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スクエニ/gumi消費者庁コラボは決して「不具合」では起きえない理由

はじめに

2021年6月29日、消費者庁から、「株式会社gumi及び株式会社スクウェア・エニックスに対する景品表示法に基づく措置命令」を行ったことが発表された。(https://www.caa.go.jp/notice/entry/024759/

新聞・Webニュース・TVなど、既に様々なところで話題に上がっている本件だが、「現役モバイルゲームプロデューサー」で「法務博士(専門職学位)」の自分ほど、これを語るに相応しい人間もいないだろうと勝手ながら思ったため、本件について筆を執った次第である。

なお、この記事は消費者庁の公表資料(97ページの長い資料を一生懸命読んだ)に記載されていた事実を元に考えた自分の推測なので、必ずしも正しいことを書いているとは限らない。
もっとも、開発の現場を知る者として「おそらくこのように考えるのが一番合理的であろう」という内容にはなっているつもりだ。

それでは、本編をどうぞ。

事件の概要

・本件の対象となったタイトルは『WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブ エクスヴィアス 幻影戦争』というタイトルである。
(以下、長いので『FFBE 幻影戦争』と略す)

・その『FFBE 幻影戦争』において、2020年11月14日から「UR10枠確定 10連召喚」というガチャが開催されていた。(10連召喚とあるが、実質的にはユニット5連召喚+ビジョンカード5連召喚の、5連召喚×2という構造)

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(開催されていたガチャ。画像は消費者庁公表資料 P25より引用)

・このガチャの仕組みについて、ユーザーに対する説明としては、以下のような表示がされていた。

召喚で獲得できるユニットやビジョンカード、ショップに登場するラインナップは確率に基づいて抽選しております。1枠ごとに抽選が行われるため、1%のユニットが100回中1回必ず登場するといった仕組みではないこと、ご了承ください。

消費者庁公表資料 P41より引用)

・しかし実際には、「1枠ごとに抽選が行われる」仕組みにはなっておらず、「キャラクターを確率通りにランダムに並べたリストを2つ作り」「まずそのリストのどちらになるかが抽選され」「抽選されたリストの上から順番にキャラクターが排出される」ような仕組みになっていた。

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(キャラアイコンの画像はゲーム攻略サイトのアルテマ様に掲載されていたものを引用しています)

・そして、この実際の仕組みの何が問題かと言うと、「表示されていたガチャの仕組みならば、(確率は低いといえど)同じキャラクターが重複する可能性がある」にも関わらず、「実際のガチャの仕組みでは同じキャラクターが(ほぼ)重複しない」ということである。
特に『FFBE 幻影戦争』では、同じキャラクターを重ねて限界突破することでキャラクターが強くなっていくため、「ユーザーが簡単に限界突破できないようなガチャになっていた」「限界突破を狙うためには表示の仕組みよりも多くの課金が必要であった」という点が大きな問題であった。

・この表示と実際の仕組みの不一致が、一般消費者に対して「実際のものよりも著しく優良であると示」すものとして景品表示法違反とされた。

(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

不当景品類及び不当表示防止法 5条1号より引用)

本件は、「不具合」なのか?

スクエニは、この措置命令を受けて、次のようなプロデューサーレターを発表した。

(前略)
その結果、対象の召喚全てにおいて、(中略)提供される10枠分のアイテムの組み合わせが相当限られるという事態が発生しておりました。
上記の方法は弊社の意図したものではありませんでしたが、チェック機能の不全、並びに開発・運営を行っている株式会社gumi社内の審査・監督体制の不全による人的ミスにより実装されるという不具合が発生してしまいました。
(後略)

「FFBE幻影戦争」プロデューサーレター #19 より引用)

「不具合」。「不具合」とのことである。

まずそもそも、一般的な「不具合」という言葉の定義を確認しておきたいのだが、「不具合」というのは「Aであることを意図して実装したが、実際の挙動がBであった」という場合に用いる言葉である。

例えば、ガチャの期間を5日間にするつもりが、間違えて6日間にしてしまっていた、というような場合が典型的な「不具合」にあたるといえるだろう。(マスタデータの入力ミスや、コードのバグによって、意図通りの挙動になっていないため)

しかし、今回のガチャは通常のガチャと全く異なる仕組みのものである。
エンジニアが意図をもってそういうコードを書かないとあの挙動にはならないので、「1枠ずつの抽選のつもりで実装したら、意図せずリスト形式の挙動になっていました」ということは、絶対にありえない。

ここは断言しても良いが、「リスト形式のガチャにしよう」という意図がどこかで働いていない限り、あの仕組みにはならないのだ。

問題は、その意図がどこで働いていて、スクエニがその意図を検知できていたかである。

ここで、gumiとスクエニの関係については、消費者庁によって下記のような事実が認定されている。

gumiは、本件5役務に係る本件ゲーム内の表示内容について案を作成し、スクウェア・エニックスの監修を受けるなど、同社と共同して決定している。

消費者庁公表資料 P41より引用)

上記の事実認定と、一般的に開発・運営を外注している際の、パブリッシャーとデベロッパーの関係から推測するに、両者の関係性と体制は以下のような形だったのではないか。

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その上で、仮にこのような体制であった場合、どこまでのメンバーが本件ガチャについて「リスト形式のガチャである」という仕様を知っていたのだろうか?

