スライド2

華僑心理学No.10 日本と中国の新卒採用の違いとは?

こんにちは、こうみくです!

平成最後の夏、TwitterなどSNSを中心に起きたブームのひとつとして、とあるベンチャーキャピタルによる若者・学生に対して起業を促す「#起業しろ」運動があったと思います。

その背景には、日本の新卒一括採用といった独特の就活制度がありますが、本日は、そんな日本と中国の就活事情の違いについて解説していきたいと思います。

1.やさしい日本と、自己責任型の中国

筆者は、日本の大学を卒業してそのまま日本の会社に新卒で入社しましたが、中国にいる友人や従妹の就活の話を聞くと、日本と中国の新卒採用の仕組み自体に、まず大きな違いがあることが分かりました。

① 日本型就活制度:


結論から言うと、2011年頃、就活時に経験した日本の新卒一括採用を経験して、筆者および中国からきた留学生の友人は大変感動しました。日本型就活制度は、新卒の学生に対してとても優しく設計されていると感じたからです。

日本では、まず出身学部に関係なく、業界・職種を選び直せます。就活の応募時期や手順も明確化されており、非公式な学歴によるハードルはあるものの、少なくとも名目上は、全ての新卒に門戸が開かれています。多くの場合、大学で勉強した専門性やインターン経験を深く問われることもありません。そして晴れて入社した暁には、「新卒は会社が育てるものだ」という価値観のもと、企業側にていちから教育してあげようという姿勢もあります。

更には、第二新卒という概念も広まりつつあり、一度失敗しても、比較的やり直しがきく若者に非常に優しい社会構造であるのも忘れてはいけないでしょう。

こんなにも親切な新卒制度は、恐らく世界中見渡しても、日本以外に見当たらないと思います。日本の大学生は、稀に見るもっとも恵まれた就活制度で守られているといっても過言ではないでしょう。

②中国型就活制度:

一方で、中国では、完全なる弱肉強食の世界が広がっています。基本的には、自分が選んだ学部の専門性にフィットした職種でしか採用してもらえません。従って、大学受験時の18歳の時点で学部選びを間違えたら、就職の難易度が大きく変わります。とある調査レポートによると、2017年度で一番就職率が高い学部はマネジメント学科であり、逆に一番就職率が低い学部は法学部でした。

更に、日本のように明確な就活時期や方法が確立していません。それは、すなわち、「とりあえず、リクナビに登録して情報収集を始めるか」といった、決められた手段や順序がなく、「いつ、どこから、どうやって、情報収集をするか」といった出だしの部分から、すべて手探りで進めなければいけないということです。

2.日本「#もっと採用しろ」、中国「#起業しろ」

この「新卒学生は、社会が大事に育てなければいけない」という日本社会の価値観、そして、「新卒だろうが、社会に出たら自己責任」という中国社会の価値観の差は、各々の政府の対策にも如実に表れています。

2011年、日本では東日本大震災の影響もあり、4月時点の就職内定率は過去最低を記録しました。そこで、厚生労働省・文部科学省・経済産業省の3大臣連名にて、「新卒者の採用枠の拡大を求める要請書」が主要経済団体計258団体に送付されたのです。言い換えると、不景気によって就職難になれば、企業側に向けて「もっと学生を採用しろ」と要請するのが日本政府の姿勢です。

一方で、中国はどうでしょうか。
もとより、2017年度の日本の大学生の新卒就職率は98%(日経より)であったのに対し、中国の新卒就職率は86%(就業藍書より)と低迷状態が続いています。

そこで近年、中国政府は打開策として、大学新卒者の起業支援策を打ち出したのです。

具体的には、大学卒業後2年以内の、いくつかの条件をクリアした事業領域での起業に対して、北京市であれば50万元(800万円以下)の低金利融資、上海市であれば5万元~30万元(80万円~480万円)の低金利融資の貸し付けを行うといった政策を打ち出しました。つまるところ、「働き口が足りないのであれば、自分たちでなんとかしろ」というのが中国政府のメッセージなのです。

この政府の起業促進&起業支援案により、大学生の卒業後半年以内の起業率は、2011年度の1.5%から2015年以降は3.0%と2倍まで引きあがりました(麦可思研究院の2018年中国本科生就业报告より)。著者の肌感覚として、大学を卒業して半年以内に100人中3人が起業するというのは、日本と比べて、相当高い水準であると感じます。また、いつか起業したい、起業に強い興味があると回答した起業予備軍も30%いました。

3.IT系学生起業家の実態

では、このような中国政府の鼓舞を受けて起業した新卒の学生たちは、一体どんな風に過ごしているのでしょうか。

先述のレポートによると、新卒起業組が参入する5大産業として、教育業界(22.7%)、リテール業界(10.8%)、アート・エンタメ業界(10.1%)、通信・IT業界(9.1%)、飲食業界(5/1%)と続きます。4位のIT業界と言えば、シェアリングエコノミーの代表格と言えるAirbnbによる民泊のブームが、2014年初ごろから日本と中国に到来しました。そして、2014年後半になると、「これは、なんとおいしいビジネスチャンスなのだ」と気づいた多くの人々がこぞって、民泊市場に参入し始めました。

