見出し画像

【決定版】転売が非難されるべき至ってシンプルな理由 ~PS5発売にあたり~

先日、PS5の予約が始まった。

ヨドバシ.comでは抽選倍率が最高91倍になり、amazonマーケットプレイスでは定価の10倍近い50万円の出品が存在しているという。それに伴い、転売行為を批判する声も多く上がっている。

転売については否定派と擁護派が存在しており、ネット上には様々な意見があるが、自分からすると「最もシンプルに転売を非難できる、ある理由」が全く語られていないように思えたので、筆をとることにした。

なお、チケット転売や古物商許可を持たない業としての古物転売など、明確に違法であるものについてはことさら触れる必要がないため、ここでは語らない。

ここでいう「転売」とは、「ソニーストアなどの小売業者からPS5を仕入れ、それを定価の数倍で売却する行為」などをイメージしてくれれば良い。

いきなり結論を言おう。

転売は、「転売お断り」「おひとり様おひとつまで」など転売を禁止する者から購入して行う場合は、明確な契約違反であり、民事上の責任を負う。したがって、法的観点から非難されるべき行為だ。

以上である。
なんでこの「契約違反」という観点がネット上で指摘されていないのか分からないのだが、これが全てである。

まず、当たり前のことだが、契約というのは複数の相対する意思表示の合致であり、そこには民事上の拘束力が発生する。

例えば、Aさんがりんご1個を100円でBさんに売る時、Aさんには「りんご1個をBさんに引き渡す債務(≒義務)」が、Bさんには「100円をAさんに支払う債務」が生じる。そして、例えばBさんが契約した内容を破って100円を支払わない場合、Aさんは債務不履行を理由に契約を解除したり、損害賠償請求をすることができる。

PS5転売でも全く構造は同じである。例えばソニーストアでは、抽選販売を受け付けるページに以下の記載がある。

画像1

これだけ明確に転売目的での購入を禁止していれば、「転売目的の購入でないこと」は当然契約の内容に含まれていると考えられる。(そして、抽選申し込みのボタンを押した者は、それに同意したものとみなされる)

ここではソニーストアを例に挙げたが、ビックカメラ、ヨドバシカメラなど、大手家電量販店では転売目的での購入を禁止しているところが多かったように思う。当然、それらの家電量販店から購入して行う転売は、全て契約違反であって民事上の責任を負う。

これに対して、次のような反論があるかもしれない。1つ目は「俺はそんなものに合意していない」、2つ目は「そんな契約は無効だ」といったところだろうか。

しかし、「『おひとり様おひとつまで』の張り紙が店内の入り口の見づらいところにのみ貼ってあり、レジ近くになく、商品購入時にも案内を受けなかった」などという極めて例外的な場合でもない限り、「知りませんでした」は通用しない。

特に、近年Eコマースにおける同意の真正性を担保するための手段は進化しており、「『規約に同意しました』というチェックボックスにチェックを入れさせる」「規約を最後までスクロールしないと購入ボタンが押せるようにならない」などの方法で、「お前らちゃんと見たよな?同意したよな?」ということを執拗なまでに確認してくる。これで知りませんでしたは、認められないだろう。

今回のソニーストアのケースでも、トップページに「【重要】注意事項」という項目で記載されているため、同意があったとみなされる可能性が高い。

2つ目の「転売を禁止するような、そんな契約は無効だ」という主張だが、契約が無効なら当然売買は遡ってなかったことになるので、転売屋は購入したPS5を返還しなくてはならず、そもそもそんな主張自体が成り立つのかが不明である。不明であるのだが、まぁなんとか「契約の一部条項の無効」を主張したとして、それでも大分苦しい。

日本の法の大原則として「私的自治の原則」というのがあって、これは簡単に言ってしまえば「(刑法などの公に関する事柄でない)私法上の行為は、みんな自由に自分の意思で行っていいですよ」ということなのだが、ここから「契約自由の原則」なども導かれる。

契約の内容というのは本来自由であって、それが気に入らなければその人と契約しなければ良いだけである(それもまた自由だ)。契約が無効になる場合というのは、「公序良俗に反する場合(民法90条。例えば愛人になる契約)」、「強行法規に反する場合(民法91条。例えば消費者契約法違反)」などの例外的な場合のみである。そして、「転売目的での購入でないこと」という条件のついた契約は、もちろんこのどちらにも当てはまらないため、無効とはならない。

したがって、結論を再掲するが、転売屋は転売を禁止している者から購入する限りは、契約違反であり、民事上の責任を負う。そしてそれは法的観点から非難されるべき事柄である、というのが自分の考えだ。

逆説的に言うと、転売を禁止していない者から購入して行う転売は、この批判があたらない。(ただ、社会で批判されている転売の多くは、転売禁止としている者から購入されたものだと思う)

以下、蛇足。

良く聞く転売批判の中に、「小売から購入する転売屋は、単に中間マージンを取っているだけで、全く付加価値がない(だから非難されるべきだ)」という主張があるのだが、これは気持ちはわかるものの、間違っていると思う。

確かに、ネット販売などが整備されている現代社会において、転売屋が入ることでより多くの地域や顧客に届くようになった、というような(小売り本来の)付加価値はないだろう。

しかし、転売屋の付加価値というのは、「金さえ出せば必ず手に入る状態を作る」ということなのだと思っている。

自分はしがないサラリーマンなので、PS5にポンと50万円も払うことは到底できないのだが、例えば100億円もっている石油王だったとしたら、面倒な抽選や手続きなどせず、50万円で買えてしまうのは便利なのではないか。

そこまで言わずとも、定価33000円のニンデンドースイッチを、どうしても正規のルートでは手に入らないから、孫の喜ぶ顔見たさに40000円で買ってしまうおじいちゃんおばあちゃんはいるのではないか。

このような人達にとって、「お金を出せば(面倒な手続き抜きに)必ず手に入る」というのは非常に価値があることで、だからこそ転売屋から買う人はいなくならないし、転売はなくならないのだ。

したがって、転売屋に付加価値がない、という批判は当たらない。(本当に付加価値がないサービスだったら今頃とっくに自然淘汰されている)

もちろん、転売屋の仕入れ競争が過熱することでより製品が手に入りにくくなっているという側面はあり、そこには一種のマッチポンプ(相場操縦)的なことをしているという批判はあるのだろうが、(転売屋の総体ではなく)いち転売屋がPS5などの相場を人為的に変動させているとまでは到底言えないし(PS5の大半を買い占めることができるならともかく、そんなことは不可能である)、”市場の需給を誤解させることで”不当な利益を得ようとしているわけではない(むしろ市場によって形成された自然な高値で転売している)ため、典型的な相場操縦とまではいえないだろう。

【参考】
市場において相場を人為的に変動させるにもかかわらず、その相場があたかも自然の需給によって形成されたものであるかのように他人を誤解させるなどによって自己の利益を図ろうとする行為を、相場操縦といいます。このような行為は、公正な価格形成を阻害し、投資者に不測の損害を与えることとなるため、金融商品取引法において禁止されています。
証券取引等監視委員会のホームページより引用)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?