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榴弾砲と戦車の違い

ウクライナでの戦争で榴弾砲の活躍が聞こえてくるようになり、これまであまり注目されなかった榴弾砲という兵器が注目されるようになってうれしく思います。

しかし、榴弾砲があれば戦車要らない、のような榴弾砲万能論とでもいうべき言説がツイッターでしばしば流れてくるようになりました。

さすがにこれは行き過ぎというか、榴弾砲と戦車の兵器としての違いを無視しすぎてるので、それら兵器の大雑把な違いを説明します。

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榴弾砲は面制圧兵器

99式155mm自走りゅう弾砲(陸上自衛隊HPより引用)
キャタピラ、回転式砲塔と戦車の特徴と一致はするものの別種の兵器

榴弾砲は主に10km以上の射程で山なりに砲弾を飛ばして敵を攻撃する兵器です。

そのため、発射から命中までにタイムラグが大きいです。

具体的には、例えば10km先の目標にマッハ2(音速の二倍)のスピードの砲弾を撃ったとしても、発射してから命中まで15秒程度かかります(実際には山なりの弾道となるためもっとかかります)。

また、一般的な榴弾砲の砲弾は誘導装置がなく、射撃の反動や風などの影響で砲弾の落下地点に一定のぶれが生じます(これを「散布界」といいます)。

これでは動き回る敵へのピンポイントでの攻撃はできません。

エクスカリバーなどの誘導砲弾もありますが、これらはGPS誘導弾であることが多く、座標を指定しての攻撃のため、敵が動いたらやはり当たりません。

こちらの記事で突撃破砕射撃について軽く説明しましたが、これも動く敵を直接狙うのではなく、敵が通る地域に照準を合わせてバカスカ砲弾を撃ち込んで確率的に敵を撃破することを目的としています。

目標への射撃の方法も、前線観測員(Forward Observer:略称はFO)が目標の座標を指示、射撃指揮所が指揮下の砲の位置と目標の位置の関係から、砲を向ける方向と飛距離を計算、砲側にそれを伝達し、操作員が指定された方向に砲を向けて装薬を装填し発射というプロセスを経ます。

つまり、榴弾砲は動き回る敵に対しての攻撃は苦手で、陣地など固定目標への攻撃を得意としています。

この目的のため、炸薬をたくさん積める大型の砲弾を発射する砲を備えています。
さく裂の威力が高ければ高いほど、広い範囲に破片をばらまけます。

また、敵と直接交戦して攻撃を受ける想定ではないので、装甲がなかったり、あったとしても敵砲兵の発射した榴弾の破片を防御する程度のものでしかありません。

M777155mmりゅう弾砲 wikipediaより
見ての通り装甲がない
19式装輪自走155mmりゅう弾砲 wikipediaより
装甲はない


戦車は突撃兵器

10式戦車 120mm砲を搭載している -陸上自衛隊HPより引用-
キャタピラ、回転式砲塔を備え自走砲と似た構成だが異なる兵器

これに対して戦車は3km以下程度の近距離での交戦、特に敵戦車との交戦を念頭に置いて設計されます。

敵の戦車との直接戦闘を念頭に置いていることから、敵の装甲を貫通できるだけの高初速の砲弾を発射でき、敵から発射された砲弾から防御できるだけの分厚い装甲を備えています。

具体的には、10式戦車が装備する120mm戦車砲から発射される徹甲弾はマッハ5で飛翔すると言われており、その貫徹力はRHA(装甲用の鉄板の厚み)換算で500mm-1000mm(1m!)あると推定されます。

マッハ5で3km先の標的を射撃した場合、発射してから着弾するまでは約3秒となります。

また、装甲も複合装甲という特殊な装甲を装備しており、正面からならば徹甲弾の直撃にもある程度耐えられるようにしています。

FCS(射撃管制装置)も動く目標を想定した設計になっており、例えば10式戦車では目標をロックし、砲を自動で追尾させる機能があるそうです。

つまり、戦車は敵からの攻撃が反撃が想定される場所に進出し、近距離で、動き回る敵へのピンポイント攻撃を得意としています。

このように、戦車と自走砲は戦場における役目の違いからそれぞれ異なった特性を有し、その特性に基づく弱点をそれぞれに抱えています。

なので、戦車さえあればいい、榴弾砲さえあればいい、ということはありません。

それぞれの特性を生かし、効果的に組み合わせて戦闘力を発揮することが重要となります。

なぜロシア戦車が榴弾砲で撃破されているのか

ちょっと待て、と。
ロシア戦車が榴弾砲でボコボコに撃破されているじゃないかと。
そう思われるかもしれません。

これはロシア軍の戦車の運用がどうも下手くそであるということもあるのですが、もう一つ重要な要素があります。

それは、戦車は常に動き回っているわけではないということです。

これはロシア軍が渡河しようとしたところをウクライナ軍の砲兵や空爆で袋叩きにされ、70両以上が撃破されたとされるものですが、このように攻撃準備のために前線に集結する、渡河のために集結する、などのような局面では戦車や装甲車が停止した状態でしかも集中する、ということがしばしば起きます。

こういうタイミングこそが榴弾砲の絶好の活躍できる場面で、きれいに決まるとこのように一方的にボコボコにできます。

しかし、それを成功させるためには敵が集結していることを察知し、その地域を正確に特定するという事前の情報収集と偵察、FOによる観測と火力発揮が必要です。

そして、戦場では常に自分が有利な状況であり続けるということはありません。

例えば、偵察が不十分で見落とした戦車部隊に肉薄されるとか、砲撃をかいくぐって来た戦車部隊に肉薄されて、砲兵部隊が一方的にタコ殴りにされる、ということも起こり得ます(砲塔の旋回速度、装甲、射撃式装置の差で、近距離では自走砲やりゅう弾砲は戦車に勝ち目がありません)。

このようなことから、榴弾砲は重要な兵器ですが、同時に、榴弾砲さえあれば万事解決ということはなく、それぞれの兵器の特性を活かし、効果的に運用することが重要となります。

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