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核融合ロケット研究(19)/核エネルギー宇宙推進システム

新しい概念・核パルスロケット
最近、Nathanさんに紹介された論文で、知りました。


概念図

  低濃縮Uのprojectile(弾)を、やはり低濃縮のbarrel(砲身)に打ち込んで、制御棒の回転・調整で、超臨界状態にし、核分裂のエネルギーで弾をプラズマ状態にして、打ち出すというものです。下に概念図があります。control drum/制御棒(これは、barrelの外にあります)の運動だけでOKです。弾は、1Hzで打ち込むようですが。まだまだ、色んなアイデアが出てきそうです。特に、米国では、核パルス (原爆・水爆を工夫・発展形)を利用する事に何ら心理的(?)に規制は感じないようですので。もちろん、核分裂性廃棄物が宇宙空間へ放出されるのですが、彼らは、気にしないようです。また、NASAから、ちゃんとfundも貰っています。


プラズマ発生のメカニズム


推進システム外観図・control drum

S. D. Howe, et al., Pulsed plasma rocket-developing a dynamic fission process for high specific impulse and high thrust propulsion, Acta Astronautica 197, 2022, pp.399-407
  しかし、どうなんでしょうか?放射性物質を宇宙空間に排出し進む宇宙船が、皆に受けいられるのでしょうか。いづれ、pure fusionが実用化されれば、このような概念は、時代遅れになるのでは、そう思い私達のグループは、核パルスの研究を避けてきました。むしろ、レーザー核融合での新しいターゲット概念、高速点火方式などを取り入れてきました。今は、磁場の効果を生かすような方式が、提案されています。だんだん、ターゲット構造が複雑になり、10Hzで、打ち出すのが大丈夫か、心配になります。
  NASAのfundを貰うためには、案としても独創的なアイデアでないとダメなのでしょう。fundがないと研究が進まない。
  これに関して、包括的核実験禁止条約(ほうかつてきかくじっけんきんしじょうやく、Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty、略称:CTBT)が気になります。宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間での核兵器の核実験による爆発、その他の核爆発を禁止する条約であるとのこと。『ウィキペディア(Wikipedia)』しかし、このHoweさんの概念は、臨界を達成して、宇宙空間に放射性物質を放出しても、兵器ではないので、実験ができるといことでしょうか。

核融合ロケットを火星巡視船へ活用
  こんなことを考えようとは、以前は思ってもいませんでした。ロシアのウクライナ侵略前には。一人の老人の妄想により、簡単に平和が破れ、防衛的軍事行動が必要になるとは。
  (17)で、説明しましたが、核融合ロケットは、他の推進システムに比較して、数倍早いので、追いつき、追い越すことが出来ます。これは、防衛的軍事行動がとれることを意味します。以前は、木星での話でしたが、まずは、火星での利用が先ではないでしょうか。イーロン・マスクによれば、2030年には、火星に基地を作り、2050年ごろには、100万都市を作るとのこと。このような時に、理不尽な妨害を避けるためには、まずは、火星用の巡視宇宙船が必要であると思われます。


核融合ロケット外観図

  私達の概念設計では、レーザー核融合ロケットは、有人で火星まで150日で行けます。従来の方式の化学ロケットの半分です。したがって、貨物は時間をかけて、電気推進システムなどで運んで、巡視には、高速の核融合宇宙船を用いてはどうでしょうか。

小特集レーザー核融合ロケットの原理実証研究(プラズマ・核融合学会誌vol97 2021/11)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2021_11/jspf2021_11-jp.pdf
  しかし、元々、最終的に実用化した時には、他のシステムは、核融合ロケットには敵いません。核融合ロケットは、ゲームチャンジャーとなり得ます。初めから、これに予算を回していた方が賢明と思われます。
もちろん、核融合ロケットは、民生用にも大いに活用できます。本当に早く行きたい時には、これに乗ればいいだけです。

  結局、広大な宇宙の安全・安寧のためにも、核融合ロケットなどの高速な宇宙推進システムを着実に開発し、実用化しておくことが重要と思われます。
ただし、核融合ロケットが武器として考えられる、あるいは使用されるかも知れないとなると、国際共同研究は、困難になるのでは。どこの国でも、軍事技術は独占したいと思いますので。

  日本では、原子力電気推進のみならず、核熱推進などの、いわゆる原子力ロケットの研究が、ほとんど行われていないのが実情であり、今後の世界的な応用を考えるとある意味不思議であります。

  また、最近でも、米国では、新しいアイデアの原子力ロケットの提案が、NASA/DAPRAから、fundを貰っています。
「火星まで45日で到達!」「宇宙探査に革命!」原子力ロケットエンジン推進される
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/01/45nasa_1.php

 もう日本では、核融合ロケットの研究・開発はやらないのか?
  先日、2022年12月に、原子力学会の編集委員会宛に、「原子力ロケットの特集記事を出して下さい」と依頼しましたが、「当学会では、その知識の蓄積がなされていないので、希望に添い兼ねます」との返事をもらって、この企画は、没になりました。別に、日本人に限らず、NASAの人に書いてもらっても良いのではと、後から思いました。自分で、原子力ロケットの研究をやれば良いのではと思われるかも知れませんが、実は、私たちも少しやりました。永田くんが、論文にしています。また、Am・アメリシウムを炉心に採用して軽量化するなども検討しました。当時の東工大の関本博先生には、進行波炉/traveling wave reactorが使えないか、コメントをもらいました。重くなるのでは、とのことでした。いずれにしても、米国の研究の蓄積には、圧倒され、先の可能性が見えず、結局終わりにしました。その点、核融合ロケットは、まだ未知の分野が多く残されているので、そちらの研究を続けているのが現状です。
Proposal of Space Reactor for Nuclear Electric Propulsion System

http://art.aees.kyushu-u.ac.jp/publications/2008/Mnagata.pdf
http://art.aees.kyushu-u.ac.jp/publications/2010/Mnishiyama.pdf

  繰り返しになりますが、日本はメーカーも含めまだ原子力技術は、世界でも誇れるものを持っていると思いますので、原子力ロケットの研究を盛んにしても良いのではと思います。もう、メーカーの方は、NASAなどから、共同研究・開発の打診があるのかも知れませんが。それとも日本では、原子力ロケットは、意味がないという結論でも出ているのか。それはそれで、重要な知見で、発表してもらいたいものです。




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