【閑話】パーソナル・アシスタントの一里塚: ナリッジナビゲータ
1987年、Appleは当時のCEOジョン・スカリーが作成した著書をもとに、自社が目指すパーソナルコンピュータの未来を示すプロモーションビデオ「ナリッジナビゲータ(KnowledgeNavigator)」を公開した。筆者がこのビデオを観たのは、1992年ごろで、こんな時代が近づいているとワクワクしたのを覚えている。Appleが提供したHyperCardやMachintalk(音声合成)はその布石だったし、その後のiPadやSiriにつながる技術や製品を着実に実現してきた。
開くとすぐに起動するノートサイズのパソコン、口パクする蝶ネクタイをつけたアシスタントが常駐し、音声認識で要望を聞き、流暢な音声合成で応答、音声とタッチパネルで操作する。ビデオ中で、大学教授のマイケル・ブラッドフォードが、友人のジル・ギルバート教授とアシスタントを介してコミュニケーションしている。
●「ナリッジナビゲータ」から抜粋
●ナリッジナビゲータの前提となる技術
1)アシスタントとの対話による情報検索:①④
アシスタントと対話しながら、情報を探し絞り込む。
スマートスピーカーには、まだこのレベルの絞り込みができる機能はない。有料アドオンでいいのでぜひ提供してもらいたいものだ。できれば音声で読み上げるのではなく、iPadやPCと連動して情報を表示もしてもらいたい。
2)情報のレコメンド:②
いくつもある論文の中から、興味があるだろうものを自動的にレコメンドする。
3)データ表示とデータ比較:④⑤
論文に記述されているグラフから元となるデータを得るのは難題だ。Webを自在にあやつる現代でも、論文は「紙」メディアに依存しているからだ。
さらに、異なる場所で作成されたデータ群と、誰かが作成したシミュレーションを連結したり値を変えてみたりということは、技術的には難しくないにもかかわらずなかなか浸透しない。
複数の学会が協力して、論文や公開情報のデータのフォーマットを統一する有用性に気づくことだけで実現できるはずだ。
4)アシスタントが仲介するコミュニケーション:③⑥
ヒトとヒトのコミュニケーションをアシスタントが仲介する方法は、2つ考えられる。
アシスタントによるコミュニケーションの仲介は、星新一の「肩の上の秘書」で登場する
インコ・アシスタントが秀逸だ[1]。時間の無駄遣いに本人たちが気づいていないのがオチだ。
論文の検索でもそうだが、ナリッジナビゲータ・アシスタントはしばしば先読みして行動し、バックグラウンドで音声応対もこなす。ヒトは、マルチタスクでジョブをこなすことはできないが、アシスタントがサポートしてくれれば、ある程度マルチタスクを扱えるようになるだろう。
SiriやAlexaは、まだパーソナル・アシスタントの入り口でしかない。今後はヒトの時間をいかに圧縮できるかが課題であり、「ナリッジナビゲータ」は今後もその一里塚を示し、向かうべき方向をナビゲートするだろう。
参考書籍:
[1] 星新一(1971), "ボッコちゃん", 新潮文庫
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