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『もう一度旅に出る前に』32 スーパーカブにお詫びして 文・写真 仁科勝介(かつお)

男の言い訳の多くがダサくなってしまうように、ぼくが今更スーパーカブに謝りたいと言ったところで、ダサいことに変わりはない。一方的な言葉なんて、相手からすれば、「で?」のひと言で十分だもの。だから、とにかく言い訳無しで、まるまる3年間カブに乗らずにいたことを、申し訳なく思っている。

前回の市町村一周は、カブあってこその旅であった。旅の初日、山道でスリップして大怪我をしたときも、カブは右のミラーが割れただけで、車体はほとんど無傷だった。カブの頑丈さとスタミナは天下一なのだ。アメニモマケズ、カゼニモマケズ、だったもんなあ。旅の最後のオイル交換で、「大事に乗られてますね」って言ってもらったとき、嬉しかったもんなあ。

それが、旅が終わった途端、用済みと言わんばかりに乗らなくなった。一旦は良いかな、と軽い気持ちで。何がいちばんダメかって、それは、仮に乗る機会が減ったとしても、定期的に乗って状態を維持させたり、掃除したりすることを怠ったこと。だから、気づいたときには、バッテリーが上がってしまっていた。

もし、カブ号に、「旅が終わって、ぼくのことどうでもいいと思ったでしょう?」と聞かれたら、どんな言い分も浅ましくなってしまう。モノを大切にする心を怠った罪は重い。このことは生きている間、ずっと逃れられないし、ずっと背負って生きていかねばならない。必ず。なぜなら、東京で勉強したことも、まるで同じだから。

心を入れ替えて、お詫びをして、今回の旅は、もう一度スーパーカブで走りたい。電動バイクにするべきじゃないか、と真剣に考えた時期もあったけれど、やっぱり、カブだ。3年間乗らずにいたことを、カブに心からお詫びして。

バッテリーが上がっているので、実家から手押しで1時間、バイク屋さんへ運んだ。お店の方に、カブへの申し訳なさをつらつら話して(これがまさに、言い訳というやつである)、修理をお願いした。お店の方は丁寧に話を聞いてくださった。そして、費用感についてもしっかり聞いてくださったが、高くなっても大丈夫ですと言った。今までごめんね、カブ号。もしまたエンジン音を聞かせてもらえるなら、どんな感情になるだろうか。


仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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