花譜三周年記念 プロデューサートーク
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花譜三周年記念 プロデューサートーク

不確かなものをつくります。

10月18日にデビュー三周年を迎えるKAMITSUBAKI STUDIOを代表するアーティストの一人であるバーチャルシンガー「花譜」。デジタル空間におけるエンタメの可能性を拡げる彼女について、花譜のプロデューサーであるPIEDPIPER氏に花譜の今までとこれからについて話を聞いた。

インタビュアー:泉夏音

ーー2018年10月18日、YouTubeに「花譜 #01」をアップしてからデビュー3周年となります。当時13歳の中学生という新世代バーチャルアーティストとして注目を集め、そこからコンポーザーであるカンザキイオリさんと共に激動の日々を駆け抜けてきました。PIEDPIPERさんはプロデューサーとして花譜を見出したわけですが、この3年間の月日をどのように振り返りますか?

PIEDPIPER:体感としてはとても早かったですね。あっという間の3年でした。正直大変だったことの方が多いですが、常に新しいものを求めてR&D(研究開発)を積み重ねてきた結果、花譜も僕自身もとても面白い経験ができたと感じています。

 それにこの3年でVtuberをはじめとするバーチャル業界も大きく変わりました。花譜がデビューした頃はVtuber全盛の時代でしたが、今ではVライバーの存在感が非常に大きくなっています。そういう変化はありながらも、花譜は歌を活動の中心とする「バーチャルシンガー」的存在ということもあり、当初考えていた方向性と大きくはずれてないので、元々やるべきことの方向性や実務面が変わったと感じる部分はありません。新型コロナウイルスのパンデミックという想定外の事態はあったものの、その都度やるべきことを判断しながら、この3年間を過ごしてきました。

ーー当初予定していたプランと、大きく予定が変わったような感覚はありますか?

PIEDPIPER:勿論すべてが予定通りではないですね、こういう状況下でもありますし。ただ、いずれにせよ唐突に始めたことは一つもなく、全体的に一貫した繋がりはあると思います。
「プラン外」な事を挙げるとすると、やはりコロナの影響でライブの在り方が大きく変わってしまったこと。有観客でできなくなったことで、強制的に「バーチャルライブ」に挑戦するキッカケとなりました。

ーーコロナに関しては、すべてのエンタメ業界に関わることではありますし、そこで思うように活動ができないアーティストもたくさんいると思います。そんな中でも、花譜さんはコンスタントに作品リリースやライブも行い、すごい勢いで知名度を高めている印象はあります。

PIEDPIPER:面白く拡がった部分もあれば、まだまだだなと感じる部分も勿論あって。というのも、<KAMITSUBAKI STUDIO>に所属するVシンガーの花譜としては想像以上の結果になったと思う反面、一人のアーティストとして捉えると「想像を超える体験」というのはまだ全然創り出せていないのではないか、と。とはいえ、「バーチャルアーティスト」自体の流行り廃りはすごく早いですし誕生と引退を繰り返す業界の中で、右肩上がりをある程度維持出来ただけでもとても価値があることだと思っています。

ーー確かに、引退や中の人が代わることもよく目にします。そもそも<KAMITSUBAKI STUDIO>が若いレーベルではありますが、新しいアーティストをどんどん輩出し、着実にファンを増やしています。

PIEDPIPER:インディペンデントなレーベルとして考えたら、勿論善戦はできていると思います。一方で、いわゆる“ネット発アーティスト”というカテゴリーにおいては、メジャーレーベルさんからデビューしているAdoさんやYOASOBIさんのような「バーチャルではないけど、2次元と3次元を掛け合わせた」アーティストに大きな潮流があるとも思っていて。花譜もそのステージでも勝負できるような存在になって欲しいという願いは常にあります。

ーー今上がったアーティストと花譜さんの違いをどのように捉えていますか?

