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榴弾砲のお仕事 ~なぜウクライナに必要なのか~

最近のニュースで、ウクライナへの榴弾砲の提供が大きなトピックとして取り上げられて驚いています。
ドローンの活躍というのが注目されていたので、てっきり徘徊型ドローンのスイッチブレードの供給が盛んに取り上げられるかと思ったのですが、たしかにそちらのトピックも大きく取り上げられているものの、同時に榴弾砲の提供にも注目するトピックが目に付きます。
専門家の方が榴弾砲に注目していることから、その意見を汲んでの番組構成にしてるんだと思いますが、専門家の意見を参照して番組構成をするという対応そのものを驚きを筆者は持って迎えています。

しかし、番組の非専門家の方の反応を見るに、榴弾砲がどういう兵器であるのか、なぜその効果が高いのか、いまいち了解していないかのように見受けられます。
専門家の方も工夫してわかりやすく伝えようと努力されてますが、いかんせん説明の時間が足りない(榴弾砲についての説明は1~2分程度で終わらざるを得ない)
そこで、筆者の考える榴弾砲の役割、特に防御局面について、一般の方向けに解説したく思います。

全文無料で読めますが、購入や支援をしていただけると筆者の励みになります。

榴弾砲とは

アメリカ軍で配備が進められているM777 155mm榴弾砲。
軽量で無難な能力を持つ、優秀な火砲 画像は-wikipediaより

榴弾砲とは、榴弾を発射する砲です。

榴弾とは、空中や地面で爆発し、破片をまき散らすことで殺傷することを目的としている砲弾を言います。

この破片は高い威力を持ち、人間なら当たればだいたい死にます。

一概には言えないようですが、155mm榴弾がさく裂したら少なくとも半径40mの範囲の人間が死傷するようです。
ざっくりと言えば、小学校の校庭の中心で炸裂した場合、その校庭にいた人の多くが死亡ないし重度の怪我を負います。

射程はM777については通常の榴弾で30km程度あるようです。

歩兵の持つアサルトライフルが300m、対戦車ミサイルジャベリンが2500m、戦車砲が3000mであることを考えると、明らかに長いです。

しかし、榴弾は基本的に無誘導のため、精密な射撃能力では劣ります。

こういった特性から、榴弾砲は遠距離から敵の集団に対して、たくさんの砲を並べて大量の砲弾を撃ち込む、という戦い方を得意としています。

榴弾砲のお仕事 ~嫌がらせ編~

榴弾砲は様々な目的で使用されますが、ここでは「嫌がらせ」能力に注目してみます。

というのも、防御局面においてはこの嫌がらせが重要だからです。

軍隊というのは、作戦計画に従って行動します。
作戦計画とはざっくり言ってしまえば「タイムスケジュール」です。

軍事行動とは集団行動なので、事前に計画を定めて各部隊がどのように動くかを決めておきます。
友達と遊ぶときに「明日は○○に行くから××駅に集合な!遅れんなよ!」といった感じでスケジュール調整して行動すると思いますが、軍隊も同じです。
「明日○○に攻撃するから××に集結な!遅れんなよ!」ということです。

この攻撃計画を素直に実行されると防御側は困ります。
というのも、攻撃計画は通常、成功するだけの見込みがあって立てられるので、素直に実行されると防御側は突破されてしまいます。

そこで、防御側は敵の作戦計画を乱し、調整された攻撃をバラバラにしてやることで、攻撃力を減衰させ、防御を成功させる確率を高めることが重要となります。

その役目を果たすのが榴弾砲です。
通常、攻撃計画では攻撃発起点というものを設定し、ここに部隊を集結させます。
「××駅に集合な!」というやつです。
この集結しようとしてる敵を叩く、あるいは集結した敵を叩くことで、タイムスケジュールが乱れ、攻撃計画が素直に実行できなくなります。
こういったことは長射程の砲撃が可能な榴弾砲が得意とするところなのです。

ドローンでもできるのでは?と思われるかもしれません。
たしかにドローンでも妨害は可能です。
しかし、ドローンの武装の射程は短く、敵が支配する空域に入る必要があるため、敵の対空ミサイルに撃墜される可能性がそれなりに高いです。
それに対して発射された砲弾は撃墜できません。
照準を素早くつけることができ、すごいスピードで飛ぶ砲弾は、発見した敵を叩くのにとても便利なのです。

また、敵の行動を妨害し続けるためには、広い範囲で継続的に砲撃をする必要があります。
そのため、榴弾砲の砲の数とともに、大量の砲弾が必要となります。

榴弾砲のお仕事 ~突撃破砕射撃編~

さて、嫌がらせ攻撃により敵の作戦計画が乱れたものの、それでも敵が攻撃を始めたとします。

ここでも役に立つのが榴弾砲です。

攻撃を行う場合、基本的に遮蔽物のない暴露地形を進むことになります。
先ほど、榴弾が爆発することで広い範囲に被害が出ることを示しました。
では、遮蔽物のない場所を前進する敵に砲撃したらどうなるでしょうか?

そうですね、とても大きな被害が出ます。

こういった砲撃を「突撃破砕射撃」と言います。
攻撃前進する敵は素早く移動しようとするため、これを阻止するためには短時間で大量の砲撃を浴びせる必要があります。
これが、榴弾砲と砲弾の数が重要になる理由です。

ロシア軍の大規模な攻勢に対して防御するために、榴弾砲とその砲弾はいくらでもたくさんほしいのです。

終わりに

以上、防御における榴弾砲の役割について二つ解説してみました。
いろんな兵器がありますが、それぞれに特性があり、その特性に合った役割があります。

榴弾砲は上記のような特性と役割があり、ロシア軍の攻撃を食い止める上で重要であるため、今回のような動きとなっているのです。

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