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遺産分割手続き総論【未完】

今日は、遺産分割事件の全体像についてお話をしたいと思います。遺産分割なんて、自分には関係ないと思っている方もいるかもしれません。けれど、誰だって、私だっていつ亡くなるのかわかりません。そのときになってから調べるというのは非常に負担が重いでしょう。家族の方を亡くされたショックのある状態で、さらに遺産分割事件について調べないといけないとなれば、パニックになってしまうかもしれません。事前に、遺産分割事件についてよく調べておけば、いざその知識が必要になったときに落ち着いて対応することができるでしょう。

遺産分割事件では、亡くなった方の財産である遺産をどのように相続人で分けるかということを決める手続きです。遺産分割協議書を作成することが一つ目標となります。ゆうちょ銀行の貯金は、長男が取得して、自宅については、妻が取得して、投資信託については長女が取得する、などというように各遺産を誰が取得するのか、ということを遺産分割協議書という書類にまとめます。そして、遺産分割協議書が作成されたら、今度は、遺産分割協議書に基づいて、財産を実際に分ける手続きが必要になります。遺産分割協議書や戸籍などの必要な書類をゆうちょ銀行に持って行って、貯金を解約して、解約金を長男が取得します。他にも遺産分割協議書を持って、司法書士に手続きをお願いして、自宅の名義を父親から母親に移転登記をします。

相続手続き、ということもありますが、厳密に言うと、相続と遺産分割とは別のことを意味します。相続というと、亡くなった方の財産を相続人が承継することを意味します。人が亡くなるとその人の財産は亡くなった瞬間、その相続人の共有状態になります。つまり、相続は、亡くなった瞬間に生じることになります。

これに対して、遺産分割は、相続人の共有になった財産の、その共有状態を解消する手続きです。共有の解消は、いつ行ってもいいので、相続からずっと後になってから遺産分割をするということも稀ではありません。

どのような財産でも、共有状態だと、扱いづらいのです。たとえば、不動産を貸したり、賃貸借契約を解除するためには、過半数の持ち分が必要です。売却する場合には、全員の同意が必要です。このように共有状態だとできることに制限があるため、財産を有効に活用するためには、できる限り共有を解消しておく必要があります。

遺産分割協議書には、全ての遺産について、誰が取得するかを決めます。そして、偏った取得の仕方をした場合などには、多く財産を取得した相続人が、少なく取得した相続人に対して一定の金銭を代償金として支払うこともあります。そのため、誰がどの財産を取得し、代償金をいくら支払うか、ということを決めることになります。

相続人全員で一つの合意を作成しなければいけません。そのため、相続人を一人でも欠いた遺産分割協議書は無効です。そのため、相続人の調査は非常に重要です。戸籍を取得して、徹底的に調査します。調査してみると、家族の知らない養子縁組があったり、家族の知らない子どもがいるということもあります。未成年は、遺産分割手続きに参加できません。親権者と利益相反関係にある場合には、特別代理人を立てなければいけません。例えば、子どもの相続する財産を減らすと親権者である母親が相続する財産が増える関係にある場合には、特別代理人を立てる必要があります。

相続人全員で一つの合意に達しない場合もあります。そのような場合には、裁判所を利用します。家庭裁判所の調停手続きを利用することになります。

ここで、家庭裁判所の調停手続きの特殊性について説明したいと思います。

裁判所を利用した手続には、遺産分割事件で利用する、家事事件の他に、民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟などがあります。

行政訴訟というのは、医師が資格を取り消されたので、その取り消し処分を争うとか、運転免許を取り消されたので、その取り消し処分を争うとか、特別法の年金受給を希望するが役所からは認められないと回答されたので年金受給資格を争うとか、情報公開を求めたけれど、黒塗りの書類を渡されただけだったので黒塗りしていない資料の提供を求めるとか、そういった行政が行った処分を争う時に利用する手続きが行政訴訟です。

