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犯人シリーズ短編小説「後編:西半人村全滅事件」

【注意事項】

この物語は下記3作のゲームをプレイしていることが前提となります。
ネタバレが含まれますので、全てをプレイした上で先へ進んで下さい。
また、前編の続きの話となりますので、前編未読の方は先に前編を読んで下さい

  • 「いまさら犯人じゃないと言われても」

  • 「半人王伝説殺人事件」

  • 「えっ!俺以外みんな犯人!? ~半人館の殺人~」


↓物語はこの下です。













【後編: 西半人村全滅事件】


仮面の怪人「⋯⋯」

 トイレ中の暇つぶしに自分の日記を読んでみることにする。『半人館の殺人』、『半人館の始末』、『半人村全滅事件』、『半人王伝説殺人事件』、『ライブラリー82号計画未遂事件』⋯⋯、『地球人黒タイツ事件』。
 地球人黒タイツ事件か⋯⋯。前日の半人王伝説殺人事件の際、警部が明日起きたらいいなと言っていたのを受けて、ドッキリ企画として実際に起こしてみた事件だ。そういえば、その時にいくつか架空の事件をでっち上げたなと思い出す。事件名は確かこんな感じだったはずだ。

  • 『新・半人館の殺人』

  • 『西半人村全滅事件』

  • 『半人屋敷の首人形事件』

  • 『半人監獄の幽霊事件』

仮面の怪人(あれ?そういえば、さっき警部が西半人村で何か事件が起きたと言っていたような⋯⋯)

 うーん⋯⋯。

仮面の怪人「ま、まさかな⋯⋯」

****************

 俺の名は、"十善創"。通称、"考えない名探偵"だ。何故そんな不名誉な名前で呼ばれているかは、ご想像にお任せする。
 俺は、とある事件で関わり、その後行方不明になったある人物を追っていた。そして今は、仮面の怪人宅の闘技場風のトイレから警部と一緒に出てきたところだ。

十善「なぁ、警部さん。あんな奴が本当に名探偵なのか?」
警部「もちろんだとも。怪人くんが解けなかった事件は無いんだ!」
十善「ミスをするようなことは無いのか?」

 俺のように⋯⋯。

警部「うむ、それはあるようだよ。私は聞いただけの話だが⋯⋯、推理を大きく誤ったことがあるらしい。その事件の名は⋯⋯、"袢沢和尚殺し"」
十善「半人村全滅事件の3つ目の事件か」

 新聞記事で読んだ。

警部「そう。"袢沢和尚殺し"では、怪人くんは誤った推理をしてしまったんだ。その結果、犯人の奇襲にあって半人村は全滅してしまった⋯⋯。怪人くんは語ることは無いが、あれはおそらく⋯⋯」
十善「おそらく⋯⋯?」
警部「幼馴染の袢沢和尚が殺されたことに対して動転していたのが原因じゃないかと思っている。あとは⋯⋯、犯人の正体と動機についてだね。事件の真相は、怪人くんにとってはとても辛いものだったんだ。だから、怪人くんは無意識のうちにその悲しい真相を選択肢から除外していたんじゃないかと思うよ」
十善「⋯⋯」
警部「まぁ、半人村は全滅したものの、その住人は江戸川さんの大活躍によって救出されたわけだがね。不幸中の幸いと言うところだな」
考えない名探偵「江戸川⋯⋯」

 江戸川と言えば、どうにも大きな眼鏡の小さな名探偵が思い浮かんでしまう。大きな眼鏡の⋯⋯。

十善「江戸川か⋯⋯、やはり会うしか無いか」

 その江戸川が、俺の探し求めている人物かは分からない。ひょっとしたら違うかもしれない。正直、その可能性を残したくて、今まで会うことを避けて来たのだ。

十善「警部、江戸川は今どこに収監されているんだ?」
警部「うん?あぁ、彼なら、あそこにいるよ。そう―――、⋯⋯半人監獄だよ」
十善「⋯⋯」

 名前を聞いて嫌な予感しか思い浮かばなかった。もうずっと、安房吉水の奇妙な建物に巻き込まれて来たんだ。ここに来てもまた、安房吉水なのか?

警部「お、おい、君、どこへ行くんだね!?ちょっと待ってくれ、私は君に用事があるんだよ!」
十善「用事?俺には無いが⋯⋯」
警部「思い出したんだ。君、"半人島の殺人"の生き残りの⋯⋯、名探偵 "十善創"じゃないか?覚えていないか?私だよ。島に駆け付けたヘリに乗っていた、"警部"だよ」
十善「あ―――、あぁ、あの"安岡"とかいう優秀な刑事と一緒にいた警部か⋯⋯」
警部「そうだよ、警部だ!と言うことで、君、ちょっと西半人村まで一緒に来てくれないか?怪人くんは、今トイレ中だからね。今回は別の名探偵である君に頼りたい!」
十善「いや、俺はこれから用事があるんだ。そう言われても困るよ」
警部「君しか頼れる者がいないんだ!トイレ中じゃない名探偵は君しかいないんだよ!困ると言われても困る!!ほら、来なさい!事件を解くのは名探偵の義務だ!!君が来ないと、西半人村は全滅するかもしれない!!」

 そのまま警部に引っ張られ、仮面の怪人宅の屋上に停まっていたヘリに連れ込まれてしまう。途中から抵抗することはしなかった。やはり、江戸川なる人物に会うことを、俺は恐れているのかもしれない。

江戸川『俺は⋯⋯、俺は半人館の殺人の前に"名探偵さん"に出会っていたら、きっと殺人なんて犯さなかったはずです!』

 風の噂で聞いたところでは、江戸川という人物は仮面の怪人に対して、そんなことを言っていたらしい。

十善(俺だって、あの頃から変わらず"名探偵"なんだけどな⋯⋯)

