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全部ハトのせい。

私は鳩が嫌いだ。
でも子供の頃から嫌いだったわけではない。

お気に入りの小さい頃の写真は、お寺の境内でベビーカーに乗った私が鳩に囲まれ、笑顔で片足をヒョイと上げている。
「ハトに囲まれて嬉しそうなむくみ」
と言う母の手書きコメントが写真の下に添えられている。
カメラの向こうの父と母、そして沢山の鳩に囲まれて幸せそうな私の笑顔。それを見て私は幸せな気分になる。
鳩は幸せの象徴と言われているが、まさにそうだ、と思っていた。
2年前までは。


今のマンションに引っ越してすぐ、ベランダにフンが落ちているのに気づいた。
入居前にベランダまでチェックしていなかった…。痛恨のミス。

そして数日後、朝早くから何かの声が聞こえる。
そっとカーテンを開けベランダを見ると、給湯器の上に鳩が座っている。しかも自分の家のように寛いでいる。
追い払いたいけど、外に出るのも怖い。
窓を叩き、音を出すと鳩は去った。

翌日もまた鳴き声。そっとカーテンを開けるが鳩はいない。
ベランダに出ると隣の家の給湯器の上で鳴いている。私を見ると飛んでいった。
隣の家が気になって衝立越しにベランダを覗き、目を疑った。
ベランダはフンまみれ。そこには巣があり、2匹の鳩が室外機の下で息絶えている。
ヒーーーー!!

えっ。お隣さん、住んでるやんな。なんで放置?

ベランダはシャッターを閉めっぱなしで一切開けていない様子。
管理会社に状況を報告する。が、
「忙しいので対応できない。もうすぐ引っ越すので、引っ越してからにして欲しい。」
と言われたとのこと。
私は鳩の死体の横で、隣の人が引っ越すまで過ごさなければならない。

季節は夏。
ある日ベランダの様子を見ようとカーテンを開け、私は恐怖におののいた。
うちのベランダに大量のウジ虫とその殻。そして大量の蝿。
ヒエー キョエー ギョエー
ありとあらゆる叫び声が出そうになった。
どうすんのこれ。窓を1枚隔てた向こうは地獄絵図。吐き気がする。

忙しいから対応できひんとか、そう言う問題ちゃうねん!!
あんたはもう出て行くからいいかもしれんけどな、こっちは住み始めたばっかりやねんで!!

怒り心頭に発するとはこう言う時に使うのだろう。

ホームセンターでハエ退治のスプレーを買い、完全防備で窓の隙間からスプレーをかける。スプレーが全部無くなるかと思うほど大量に吹きかける。
しばらくして、全滅を確認。よかった。
では無い。
この息絶えた者たちを排除しなければならない。
恐ろしすぎて、どのように片付けたのかも記憶に無い。

ウジ虫ハエ発生事件の後、お隣さんは引っ越し、ようやくベランダの清掃が行なわれた。
遅いねん!

鳩が出現してから(正確には鳩は私が住む前から出現しており、鳩からすれば私の方がいきなり出現したのだ)毎日毎日、鳩についてネットを検索した。
・フンなどに含まれる菌で感染症を起こす可能性がある(フンの掃除は手袋、マスク着用で行うこと)
・帰巣本能が強い(ちょっとやそっとでは出ていかない)
・卵を産んだ場合は勝手に駆除してはならない(鳥獣保護法違反)
・ネットを張る場合は外側から張らなければならない(内側から張ったり、弱いネットだと鳩が入り込んでくる可能性がある)
・マンションの場合、マンション全体で取り組む方がいい。

管理会社はベランダは供用部分では無いので個人で対応してもらうしか無いと。
「じゃあ、業者に頼んでボルトかなんかで穴を開けてもらって、ネットを張ってもいいですか?」
「建物に穴を開けるとか、何かする事はダメです。」
じゃあどうするんやー!!えー言うてみー!