日本の民泊業界では、部屋を運営するホストや仲介業者が一気に増えたことが特徴的でしたが、お隣中国ではホストと仲介業者が増えたことはもちろん、Airbnbのサイトをほぼ完ぺきに模倣した、中国人観光客特化型の中国版民泊プラットフォームが、10、20サイトと一気に立ち上がったことが特徴的でした。そして、これらの民泊プラットフォームの創業者の多くが、20代半ば程の、まさに大学を卒業したての新卒起業組だったのです。

(近年、中国の民泊プラットフォーム市場は既に成熟期に入っており、様々なプレイヤーが淘汰・統合を実現済。こちらは、アリババと提携したMayi)

著者の家族は、2014年に東京市場で4年間オペレーションしてきた中国人ホストであるということで、中国系民泊プラットフォーム会社から、「東京市場について、教えてほしい」、「我々とアライアンスを組めないか。」といった相談を持ち掛けられることが多くありました。たまたま、そういった場を通して、さまざまなIT系の新卒起業組の若者と接する機会がたくさんあったのです。

彼らは皆、時代のトレンドに敏感でした。また、WEBサイトの仕様変更など、筆者からの指摘に対する反応も早く、とても優秀でした。

しかし、数か月間、彼らと接触している内に、様々なトラブルを目の当たりにするようになりました。まず、競合他社が乱立したことで、互いに激しい人員の引き抜きが起きました。中には、営業社員が担当の顧客リストを持ったまま転職し、その後何食わぬ顔で連絡が来たことも1度や2度ではありません。社員の平均年齢が20代の若い企業の、若い営業部長が、数か月間培ってきた顧客を全て引き連れて競合他社に転籍した際には、先月まで勢いがあった会社が、瞬く間に空中分解していく様子も間近で見てきました。

このように、著者が直接接してきた多くの中国の若いIT系ベンチャーは、会社の破綻・設立の新陳代謝が異様に激しく、それらの問題の根幹にあったのは、組織運営の未熟さ、そして個々人のマインドセット(社会倫理観、コンプライアンス意識等)だと強く感じました。

実際に、2017年度に中国の新卒起業家に対して行われた調査でも、起業に失敗した理由は?という項目で、1位に上がったのが、マネジメントスキルの欠如(27%)でした。(2位は資金調達難、営業力不足でそれぞれ25%)

起業における難しさ、リスクの種類は国に限らず、日本・中国の両国に共通する事柄であると思います。一方で、中国ならではの怖さとして、市場が大きく個人の消費力も高いので、失敗に至る前に、良くも悪くも、そこそこ儲かってしまうことも多いという点です。中途半端な成功体験が失敗と結びつくと、ひとはあまり振り返りをせずに、同じ過ちを繰り返すのではないかと、筆者は危惧しています。

現実として、筆者が見てきた多くの中国の新卒IT起業家、及びその周りの若い従業員の特徴として、一時的な利益を手にしたのちに、大きな失敗を経験しています。そして、あまり間を置かずに、また似たようなビジネスを立ち上げては、多少の儲けと失敗を繰り返していました。

一方で、セサミクレジットやSNSが世界一進んでいる中国において、信頼社会の到来がすぐそこまで来ています。正々堂々としたチャレンジの結果ではなく、倫理観を欠いた行動の結果による失敗は、何かしらの記録に残り、いずれ、大きなしっぺ返しが来る可能性が、今後はどんどん大きくなるでしょう。そうなってからでは、もう遅いのです。

(↑こちらの回では、信頼社会及びセサミクレジットについて解説しました)

大学生の起業はすなわち「勝ったら青天井、負けたら自己責任」という中国社会の縮図であるともいえますが、その行く末は、成功する一部の若者と、職務倫理などビジネスにおける基礎的なマインドセットを学ぶ機会を逸してしまったことにより、潜在的なリスクを抱えた大量の若者を産み出してしまうのではないかと、感じています。一方で、中国の近年の発展は、ジャックマーをはじめとする、アグレッシブで起業家精神旺盛な若者たちに支えられている。これもまた、疑いようのない事実なのです。

日本の新卒一括採用に対しても、「多様性がない」、「横並びでイケてない」といった批判の声をよく耳にしますが、一括で集中的に採用・研修を実施しているからこそ、スキル面からコンプライアンスや職業倫理まで、きめ細かい教育を行えるのだという側面も、改めて、認識しておく必要があるでしょう。

日々、Twitterにて発信をしています。↓


9月から学生に戻るため、皆さんからいただいたサポートは生活費として、大切に使わせて頂きます。

サポートいただけたら、スライディング土下座で、お礼を言いに行きますーーー!!!(涙)