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『もう一度旅に出る前に』39 地名と漢字 文・写真 仁科勝介(かつお)

以前、立川市にある国立国語研究所という施設に伺った。お会いしたのは言語の研究をしている高田智和先生という方で、引き合わせてくださった方もいた。地名や言葉の専門家であり、豊富な知識と柔らかなお人柄を感じてとてもたのしかった。その中でも、高田先生のかつてのフィールドワークが凄かったのだ。

そのフィールドワークは地名の漢字である。たとえば畭町、椌木通、泙野‥‥。難読漢字のようで、難読漢字なのかもよくわからない。そもそも、漢字の形に見覚えがない。これらは地名として残っている漢字で、漢字の規格として残るか消えるかの境界線上にあった。読める、読めないに関わらず、普段なかなか目にしない漢字が、全国各地には数多く残されているのだ。ちなみに畭町は、徳島県阿南市の地名で「はりちょう」、椌木通は宮城県仙台市の地名で「ごうらきどおり」、泙野は愛知県豊川市の地名で「なぎの」と読む。ほかにも静岡県伊豆の国市の墹之上(ままのうえ)、富山県立山町の岩峅(いわくら)、茨城県牛久市の東猯穴町(ひがしまみあなまち)‥‥、知らない漢字と地名はほんとうにたくさんあることを知った。

すなわち先生は、地域の漢字を探して全国各地を飛び回っていたのだが、その資料を見せていただくと、各地の膨大なフィルム写真が残されていた。熱量と実践の賜物である。なんと丁寧なフィールドワークなのだと驚いた。マメな人はほんとうにすごい。

そして、その資料をお借りして、エクセル上に打ちなおした。だから、これから旅をするときに、まだその地名が残っているのか、すべてを探すことはできないかもしれないけれど、追加のフィールドワークとしてぼくも巡りたいと思っている。高田先生と出会わなければ、土地の漢字について考えることもなかった。率直な気持ちとして、見たことのない漢字がこんなにもあるのか、そしてそれを丁寧にひとつひとつ調べて回った方がいるのか、という衝撃である。


仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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