いぬじにはゆるさない 第2話 「ヘビちゃん(1)」
「もう来ないかと思った。」
スクリーンに流れる新作映画の予告から目を離さないまま私がそう言うと、相手は少し大げさにドカッと隣の椅子に座り込んだ。
平日昼間の映画館はガラガラで、もうすぐ本編が始まるというのに私達以外に2組しかお客がいない。普通に会話をしても周囲に迷惑がかからない距離感であろうに、この男はわざわざ私の耳元に手を添えてからひっそりとした声で言う。
(言ったろ?遅れるけど絶対行くって!)
あざといと分っていながらも、この密接具合は正直なところ少しドキッとする