
目下のライバル・BEAST猿川選手が伍萬を回収、こちらもトップの見えるリーチを敢行。
すかさず、こちらもトップが必須のフェニックス魚谷選手が一発消しのチー。少しでも猿川選手の打点を下げ、逃げ切りを図ります。
チームを背負った各者の意地。
この1巡で全ての思いがぶつかりました。
5、8索が3山。
伍萬が2山。
どちらに転んでもおかしくありません。
あがった方が勝ちの状況。
次巡、決着の瞬間はすぐに訪れました。
猿川選手のツモの発声とともに、激熱のオーラスは幕を閉じ、このあがりで逆転した猿川選手が、BEASTをボーダー争いに踏みとどまらせました。
本田選手の意地。ユニバースの夢。
全てを乗せた大花火は、不発に終わりました。
猿川選手の手を見つめる表情は、いつも通りのポーカーフェイス。
……しかし、その中に一抹の悔しさが滲んでいた、そんな気がします。
後のインタビューで、トップ争いのさなか、2山のスッタンがすぐそばにあったことを知った猿川選手と魚谷選手は、驚きを隠せませんでした。
いや、そりゃそうです。
このふたりはお互いにトップを争っており、おそらく双方しか見えていなかったはずです。
3番手に後退した本田選手が、その意地を抱えて最高の手で追ってきていたのは、恐怖という他なかったでしょう。
続く第2試合、雷電は2着となりポイントを伸ばせず。セミファイナルに向け、かなり厳しい条件を突きつけられる格好となりました。
この3連闘での本田選手の成績は2着、2着、3着。見た限りはパッとしない、と言われるかもしれません。
しかし、この3連闘では、トップを追い上げていく2着など、随所に彼の強さが出ていました。
特に最後に見せた四暗刻単騎は、チームを背負って闘った彼が見せた最高のプレーといっても過言ではないでしょう。
ひとつ結果が違えば、あるいはボーダー争いに踏みとどまったのは雷電かもしれない。
彼は、この負けられない状況で3戦を任されるという重圧を受けながら、堂々と闘い抜いたのです。
TEAM雷電・本田朋広。
今年の結果は厳しいかもしれない。
しかし彼は、この瞬間。
視聴者を、ユニバースを、そしてチームメイトである偉大な先輩たちをも魅了する、そんなMリーガーになったのです。
そして、これからも。
『雷電が誇る天然なイケメン・ともくん』は、
『Mリーグに欠かせない最高の戦力のひとり』であり続けるでしょう。
それでは。
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