これについては、あくまで筆者の推測であるが、下記のような3段階に分けて考えられるのではないか。

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①開発・運営担当であるgumiの担当プランナー/エンジニア、その上長であるリーダークラスのメンバー及びディレクター

まず、ここは「ほぼ確実に今回の仕様を知っていた」と考えられる。
担当エンジニアが意図をもってリスト形式の実装をしないとあの仕組みにはならないし、担当エンジニアが独断でそのような実装をするはずがないため、いわゆる開発チームにおけるディレクターまでは本件ガチャの仕組みを知っていたはずである。(イコール、表示との不一致が生じていることも知っていたはずである)

②パブリッシャーであるスクエニのディレクター/プランナー

次に、このメンバーについても「今回の仕様を知っていたと考えるのが自然」である。
というのも、開発・運営を別会社に委託する場合、後から揉めることがないように「①スクエニ側から一定期間の運営方針や新機能の要件定義などがまず提示され」、「②それを受けてgumi側が実際の運営スケジュールや新機能の企画書などを提案し」、「③その企画をスクエニ側が承認し」、「④企画を実現するための仕様書をgumi側が提示して」、「⑤仕様についてもスクエニ側が承認する」というフェーズで開発が進んでいくのが一般的だからである。

また、スクエニは単なるIPを持った版元ではなく、自らスマホゲームやコンシューマーゲームを制作するデベロッパーでもある。そのため、開発・運営を担当するgumiに仕様を丸投げということは考えづらく、スクエニ側の担当ディレクター/プランナーも彼らの開発ノウハウを活かして今回の仕様にフィードバックを戻していると考えるのが自然である。

さらに今回のガチャは、従来のガチャと違う新しい仕組みであり、スクエニ側もそれを認識していたということがスクエニ自身の発表で明らかになっている。

(前略)
原因と致しましては、今回ご提供させて頂きました召喚が、従来の召喚と違う、新しい仕組みを利用していたことが発端となります。
(後略)

「FFBE幻影戦争」プロデューサーレター #12 より引用)

そうだとすれば、なおさら本件ガチャの目的、その目的を達成するための企画、企画を実現するための仕様については、丁寧に認識を合わせながら進めていくはずであり、スクエニ側のディレクター/プランナーも本件ガチャの仕様を知っていたと考える方が合理的である。

というわけで、自分の心象としてはここまでは真っ黒である。

③gumiのプロデューサー及び、スクエニのプロデューサー

最後に、両社のプロデューサーについては、「今回の仕様の細かい部分について知らなかったとしてもおかしくはない」と考えている。

プロデューサーに一次的に上がってくる情報というのは、「1周年記念でUR10枠確定のガチャをやります。ユニット5枠+ビジョンカード5枠のガチャで、大体〇〇%くらいの課金率と、◯◯円くらいの平均課金額を狙っています」くらいの粒度の情報である。

そこに違和感があれば突っ込みを入れるが、妥当な企画とKPIだと思えば、ゲームの中身まで細かく見て口出しするタイプのプロデューサーでもない限り、具体的な仕様には深入りしないことも多い。

そのため、プロデューサーは今回のガチャの仕組みがリスト形式であることを知らなかったとしても、不自然ではない。

むしろ、知っていたらほぼ確実に止めるはずだと信じたい。わざわざ1周年のタイミングで、そんな極大リスクを負って目先の利益(しかも限界突破しにくいことから、より課金されるのではないかという微妙な利益)を取りに行くのは、全く合理的な判断ではないからだ。

したがって、ここについては自分の心象としては、本当に知らなかったのではないかと思っている。

こう考えると、スクエニの発表にある「弊社の意図したものではありませんでした」というのは絶妙な表現で、タイトルの最高責任者たるプロデューサーが知らなかったのだから、会社の意思としてはGOを出していないのだが、でも「全く知りませんでした」という事実に反することは書けずにこの表現になったのではないかと邪推してしまう。(そう読むと、その直後の「チェック機能の不全」が原因であったという説明にもつながってくる)

もっとも、「人的ミスにより実装されるという不具合」という説明は明らかにおかしくて、現場メンバーの意図通り実装されて意図通りの挙動をしているものを、なんとか「ミス」「不具合」という見せ方にしたいという考えで書いているのが透けて見えてしまっている。