設置できるところすべてにトゲトゲを置き、スプレーを噴射し見守る毎日。
夏が過ぎ、繁殖期が終わったらしく鳩は来なくなった。が、向かいの家の屋根には鳩がたむろしている。
いつまたやってくるか分からない。

そして去年の夏、また鳩はやってきた。

しばらくすると室外機の下に毎日小枝が運ばれてくるようになった。悪い予感。
鳩が巣を作ろうとしている。
仕事から帰ると真っ暗なベランダで、毎日枝を掃除する私。そんなある日、ちょっと疲れたので枝をそのままにしていた。
すると卵が…。

OH NO!!

産卵してるやん。
卵は勝手に処分してはいけない。鳥獣保護法で決まっている。
保健所に連絡する?業者を呼ぶ?どないしよう。

「もし割れてしまった場合は処分しても良い。」

もうこれしかない。
枝を掃除してる時に卵が割れたから、仕方なく処分しました。
鳩には申し訳ないが、ここで産卵されては本当に困る。

再び管理会社に連絡。
様子は見に来てくれたが、鳩避けスプレーを置いて行っただけであった。

もっさりにも散々訴えるが、鳩くらいいいやん。と言う塩対応。
そんなこと言いつつ鳩避けを作ってくれたけど。

お隣にカップルが入居してきた。入居早々、ベランダから話し声が聞こえる。どうやら鳩がやってきたので騒いでいるらしい。
去年はそこで鳩が死んでたのよ。と心の中で隣の人に話しかける。
お隣さんは自力でベランダ全体にネットを張っていたが、すぐにでも外れそうな佇まい。そして張ったネットに鳩が引っかかり大騒動になったことも。
数ヶ月後、カップルは退去した。別れる事になったのか、初めから一時的な入居だったのかは分からないが、私は鳩のせいではないかと思っている。
(敷金・礼金・保証金などかなりの額が必要な物件なので。)

そして今年。
ベランダに一度フンは落ちていたけど、それ以外は何事も起こっていない。最近鳩の姿も見ない気がする。


今日は仕事が休み。何にも予定がない休みは久しぶり。
天気もいいし、いつもは一枚ずつ洗っているシーツも今日はまとめて洗って、久しぶりに外に干そう。1回目の洗濯が終わり、すぐさま2回目を回す。
ベランダに出て物干し竿を拭こうと思ったら、サンダルの横にカメムシの死骸。
ヒー!
まさかサンダルにも入ってないやんな?
恐る恐るトントンして、サンダルの中を確認。
異常なし。

サンダルを履き、ベランダに出ると右手にセミの死骸。
もー!!

カメムシさんもセミさんも、あまたあるベランダの中からどうしてここを選んだのですか?
お隣さんも下の階もお向かいさんもベランダありますけど。
なぜ私の家のベランダじゃないとダメなんですか?

ビクビクしながら割り箸でつまみゴミ袋に入れる。

これでようやくシーツが干せる。

そしてシーツを竿にかけた途端、向かいの家の屋根に鳩が飛来。
はぁー。
結局今日も部屋干し。
部屋に備え付けてある室内物干しと、自分で購入した可動式物干しを総動員し、シーツと洗濯物を干す。

せっかくのお休み。私は気持ちよく過ごしたかっただけなのだ。

この部屋に住んでいる限り私はベランダに洗濯物を干す事はできない。
早く引っ越したい。と言いつつ、先月更新手続きを終えたばかり。

駅からは徒歩1〜2分と利便性はいいのだ。鳩のこと以外は大きな不満はない。
でも2年後の更新までには引っ越したい。


朝のモヤモヤを払拭すべく買い物に出かけ、化粧品とバッグを購入し散財した。
鳩がいなければこんなに散財してないはずだ。

全部ハトのせい。

幸せの象徴だと思っていた鳩
今は忌々しいとしか思えない

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