PIEDPIPER:外部のアーティストさんにはあまり言及しずらいですが、花譜自身の音楽性に加えて、IPとして展開しているプロジェクト(『神椿市建設中。』)での「森先化歩」としての配役や、音楽的同位体 可不(花譜の声を元にした音声AI)などが重なり合う、やや複雑なコンテクストが絡み合っていることもあって、そこをもう少し噛み砕いて沢山の皆様に届ける必要があると日々考えています。

もちろん、そういった作品性の奥深さがあるからこそ付いてくれているファンもたくさん居るとは思います。だからこそそのスタンスは損なわず、今後はそれらをより拡げるための「物語ること」にも運営として力を入れていきたいです。

ーー可不の広がりはすごいですね。syudouさんやかいりきベアさん、みきとPさんなど若手からベテランまで著名なボカロPが、可不で楽曲を制作してYouTubeにアップしています。

PIEDPIPER:デモソングとして初動の部分でお願いしたクリエイターの方々も沢山のいるのですが、我々と特に接点がないボカロPの方々が、面白がって自主的に使ってくれている事も嬉しいです。おそらく、花譜の声はVOCALOID的な存在としても聴きやすくて面白い声なのかなと。聴く側もCeVIO AIの可不は知っているのに、元ネタである花譜は知らないこともあって。これまではKAMITSUBAKI STUDIOと花譜はセットで認知されてたんですけど、それこそ可不の楽曲やTikTokなどで知った人はレーベルのことは全く知らない。でも声や歌が届くのならば、それでも良いと思っています。
花譜や可不の名前が単体で拡がっているのは一つの事象として面白いですし、今後を見据えると良い状況だなと感じています。

ーーPIEDPIPERさん自身も予想外の広がりを見せているのは面白いです。花譜さん自身の印象は、この3年間で変わりましたか? そもそも音楽アプリを通して花譜さんを発見し、その歌声に直感的に惹かれたことがスタートだと思いますが。

PIEDPIPER:もともと何を考えているのか全然わからないタイプの子だったんですよね(笑)。今でも不思議なところは全然変わらずですが、出会った当初は尚更掴み所のない感じで、本当に田舎にいる素朴な女の子という印象でした。プロになりたいとか、音楽でご飯を食べるみたいな野心も全然なかったと思います。歌も単純に好きで歌っていただけであって、周りの友達に褒めてもらえると嬉しいくらいに思っていたのかなと。

なので、最初に直接会った時は本人も訳がわからなかったと思います。僕らは何十万、何百万の人に歌声を届けよう!と提案したわけなのですが、当たり前ではありますが彼女からしたら話のスケールが違います。だから、最初から円滑なコミュニケーションとはいかなかった。僕らも頑張って会話をしようとしたんですけど、年齢も離れていますしね...。

ーー当時中学生ですからね。それに保護者の方々に理解いただく必要もあったと思います。

PIEDPIPER:「中学生が芸能活動を行うこと」に対する心配は御両親として当然あったでしょうし、特にインターネットにビジュアルを出すことへの抵抗感は持たれていましたね。そこでその当時すでにキズナアイさんが活動されていたので、Vtuberというインターフェースについて説明した結果こういう形だったらやってもいいのでは、と本人含めて安心してもらえました。

そこから東京に来るかどうかという話にもなったのですが、とりあえずは高校を卒業する頃までは地元で活動していきたいと。

ーーそこから3年が経って、花譜さん自身の成長や変化はどのように感じていますか?

PIEDPIPER:これは本人の口からも聞いていますが、「とにかく歌を一生続けていきたい」みたいな想いは、日々強くなっていると感じます。あとは、観測者の方々とコミュニケーションを取りたいという気持ちも日々高まっていて、オフ会みたいなものをやってみたいとか、Twitterでの個人的な発信をもっと増やしたいとか、そういう本人自身の意思が凄く強くなっています。
元々の気質的な部分は変わらないですが、プロのアーティストとしての心構えみたいなものは芽生えてきたのかなと。

ーーパフォーマンスやクリエイティブに関しては、どうでしょうか?

