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人知原理論/ジョージ・バークリー【学習ノート】

人知原理論』(A treatise concerning the principles of human knowledge)とは1710年にアイルランドの哲学者ジョージ・バークリー(George Berkeley)により発表された哲学の著作である。1685年に生まれたバークリーはタブリン大学で修学する時期に初めての哲学書として本書『人知原理論』を執筆した。

事物が存在するということは、それが知覚されているということである―

ジョン・ロックの経験論哲学の批判的継承者たるバークリーは本書において、こう断言する。それは裏返せば、知覚されないものは存在しない、つまり私たちの心から切り離された「物質」なるものなど存在しない、ということだ。様々な批判にさらされながらも、ヒュームやカント、ドイツ観念論など後の哲学思想に多大な影響を与えたバークリーの思想とはいかなるものか。その透徹した論理にひめられた核心が、平明このうえない訳文と懇切丁寧な注釈により明らかになる。

バークリーは主観的観念論の立場から対象を知覚する方法について研究している。本書ではイギリス経験論のロックの学説を発展させ、主体的な人間にとっての認識能力の問題を提起している。当初、本書は感覚と観念の問題について論じる第1部、宗教と道徳を論じる第2部、数学と自然科学を批判する第3部から構成される予定であったが、結果的には第1部しか完成していない。1734年には表紙から第1部の文字が除かれ、内容や表現が整理されて現在の形になった。本書は緒論、本論、結論の三部に整理されている。

バークリーはジョン・ロックの「人間の知識の対象はすべて観念」という主張から出発しながら、ロックが想定していた実体は存在しないことを主張することを試みている。ロックは主観によって左右されない第一性質を想定していたが、バークリーはこれが言語の問題に起因する根拠がない誤謬であると見なす。バークリーの基本的な枠組みとは、知覚する主体である精神と知覚される客体である観念と事物という対立関係である。このことはバークリーが示した命題「存在するということは知覚されるということである」に端的に表現されている。

ただし、この新しい原理によれば知覚する主体である精神そのものについての知識を得ることは原理的に不可能である。バークリーは精神に関連する知識の対象は観念ではなく概念(notion)として存在しうると捉えている。バークリーは自身の学説に含まれている矛盾について自覚しており、1734年の再版で補足訂正により理論の修正を試みているものの抜本的に解決されていない。

エッセ・エスト・ペルキピ(Esse est percipi)

存在とは知覚されることである」とするバークリーの主観的観念論の立場を表わす命題。すなわち彼は、感覚的性質をになうものとして考えられた物質的実体なるものは不可知で、無意味であるとして、個々の物体はわれわれの精神のなかにある感覚、表象の結合と考えた。この命題がカントにより不可知論と批判されたことは有名。


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