刑事訴訟というのは、犯罪をした場合の刑罰を決める手続きです。詐欺をした場合に、罰金に処するとか、窃盗をしたときに、懲役の執行猶予にするとか、人にけがをさせてしまったので1年の懲役にするとか、そういった犯罪に対する刑罰を決める手続きです。

民事訴訟というのは、お金を貸したので返してほしいとか、交通事故の被害にあったので損害賠償を求めるとか、家を不法占拠されたので明渡を求めるとか、ネット上で誹謗中傷されたので損害賠償請求するとか、アパートを貸し出しているけれど家賃を払ってくれないので家賃を請求するとか、そういった一般的な事件が民事訴訟になります。

家事事件というのは、遺産分割とか、離婚とか、養子縁組とか、養育費とか、家族間の問題を扱うものです。

家事事件は、民事訴訟に一番似ているので、民事訴訟との違いを少し説明させてもらいます。民事訴訟は、三審制といって、3回争うことができます。地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所で3回争うことができます。

家事事件の場合、家庭裁判所での審判、高等裁判所での即時抗告、最高裁判所での特別抗告、という3段階の手続きがあります。が、それだけではありません。家事事件については、調停前置主義という考え方があって、審判手続きの前に家事調停事件があります。

この家事調停事件というのがかなりくせものです。メリットもあれば、デメリットもある手続です。

メリットとしては、弁護士を入れなくても手続きができる点です。民事訴訟の特徴として、要求を書面で提出しなければいけません。書面では、色々とルールがあります。特に、当事者が必要な主張をしなければ負けてしまうというルールが非常にやっかいです。法律の仕組みについてよくよく理解していないと、一言の言葉を書面に書いていないだけで負けてしまったりします。弁護士は、何が必要な一言なのかについて非常に長い間訓練を受けます。他にも民事訴訟の特徴として、尋問があります。尋問についても特殊な能力が必要です。自分に敵対する相手方に対して、自分の希望する言葉をしゃべらせる能力が必要です。例えば、相手が、依頼者を殴った事案だとします。殴ったことはある程度明らかな場合であっても、「殴りました」と言わせたい場合を考えてみたいと思います。「あなたは、私の依頼者を殴りましたね」という質問をしたときに、「俺は、悪くない。あいつが俺のことを馬鹿にしたんだ」と回答されるようなことがあります。尋問になれていない人であれば、「馬鹿にされたぐらいで殴っていいと思っているんですか」などと言ってしまいます。これでは、目標である、「殴りました」という発言を得られません。こういったときの対応として正解なのは、「あなたは、私の依頼者を殴ったのですか、殴っていないのですか」と、ほとんど同じ質問を繰り返すことです。相手が回答するまで、何度でもずっと同じ質問をすると、求める回答が得られます。相手の回答に流されてしまわないようにする必要があります。

このように、民事訴訟では、一定の訓練を受けていないことで、本来勝てる事件でも負けてしまうということがありえます。

それに対して、家事事件の審判や調停では、尋問はありませんし、一言が足りない程度で大きな不利益を受けるようなことはありません。もちろん弁護士をつけないことで色々と不利益を受ける可能性はあるのですが、民事訴訟のように、ルールを知らなかったばかりに、全く逆の結果になってしまうというような大きな不利益を受けることはありません。

民事調停のもう一つの特徴が、当事者全員の合意がなければ成立しないという点です。民事調停は話し合いで進められます。お互いの主張を交互に聞いていって、一つの合意を目指します。合意というのは、全ての遺産について、誰が取得するのか、そして、貰いすぎた人がいれば、代わりにいくら他の相続人に対して支払うのか、ということを決めます。この点について、相続人全員が完全に意見を一致することで、調停が成立します。つまり、ある不動産について、二人以上の人が、自分が取得したいと言って引かない場合には、調停は成立しません。財産を貰いすぎた人が他の相続人に対して支払う金額についても、もっと払うべきだ、もっと少しでいいはずだ、と合意ができない場合には、調停は成立しません。

調停が成立しない場合には、審判手続きに移行します。審判手続きは、民事訴訟と同じように、裁判官が法律に基づいてばしっと結論を出してくれます。




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