PIEDPIPER:この2年くらいですかね、アーティストとしてのすごい才能を持っているなと改めて感じたのは。
最初の1年はプロデュース要素が強くなるのは当然で、生配信とかはさせずになるべく歌だけに注力してもらえる環境を作っていたんですけど、今は本格的なポエトリーリーディングみたいなものを自分でも書くようになりましたし、そういう「言葉」に対する興味と伸び代は非常に感じます。歌に関しても、どんどん個性的になっている。勿論高校生ということもありますけど、停滞するような気配は一切ないですね。

あと、可不の存在に刺激を受けているところもあって、自分から生まれたAIシンガーに対して「ライバル意識」というのはなんだか変な感じもするんですけど、そこに負けないように歌い方を工夫をしているというか。

花譜自身にしかできない歌の表現を日々追求しているように思います。

ーーPIEDPIPERさんが、花譜さんとの3年で印象に残っていることはなんですか?

PIEDPIPER:やっぱり初めてレコーディングスタジオで収録した時ですね。自分の想像の範疇を越えてきた時の感動は、今思い出してもグッときます。何事も最初はやってみないと分からない事ってあるじゃないですか。花譜の声にしても、今でこそこういう系統の声のアーティストがトレンドになっていますが、その当時は状況も違っていました。いざ歌ってみたら微妙かもしれないし、自分が正解だと思ってもこういう声が評価してもらえるかは全然分からなかった。

でも、花譜の歌声は、そういう心配が霞むくらい光るものを感じられたんです。最初のレコーディングの時点で、彼女の才能が僕の中で確信に変わったというのが大きかったですね。

ーー実際、それが観測者の方々や、業界の中でも注目されるようになった。

PIEDPIPER:そうですね。これまでも様々なタイアップ曲を担当してきたのですが、その殆どが正攻法で掴み取ってきたものなんですね。

例えば、アニメや映画でも委員会制度があって、そこに出資している企業からアーティストが選ばれることがほとんどです。今でこそ、そういった制作委員会などに参加する機会も少し増えてきましたが、KAMITSUBAKIも発足当初はまだそういった繋がりが極端に少なかった。それでも花譜の歌声やクリエイティブを評価してもらって、アーティスト力で様々な作品に選んでいただけたことは、本当に彼女が起こしたミラクルだと感じています。

ーー2019年に堀未央奈さん主演映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』の主題歌を「夜が降り止む前に」で担当された際も、山戸結希監督自ら花譜さんの曲を推薦してくれたというエピソードもありました。当初、花譜さんをデビューさせるにあたって、どんなことを考えていたのでしょうか?

PIEDPIPER:映像作家の川サキ(ケンジ)さんと仕事をしたいと考えていたところから始まって、イラストレーターのPALOWさんとは元々知り合いだったんですけど、そこに出会ったばかりのカンザキくんが加わって……花譜との出会いもそうですが、ある種の運命的な引き合わせによってスタッフの座組みは決まっていきましたね。
ビジュアルに関しては、その当時のVtuberは割とアイドル性の強い見た目がトレンドではあったのですが、花譜の場合はあまり性別的な部分は前に出さず、シンプルでデザイン性の高いものを求めていました。カウンター精神ではないですが、当時の主流とは外れてももっと美しくて、ミステリアスな雰囲気を残すようにしたんです。その考え方は、花譜のライブや楽曲の軸にもなっていると思います。

ーートレンドとは正反対を行くような考え方だったんですね。音楽面において、カンザキさんとはどのようなお話を?

PIEDPIPER:もともと僕はカンザキイオリの音楽のファンでしたが、その音楽性をそのまま花譜に歌ってもらうのは違うのではないかと思っていて。基本的には彼の感性に任せている部分はありますが、カンザキくん自身の曲と花譜の曲は切り分けて考えて、本人の人間性や年齢も意識して作ってほしいということは最初に伝えていたと思います。

中にはカンザキ君が花譜にインタビューして作った「そして花になる」のような曲もありますし、最近リリースした「海は化ける」という曲では彼の作詞のセンスの成長に圧倒されました。二人の組み合わせも3年になりますが、関係性が深まっていく中で曲もどんどん洗練されていると思います。

ーーカンザキさんと花譜さんの関係性を例えるならどんなものでしょうか?

