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『旧市町村日誌』25東北地方の旅を終える 文・写真 仁科勝介(かつお)


 10/7(土)曇りと晴れ

 終日撮影。編集者さんからいろんな話を聞いた。見慣れている土地の景色も、誰かの目線によって見え方がまるで変わる。彼女が瀬戸内海の海辺で靴をぬぎ、海に入る様子は、子どもの頃の姿が見えるよう。

 

10/8(日)曇りと雨

 午後から撮影。ここ数日間感じていた写真に関することをまとめるような時間。思考回路が、以前よりも落ち着いた気がする。

 

ずっと旅を続けていたら、当然ながら今回の仕事の出会いはない。でも、旅を続けていたとしても、新しい景色を知り、写真を撮り、その出会いの総数は増えただろう。

 

人は日々、何かに出会い続ける。出会い続ける中で、選択をしているにすぎない。その選択によって景色が変わっていく。人生はその繰り返し。それだけのはずなのに、進む道は大きく変わる。それだけの、はずなのに。

 

10/9(月)雨

 始発で酒田駅へ向かう。陸路で8時間の移動。半分くらいは寝てしまった。

 

ずっと気にかけていたスーパーカブは、無事だった。駐輪場を確認し、市役所にも電話して、置き手紙もカブに貼っていた。もしカブに何かがあったら、あらゆる計画が変わるところだった。ホッとしたし、やはり、自分で選んだ状況に対して心配することは、ナンセンスに思えた。祈る、ぐらいの言葉がいいんじゃないかな。無事は心配する、ではなく、祈る、ものだから。

 

10/10(火)曇り、晴れ、雨

 久しぶりに荷造りをしてカブのエンジンをかけると、日常に戻ったようだった。やっていることは明らかに非日常のはずなのに、体にとっての日常は変わってしまっている。「旅仕事がんばって」と言ってもらうことも一度ではなかったな。旅でもあり、仕事か‥‥。

 

10/11(水)晴れ

 朝の冷え込みが、くるぶしまで伝わってくる。朝6時台の日本海の方角に、大きな虹が架かった。夕刻ではなく朝に虹と出会うとは。約1時間ぐらいだろうか、ずっと消えずることもなく。虹が出るのだから分厚い雲が広がっていた海側だったが、反対側の空は、世の中の塵や埃を払ったような青空だった。

 

10/12(木)晴れ

 鶴岡市を巡り、東北地方の旅を終えた。最後だからこそ、出羽三山神社の石段詣も、覚悟を決めて登る。待ち構えるは、2446段の石段だ。序盤から現れる急勾配の石段に、なかなか顔が上がらない。修験道はひたすらに自分と向き合うもの。石段を登っている間、何かを考えている余裕はないのだ。流石に休憩を、とほんの少し足を止めたとき、鳥の鳴き声と、速くなった自分の心臓の鼓動だけが聞こえた。

 

10/13(金)晴れ

 昨日から、村上市のKさんのご実家に泊めさせていただいている。Kさんは若い頃に関東に長くいて、海外の経験も豊富。30歳ごろ村上に戻り、家業を守っている。夜、瀬波温泉に連れて行っていただき、最後は一緒にお酒をいただいた。大学生になり一人暮らしをはじめた息子さんの話をするときが、いちばん嬉しそうだった。Kさんの言葉には裏表がない。言葉の裏表を凌駕して、ひとつの芯がある。その芯があればこそ、子どもは大人を信頼できる。それは希望のようなもの。




仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。



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