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交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(前編):古代~産業革命以前

前編:古代~産業革命以前
・後編:産業革命~現代

●都市を循環させる「道」、
  情報通信のための「道」

 農耕を始めたことにより、都市を中心としてヒト・モノ・情報(知恵)が交流する社会が構築される。官僚、軍人、職人、そして彼らの食料が都市に集まる。都市内部の通路が市民の生活を循環させ、都市周辺地域からは農作物、木材、鉱物や税を徴収するための「道」が都市に向けてのびる。より遠くから、より早く運搬するために家畜を使い車輪を開発し、道路網の拡張-輸送技術の改良というサイクルを繰り返して都市が巨大化していく

 都市は近隣の都市から襲われる驚異に備えるための軍隊を保持し、戦争により周囲の都市を併合する必要に迫られる。生き残りをかけた都市は、道路網により物資を集めるだけでなく、すばやく情報をえるための「道」をつくる。紀元前6世紀ペルシア帝国は、王の命令と周囲からの報告を伝える通信網として幹線道路「王の道」を整備した。土木工事により道を整え、馬を駅伝制によりすばやく移動させる最新の通信網だ。整備した「道」は都市周辺のヒト・モノの輸送も活性化する。そして、「道」を整え、ヒト・モノ・情報(知恵)の輸送技術を発展させた都市が周囲の都市を圧倒する

 ユーラシア大陸の河川沿いに分散していた古代の農耕都市は、やがて4つの巨大帝国(ローマ、パルティア、クシャーナ、漢)に統合される。帝国内ではさらに道路網の整備を進め、情報(知恵)を集めて治金や輸送の技術を開発し、統治の潤滑剤となる貨幣制度を広め、王と官僚のためにモノの流通を活発化していく。


●王が財宝を輸入するための交易路
:シルクロード

 中国、中東、ヨーロッパの巨大都市の間には、4000kmを越える広大な草原地帯に遊牧民の騎馬国家が広がり、遠距離交易を妨げていた。

 転換点となったのは、漢王朝の武帝(紀元前141年~紀元前87年)が派遣した調査部隊からの報告だった。ヨーロッパに向けて絹や鉄などを返礼品として輸出するだけで、貴重な金やガラス細工、美術品などの財宝が手に入というのだ。武帝は、財宝を手にいれるために、漢王朝とヨーロッパの間にある36の遊牧民都市国家と属国関係を結び、ラクダによるオアシスの移動経路=シルクロードをつなげる。途中経路のインドやアラビアで入手できる香辛料はヨーロッパに返礼品として贈り、遊牧民の所有する馬は漢王朝に送る。

 4000km以上の距離を数年がかりで移動する交易は危険を伴い、生活のための交易は割に合わず、王や大富豪、官僚たちが力を得るための宝物や贅沢品、原材料を手に入れるために交易が行われる。帝国をつなぐシルクロードによる疎なコミュニケーションは、徐々に文化、技術、宗教、そして病を伝搬していく。

 やがて「オアシスの道」は草原と海に広がり、アフリカ大陸、ヨーロッパ、アジアを結ぶ複数のルートに広がっていく。

西暦100年ごろの陸海の交易ルート:
・オアシスの道(シルクロード、乾燥地帯に連なるオアシス都市を結ぶルート)
・草原の道(モンゴル高原から西へカザフ草原、アラル海、カスピ海を通って、黒海へ達するルート)
・海の道(紅海・アラビア海ルート、地中海・インド洋ルート)


●王権のためのグローバル交易と
ローカル・ネットワークに集約される国内産業

 1300年以降、東ヨーロッパから中東にひろがるオスマン帝国によりインド洋航路を閉ざされ、中規模の国家が激しい闘いを繰り返していたヨーロッパ諸国は大西洋へと目を向ける。

 1482年、ポルトガルは西アフリカ海岸に要塞を築き、マリ帝国(西アフリカ)との交易を掌握、金、象牙、胡椒、奴隷と織物、武器を交換、砂糖のプランテーションを展開して突出した力をつける。さらに、大西洋からインドに到達できると考える探検家=コロンブスに投資し、1490年にアメリカ大陸を発見。続いて1498年にヴァスコ・ダ・ガマがインドに到達、1522年にマゼラン隊が世界周航を達成したことをきっかけとしてヨーロッパは世界初のグローバルな交易ネットワークを構築する

 産業革命までのグローバル交易は、王権を維持し軍隊と土地を広げるために行われる。重商主義など、力のある国が輸出を輸入よりも多くするために高い関税により輸入制限をかけ、武力により不均衡貿易を強要するなど極端な貿易黒字を目指す

 この時期のグローバル交易は未熟だが、後のグローバリゼーションを支える経済的な土台を構築する。

経済的な土台の構築:
・帆船による遠洋交易、航海術、砂糖と奴隷の三角貿易
・イスラムの商習慣、数学、地図作成
・製鉄と鋼の生産技術、活版印刷、農業技術
・火薬などの中国の先進的なイノベーション
・銀行、金融、市場

 1700年にいたっても、海上の輸送は風力、陸の輸送は牛や馬で搬送に多くの時間がかかることから、生産と市場は強く消費と結びつけられ、都市とその周辺から形成されるローカル・ネットワークにヒト・モノ・情報(知恵)が集約されていた

参考書籍:
[1] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社
[2] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房
[3] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳, 明石書店
[4] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版


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