PIEDPIPER:二人は出会った時から運命的なものがありました。抜群に相性が良かったんですけど、そこから生まれるシナジー、二人の絆は年々強くなっているように感じます。本当に年の少し離れた兄妹みたいな感じなんですよ。家族的というか、お互いに足りないものを補い合っている感じはします。最近は花譜がポエトリーを考えることもあるのですが、そういう言葉への関心や影響は、カンザキ君から受けている部分は大きいのではと思います。

ーーPIEDPIPERさんもお二人の活動に関わる中で、刺激を受ける部分はありますか?

PIEDPIPER:そうですね、お互いに影響を受け合う、良い三角形ができていると思います。カンザキ君に関しては、「何年に一人」ではないですが、僕が出会った中でも驚異的な才能を持つクリエイターだなと思います。若いクリエイターは割と綺麗にまとまっていることも多いんですけど、彼の場合は想像の範疇を超えてくるような「野性味」があるんですよね。

ーーデビュー当初はカバー動画を出していましたが、2018年12月に最初のオリジナル曲となる「糸」を公開しました。なぜこの曲を1曲目に持ってきたのですか?

PIEDPIPER:この選曲に関してはプロデュース的な考え方が強いです。1曲目はアップテンポの曲を出そうと考えていたのと、花譜の歌声の切なさやエモーショナルな部分がより伝わるようなものにしたいと思っていたんです。あと、単純に最初にできた候補曲の中で一番ピンときたのが「糸」でした。

ーーPIEDPIPERさんとしては、どのタイミングで花譜さんの活動に手応えを感じるようになりましたか?

PIEDPIPER:2018年末に行われたバーチャル音楽イベント『Count0』に出演してバズが起きた時ですね。その後に出した「心臓と絡繰」も良い反応をいただいた一方で、2019年の1月頃に花譜や運営元に対する疑惑が拡散、炎上してしまって。何か違反を働いたわけではないのですが、番組露出の仕方や作品のクオリティの高さ、YouTubeでの再生回数の増加などを発端に、様々な「誤解」が重なったことで釈明の必要が生じてしまった。

周りの方からはそっとしておいた方が良いのではないかという意見もあったのですが、個人的には不透明なことが多すぎてこういう状況になったのではないかと思い、一か八かしっかりとした声明文を出したんです。それに対する肯定的な意見が予想以上に多くて、その時に応援してくれる方々の存在をちゃんと感じられたのが非常に大きかったですね。

ーーその一件が<KAMITSUBAKI STUDIO>の前身である<KAMITSUBAKI RECORD>を立ち上げるきっかけにもなりました。そういったアクシデント的なこともありつつ、花譜さんの勢いを決定付けたのが2019年8月に開催した1stワンマン『不可解』でした。クラウドファンディングの支援金が4千万円を超え、ライブ当日はTwitterで世界トレンド1位を記録するなど、花譜さんの存在が一気に広がりました。

PIEDPIPER:あのライブは思い入れが強すぎてなかなか言葉にできないのですが、本当に感動しました。あの時に湧き上がった気持ちをもう一度体験したいですし、逆にその気持ちを今だに追い求めているところもあります。

他の所属アーティストも勿論ですが、特に花譜は<KAMITSUBAKI STUDIO>の第一弾アーティストということもあって、ライブをやるからにはお客さんを必ず感動させるレベルのものを見せていきたい。そこは数値で測るものではなく、個々のお客さんにどんな感情を与えられるかに重きを置いて、先々のライブについても考えています。

次のライブまで少し時間はいただくかもしれませんが、『不可解参』は前回のライブ『不可解弐REBUILDING』を超える決定的なものにしたいですね。

ーー1stワンマンは花譜さんにとっても、大きなターニングポイントだったと思います。

PIEDPIPER:純粋に感動した一方で、もっと自分自身のスキルを高めなければいけないという、「ある種の焦り」みたいなものは花譜本人にもあったかもしれません。初めてのステージということもあって、花譜の歌が中心にはありながらも、どうしても演出の方が強く出てしまった部分もあったので。本人が「もっと頑張りたい」という意識が芽生えるきっかけになったように感じます。

