ちらしずしのしあわせ
甘酸っぱい匂いがふんわりとただよってきた。
義母がちらし寿司を作っているところだった。
一口つまみ食い。
まあ、なんともまろやかで、やわらかくて優しい。ほんのり酸っぱく。
厚めに切った甘辛いしいたけが最高。
もう一口。
あぁ、
おいしい。
またもうひと口。
胸がいっぱいになる。
大きく息を吸うと、
みるみるうちに目にたまった涙が、ぽろんぽろんとこぼれ落ちた。
母の話。
母は毎年自分の誕生日に、母の好物のちらし寿司を作っていた。
そして、誕生日は親に感謝する日、と言っていた。
祖母は体が弱く、若いうちから手足も不自由だったので母は子供の頃から家事をしていたそう。
貧しかったから、小学生くらいになると近所の子供の子守りをしたり、薪を拾ってお駄賃をもらったりしていたそうだ。
弱い体だったのに生んでくれたこと、苦労して育ててくれた祖母に感謝している。
そんな話をしながら酢飯を切る母を思い出した。
当時はぼんやり聞いていたけれど、今は重みが分かる。
義母は19歳で結婚したそうだ。
自由奔放、我が道をゆく義父にふりまわされながら、働きどおしで4人の子を育てた。
子育てを手伝ってもらいたい頃には
もう両親は亡くなっていた。
今では大人しくなった義父に悪態をつく。
ちょっと笑ってしまう。
「なんでもせにゃあ」
なんでもしてきた義母の言葉には説得力がある。
そして料理が上手で、魚の煮付けや里芋のにっころがしなんて、
いつもおいしすぎるのだ。
遠くで案じてくれる母。
そばで守ってくれる義母。
二人の母の苦労や、早く母に会いたいという思いや、自分がどれだけ恵まれているかということ、、
そんな思いが、酢飯一口で、私の頭を一気にかけめぐった。
私はしあわせ。
いつまでも二人の子供でいたい。
お母さん、ありがとうございます。
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