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『旧市町村日誌』40 旅の中断中に 文・写真 仁科勝介(かつお)

5月も終わり。旅の中断中に蛍を見ました。知り合いの方々が蛍を見る会をひらくそうで、その下見についてこないかと。ただ、5月下旬はまだ蛍が飛ぶには早いのではないか、という気持ちがなくはなかったし、それは全員が思っていたことかもしれません。

 

ですが、薄暮の里山に到着し、徐々に目が慣れてくると、細い清流の茂みからほの明るい点滅が見えました。

 「いた!」

ぼくもその黄色い点滅を確かめたとき、その明かりが自分の心に灯されたように嬉しく、時間を忘れて蛍を探しました。蛍は自分が何歳になっても、心を少年に戻してくれます。けれど、蛍の命というものは、たった数週間であるわけで、光跡には美しさと同時に、悲しさも感じられます。彼らは満足して命をまっとうできるだろうか。どうか、最後まで生き切って欲しい。そして地球からすれば、人間こそ蛍のようにあっという間に命を終える生き物なのだと思わされます。その流れの中にいることを忘れてはいけないし、人間という存在の小ささや、それでも生きていく美しさ、喜びのようなものを、ピシッと教えられるようでした。

 

その後も旅の中断は続き、まもなく再開しますが、その間に起きたいろいろなことを振り返ると、旅の中断はいつも必然であるように感じられます。もし、旅を休んでいなかったら、これらの日々には出会えなかったのかもしれない。そう思うと、深い意味までは考えずとも、人生は選択の連続であり、その結果が目の前で起き続けていることを思わされます。

 
ただ、本来は旅をしている最中こそ、その日しか出会えない景色と出会っているわけです。今、旅と日常の感覚が少し逆転してしまい、旅以外が非日常だと感じやすくなっているので、その日その日に出会うものの大切さと向き合う心をおろそかにしてはいけないと、内省しています。

 

また、今後の旅のターニングポイントが梅雨になることは、直感として強く思います。そもそもぼくは雨が好きです。ですが、最近は雨のもたらすものが大きくて、好きとは言いづらいような気もします。合羽を着てカブに乗り、視界は悪く、靴下や袖に雨水がしみ込み、いやだなあと気持ちになるわけですが、それでも、いざ堂々と雨に濡れてしまうと、いやな感覚を通り越して、いつも笑ってしまいたくなります。あっはっは、ずぶ濡れだねえ! と。とにかく雨とは、良い関係性を築きたいものです。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。



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