 それに、その頃はまだ「花譜という存在」と「オリジンである本人の人格」が少し分離していた時期だったと思います。花譜は私であって、私じゃないみたいな。Vtuberはキャラになりきるというか、少し演じているような印象があるケースが多いと思うんですけど、僕は花譜のドキュメンタリー性を強く出していきたいと考えていたんです。だからライブをきっかけに本人と花譜の境界が薄くなったことで、花譜という存在の実在感が高まったような印象はありました。

ーーアバターはあくまでインターフェースであって、そこにいるのはリアルな人間であると。バーチャルとリアルを区別しないのは、<KAMITSUBAKI STUDIO>の指針でもありますよね。

PIEDPIPER:本人の人間性をどのくらい出していくべきなのか、どちらが良いのか議論を重ねた結果が今の花譜で。ライブのMCでも、高校生の自分、花譜として歌う自分、「神椿市建設中」の物語を演じる自分、そういう色んな要素をひっくるめて花譜なんだと語っていて、自分自身のことを俯瞰的に見れるようになっていると感じますね。

僕はそういう多面性がとても良いなと思うんです。すべてがフィクションではなく、かといってドキュメンタリー100%でも無い、何種類もの自分を自認しながら花譜として生きることが素敵なんじゃないかなって。

ーー2019年は1stアルバム『観測』をリリースしました。今振り返ってみて、この作品はどんなものだったと言えるでしょうか?

PIEDPIPER:タイアップ曲はあまり入っていないですし、ここをスタート地点にするという意識で制作したので、手探り的な表現も含めてピュアなものを詰め込めた作品でしたね。

やっぱり、ライブに向けて作った花譜としてのメッセージを表現した「不可解」と、少しお茶目な等身大の自分を描いた「そして花になる」の相反する2曲を入れられたのは良かったです。どちらが欠けてもダメで、それぞれの表情が今の花譜のスタンダードになっていると思います。

ーー花譜さんの音楽面の基礎を作った作品ですね。

PIEDPIPER:そうですね。ただ、現時点の話で言うと、少しフォーマットが固まってきている感じもするので、それをどう逸脱していくのかは考えています。花譜自身の歌もどんどんレベルアップしているし、これまでのルールを一度壊して新しいことに挑戦する必要もあると思いますし。

もちろん、積み上げてきたものにしかできない強みやクオリティの高さみたいなものは絶対あるので、あまりアヴァンギャルドにし過ぎてもいけない。そのバランスの難しさに今は頭を悩ませています。

ーーそして2020年に突入し、新型コロナウイルスによって状況も一変しました。2ndワンマンライブ『不可解弐』も開催形式を変更し、『Q1』『Q2』と分けたバーチャルライブとしての開催を余儀なくされました。1stワンマンと比べて、花譜さんのパフォーマンスにはどんな印象を持ちましたか?

PIEDPIPER:より感情表現を出せるようになったと思います。初期の頃はMCも拙かったのですが、2ndワンマン以降は結構喋りも達者になっていて。自分にファンがいることを本人も認識するようになったのが大きかったのかなと思います。

きちんと自分の気持ちを誰かに伝えようとするようになった。

普段の彼女は面白いことを言うようなタイプなんですけど、ステージだと自分の本音をちゃんと真剣な言葉として表明してくれる。

そういう部分も才能なのかなと思います。もちろん僕やカンザキ君の影響をちょっとだけ受けて、自分の言葉で発信できるようになった側面もあるんだと思いますが、ファンの方々に向けても意思表明できるようになったのは大きな成長だと思います。

ーーその後に2ndワンマンを再構築した『不可解弐REBUILDING』を『Q1』『Q2』『Q3』という3公演で開催。本ライブではクラウドファンディングで8000万円を超える支援が集まり、『Q3』では初めてゲストを招かず、花譜さんだけで公演をやり切りました。

PIEDPIPER:他アーティストと掛け合わせる楽しさもあるし、バーチャルアーティストはコラボも大事だとは思っていますが、観測者の方々からはよりワンマン性の高い公演も求められていたんです。
やはり、初期衝動的なものやド直球の花譜のライブを観たいという気持ちが伝わってきたので、あえてライブアレンジはだいぶ抑えて、音源に近い形でやらせてもらって。
そういう正攻法的なやり方が受け入れられたのも、すごく良かったですね。