もうひとつの可能性

さて、ここまで書いてきたのはスクエニの発表にある「今回の召喚が従来と違う新しい仕組みを採用していた」という説明を前提にした仮説である。

それとは別に、もうひとつこの状況を説明できる仮説が存在する。

それが、「実はこれまでの全てのガチャもリスト形式で排出されていて」「それらは組み合わせ数が膨大であったことからこれまで発覚せず」「今回はUR限定にしたことにより組み合わせ数が激減し、たまたま発覚した」という仮説である。

なぜそのように考えられるのか、その理由について説明しよう。

今回問題となった『FFBE 幻影戦争』のゲームシステムは、同じgumiの開発した『誰が為のアルケミスト』というゲームをベースに開発されている(さらにいえば、『誰が為のアルケミスト』はもっと前の『ファントム・オブ・キル』というゲームをベースに作られている)。

そして、『誰が為のアルケミスト』でも、『ファントム・オブ・キル』でも、同じようなリスト形式のガチャがユーザーの検証によって発覚していたという事実がある。

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(『誰が為のアルケミスト』で疑われていた、リスト形式ガチャの排出順の画像。こちらのサイトから引用。)

また、『FFBE 幻影戦争』の海外版においても、今回問題となったガチャが実施されたバージョンより古いバージョンで「リスト形式のガチャ」が見つかっており、「今回より前のバージョンでもあったということは(運営の説明とも矛盾するし)、実は最初から全てのガチャがリスト形式だったんじゃないのか?」という疑念が浮かんでくる。

開発現場を見ているものの肌感としては、この仮説は「そうだと言い切る証拠は(状況証拠以外)全くないが、与太話と笑い飛ばすには説得力がある」という印象である。

コストダウンのために成功したゲームシステムを流用し、IPを載せて外見だけガワ替えをするような手法はスマホゲーム開発ではありふれているし、その際にガチャやログボ、ミッション等の「どのスマホゲームにもある機能」は元のゲームからそのまま仕様を引っ張ってくるようなことも良く聞く。

また、一番最初からガチャがこの仕組みで、今回初めて発覚するまでスクエニ側がずっと知らずにきたという仮定も、(相当お粗末な話ではあるが)ありえなくはないと思う。

ごく一般的な単発ガチャや10連ガチャの企画書・仕様書を書くときに、その厳密な抽選方式まで書くかと言われたら、書くのが普通だと思うが、PJの状況(例えばリリース時期のコミットがあって短期間で作らなければならない等)や開発会社の能力次第では、その部分の記載がなく、UIの挙動やガチャ演出の内容、各種画面の表示内容等だけが書かれていることもあるかもしれない。(gumiにとって、ガチャ抽選=リスト形式であるということが当たり前過ぎて、あえて書かれていないなどもありえる)

したがって、この説も相当な説得力を持っているのだが、現状では確たる証拠がないため、これ以上の追求は難しいように思う。

おわりに ~スクエニの不誠実さ極まる対応~

自分が何より許せないのは、パブリッシャーであるスクエニの不誠実さ極まる事後対応である。

スクエニは、「意図しなかった」だろうが「知らなかった」だろうが何だろうが、本件ガチャが炎上した直後に実装内容を調査したのであり、その時点で本件ガチャが「表示と異なるリスト形式で実装されていて、ユーザーにとって不利益な内容になっていた」ことが分かっていたはずである。

つまり、スクエニがいくら「意図せず不具合が生じた」と弁解したとしても、少なくとも問題発生直後から、今回の実装内容を把握していたことは疑いがないし、その後のスクエニの行動は全て意図的なものだといえる。

にも関わらず、「リスト形式ではないか」という事実をユーザーに指摘されても認めず、「新しい仕組みを採用していたことによる不具合」などと問題を矮小化し、消費者庁の措置命令を受けるまで事実を開示しなかった。

今回、たまたま消費者庁の調査によって事実が発覚し、公表されることとなったが、そうでなければこのユーザーにとって不利益な仕組みが明らかになることはなかった。

これは完全に「バレなければいい、バレるまでは黙っておけ」の精神だし、バレた後にも「不具合」と言い張って、「不具合の改修等もすでに完了しておりますため、現在のゲーム環境は安心して遊んで頂けるものとなっております」とは一体何の冗談か。
安心できないのはゲーム内容ではなく、スクエニのユーザー軽視の姿勢である。

人も会社も、大きな失敗をした時、やらかしてしまった時にこそ本質が問われる。潔く誤りを認め、客観的かつ徹底的な調査と情報公開を行い、具体的な改善策を示し、実行し続ける。そうすることで失った信頼を少しづつでも取り戻すことができれば、それに勝る利益はないのだ。自分はそう信じている。

……最後に、この記事では分かりやすさのために、「スクエニ」「gumi」と主語を大きく書いた。自分は両方の会社に知り合いがいるし、尊敬できるプロデューサーや開発メンバーもたくさんいる。彼らの大半は、ユーザーのことを真摯に考えて、日々面白いものを作り上げるために努力を惜しまない、一流のクリエイターであることは付記しておく。

『FFBE 幻影戦争』の関係者には、猛省を求めたい。




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