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『もう一度旅に出る前に』28 それから 文・写真 仁科勝介(かつお)

先週更新を飛ばしてしまったのは、体調芳しくなく、ほかの仕事も休ませてもらっていたからというのが、実際のところである。ただ、具体的に単語を並べたくないので、贔屓球団に倣って言うと、「アレ」ではなく、「それ」である。「アレ」は球団が目指すべきものだが、「それ」は避けたいものである。

これで、贔屓球団がバレてしまったわけだが、在学していた広島でも、上京してからも、味方が少ないのはなぜだろう。ちなみにアルゼンチンは今年、36年ぶりにワールドカップで優勝したわけだが、「アレ」を待つ球団は37年間、日本一になっていないのである。

さて。それ(になってしまって)から、家で過ごす日々が続いている。しばらく経つが、まだ体は本調子ではない。ただ1日の流れが以前よりゆっくりになったことは助かっている。自分でご飯をつくる時間も良い。あとは、キムチや、梅干しや、納豆や、もずくが、旨い。困ったときに助けてくれるのは体に優しい食べ物だ。

また、隣人とは連絡を取っていない。原因はぼくにある。しばらく前に一度隣人によるインターホンが鳴って、体調が怪しかったので出なかったわけだが、そのあとにLINEで「フェアリーかもしれない」とボケた。隣人からは「フェアリー!?」と返信がきて、それっきりなのである。

ここで考えられることは以下の通りだ。まず隣人が「フェアリー」の意味を理解していない可能性がある。フェアリーは妖精の意味で、「ようせい」は今回の文脈上、同じ音読みの「それ」である。という暗喩を、彼は理解できなかったのではないか。しかし、経験上彼がこの文脈を読み取れないはずがないのである。勘のいい彼のことだ、ものの数秒で状況を察知したはず。すなわち隣人は、状況をわかった上で、「フェアリー!?」とボケ返したのである。

というところなので、お互い意固地になって、先に連絡が来るまで別に連絡しないという我慢比べが続いている。ほんとうに状況が悪ければすべき連絡をするので、そうではないという信頼関係もある。だから、隣人にはまだ直接話せていないが、先に言っておきたいことがある。

日本人にとってずいぶん忙しかった、2022年12月18日、日曜日の夜である。ぼくはもう体がしんどくて、18時過ぎには寝てしまっていたわけだが、隣人の部屋からは、鉄筋コンクリートの壁を挟んでとても大きな笑い声がこだましていた。君が芸人ファンであり、予選会から推し活をし、いよいよ迎えたM-1決勝。君にとってもどれだけドキドキする瞬間だっただろう。ただ、君の笑い声が元来大きいことは、君を含めた周知の事実。今回はさらに、観ているものがM-1決勝なのだ。ぼくが布団の中で寝ようとしているとき、「あっはっはっは!!!」「あっひゃっひゃっひゃ!!!」という君の声を、何度聞いたことだろうか。そして、どんな気持ちになったと思う? それは、「笑う門には福来る」だ。こんだけ気持ちよく笑えば、さすがに福も来るわ。と思うぐらい気持ちよく笑っていたぞ。清々しい笑い声で、さすがに元気をもらったわ。

更に同じ日、日付を回った頃だと思う。そのまま寝ていたら、君の叫び声で目が覚めたんだ。「うぉー!」と聞こえて、何事だ!? って。一瞬考えてまもなく、アルゼンチンとフランスのW杯決勝中だってことは理解した。でもな、隣人。そのときのぼくの気持ちがわかるかい? 「アルゼンチンとフランス、どっちが点を入れたんだよ!」と、うなされる思いだったよ。やれやれ。その場で速報なんて、絶対に見たくないからね。朝になったらすごい結果だった。だから、君が叫び声を上げていたのは、メッシだったのか、エムバペだったのか、とても気になっている。今度教えておくれ。

早く「それ」がフェードアウトして体が楽になるといいが、とにかくいまはいまの時間として、無理しすぎず、でも、できることをできる範囲やって過ごしていく。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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