本人は割と何でも楽しめるタイプというか、ただただ観測者の皆さんに会えるのを楽しみにしていて、当日も感動している様子は伝わってきました。
ただ僕からすると、お客さんの前でやるワンマンはまだ2回目なのかと……。これだけ色んなことをしてきたのに、と少し複雑な気持ちになりました。

ーー同年には2ndアルバム『魔法』をリリースしました。1stアルバムから音楽性も拡張し、ライブでの振り幅が出るような曲も収録されていましたね。

PIEDPIPER:『魔法』は、『観測』と比べて打ち込みの要素が強くなりました。「私論理」「危ノーマル」などはそれまでの花譜にはないテイストでしたし、初期から見ている方からすると、意外性のある楽曲が多かったのではないかと。『観測』のピュアさも好きですが、ライブで楽しむという視点でも『魔法』は花譜の新しい可能性を提示できた作品になったと思います。

ーー花譜さんの歌のスキルも上がっていますし、それに伴ってカンザキさんの新たな一面も引出される。理想的な関係性にあると思います。

PIEDPIPER:そうですね。ちょっと言葉では言い表せないんですけど、格段に花譜も進化していて。レコーディング現場でも、本人からもカンザキ君からもどんどんアイデアが出てくるんですよ。初期の花譜だったらあり得なかった光景だなと。

ーーカンザキさんやPIEDPIPERさんはもちろん、レーベルメイトでもある理芽さんや春猿火さんらとV.W.P(Virtual Witch Phenomenon)を結成したことも花譜さんの刺激になっていると思います。

PIEDPIPER:刺激もあると思いますが、あの5人は本当に仲が良くて(笑)。
<KAMITSUBAKI STUDIO>が独自の道をいっているので、V業界内の横の繋がり的な部分は未だに薄いのですが、その分レーベル内でのコミュニケーションはとてもとれていると思います。ソロアーティストは特に孤独を感じやすいところもあると思うのですが、同じ境遇の仲間がいることは救いであり、支えになっているようにも感じますね。

ーーレーベル外のアーティストとのコラボでは、直近だとキズナアイさんとのコラボシングル『愛と花』(作詞・作曲は川谷絵音)が印象的でしたが、10月27日からリアルのアーティストとコラボ曲を配信する企画“組曲”もスタートします。

PIEDPIPER:今回はバーチャル分野から飛び出して、リアルのアーティストやクリエイターとのコラボに挑戦します。僕らの方で花譜に合いそうなアーティストをピックアップしたのですが、カンザキ君の曲とは別の角度から彼女の魅力を引き出してもらえたと思います。
大森靖子さんやGLIM SPANKYなど、ジャンルレスに色んな方々とコラボできることに、本人もめちゃくちゃ喜んでいましたね。すでに半分くらいはレコーディングを終えているのですがどの曲も本当に良くて、ここから花譜の世界観がより拡がっていくのではないかと思っています。

ーーどんなコラボ相手が登場するのか、今後の展開がすごく楽しみです。まずは3年という節目を迎えたわけですが、さらに5年後、10年後と花譜さんにはどういうアーティストになってほしいと思っていますか?

PIEDPIPER:今はインターネット発のアーティストが当たり前になっていますが、地方に住む普通の高校生が遠距離な活動方法でも本格的なアーティストになれることを示した先駆け的な存在だと思うんです。

『竜とそばかすの姫』のようにクラスの端っこにいるような子が、ネットの世界からスーパースターになっていく。アーティスト活動をしたいけど一歩が踏み出せない人は世の中に沢山いると思います。そういう切実な願いを胸に秘めている子達の希望的存在になって欲しいと思っています。

これまでであれば人前に立つことができなかった人が、バーチャルというインターフェースを手にしたことでチャンスを掴むことができる。
「花譜さんのようになりたい」「オーディションはやらないんですか?」という問い合わせも日々沢山頂きますが、そういう想いに応えられるバーチャルとリアルを繋ぐ象徴的な存在にしてあげられたらいいなと思っています。


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不確かなものをつくります。
バーチャルシンガー「花譜」の運営チームプロデューサーです。 定期的に花譜の情報などを更新していきます。