 俺はあの頃からは大きく成長したはずだ。"考えない名探偵"であった頃の俺では無いはずだ。そんな俺と再会した時、あいつが―――

『十善さんのような名探偵がいては、とても"半人館の殺人"を実行できる自信が無いです!事件を起こすのは諦めます!!』

『そして、俺を十善さんの弟子にして下さい。ワトソン枠、やりますよ!』

―――とでも言ってくれるのであれば⋯⋯。
そう言ってくれるのであれば、殴るのは一発だけにしておいてやろう。

なんとなくそう思った。

十善「しかし、なんだな。警部ともなれば、専用のヘリまで準備して貰えるのか?ヘリに乗ったのは、半人島での事件以来だ」
警部「いや、これは私の私物なのだよ」
十善「はぁ、こんな豪勢なものを自分で持っているとは、刑事ってのは意外に儲かる職業なんだな」

 そういえば、この警部は以前会った時に、"両隣の家がTVプロデューサーと元アイドルなんだ"、とか言っていたような気がする。芸能人や業界人が住む街に家を持っているんだ。やはり金持ちなのだろう。

警部「聞いて驚きなさい。これはかの有名な建築家、"安房吉水"作のヘリコプターなんだ。名前は、"半人ヘリコプター"。ヘリコプターの機能を備えた館だよ」
十善「え⋯⋯?」

十善「⋯⋯え?」
警部「あ!大変だよ、十善くん!ヘリの運転手の首が無くなっている!!」
十善「⋯⋯はい?」

 見ると首を切られた死体が運転席に座っていた。首から上は⋯⋯、見当たらない。

十善「運転手が死んでる!?えっ、いつから!?どうやって!?もう空飛んでるんだぞ!?」

 いや、考えるのはそこじゃない!運転手が死んだんだ!と言うことは⋯⋯。

十善「お、おい、待ってくれ!これ誰が運転するんだ!?俺はヘリの運転なんてできんぞ!?」
警部「いや、私もできんが⋯⋯」

 とりあえず首無し死体から操縦桿を奪って握ってみるが、まったくどうして良いのか分からない。

十善「く、くそ、ど、どうすれば、どうすればいい!?考えろ!考えるんだ!!」

俺はもう"考えない名探偵"じゃないはずなんだ!こんなギャグみたいな事件で死ぬわけにはいかない!!ジャンルが違うって言っただろうが!!



****************

 踊り狂っていた腹が幾分収まり、闘技場風のトイレから出る。いや、トイレ風の闘技場だったか。トイレ風の闘技場風の館だったかもしれない。そんな、住んでる自分ですらよく分からない部屋から出て、先に続く階段を上がる。上がった先が私の家の玄関だ。
 その玄関に警部が立っていた。

警部「おぉ!怪人くん、待っていたよ!」
仮面の怪人「あぁ、警部。どうしたんです?」

 この人は、警部。よく一緒に行動している、通称"ポンコツ警部"だ。同じ警部でややこしいが、さっきまでいたのは、最初に言った通り"考えない警部"。この"ポンコツ警部"とは別の警部である。
 "考えない警部"は、最近私の自宅によくやって来る。私の活躍で評価が急上昇している"ポンコツ警部"を見て、同じように私に事件を解決させて出世しようと画策しているようだ。それが分かっているので、奴の持ってくる事件には関わらないようにしている。先ほど、トイレを言い訳に西半人村に向かうことを拒否したのも同じ理由だ。腐れ縁と化している"ポンコツ警部"の頼みであれば、例えトイレ中でも***を漏らしながらでも事件解決に向かうのだが⋯⋯。
 「考えない警部」という男は、なんとなく怪しい感じがしている。あの警部は、いつか何か事件でも起こすかもしれない。注意が必要だ。

 そして翌日、『半人ヘリコプター墜落事件』のニュースを見て、私は自分の予想が当たっていたことを知った。十善探偵の活躍により、『半人ヘリコプター墜落事件』の犯人であった"考えない警部"が逮捕されたのだ。十善探偵は、"考えない警部"が犯人であることを指摘し、犯人であれば脱出手段を持っているであろうことも看破した。その後、"考えない警部"が隠し持っていたパラシュートを使って墜落する半人ヘリコプターから二人で脱出したらしい。
 一方、無人になった半人ヘリコプターは墜落。ヘリコプター風の館が墜落してしまった西半人村は全滅した。ニュースを見てから、西半人村の住人の安否を心配していたが、それについては先ほど連絡があった。その連絡は私の祖父、安房吉水からだった。安房吉水は、自分の作った半人ヘリコプターが西半人村に向かっていることを察知し、墜落前に西半人村の住人を脱出させたらしい。西半人村は当時、嵐と崖崩れでクローズドサークルの状態だったが、安房吉水の筋力でなんとかしたらしい。さすがは江戸川さんと互角に戦った安房吉水と言うところか⋯⋯。
 かくして「半人ヘリコプター墜落事件」は十善探偵と安房吉水の活躍により見事解決。残された事件は⋯⋯、

『西半人村全滅事件』の真相だ。

 この後、村人への事情聴取を終えた安房吉水がやってくる手はずになっている。西半人村では、館墜落前に、猟奇殺人事件が起きていたらしいのだ。一方で、同時期に隣の半人村跡で実況検分に参加していた『半人村全滅事件』の犯人"袢沢和尚"が忽然と姿を消したらしい。"考えない警部"と"半人ヘリコプター墜落事件"⋯⋯、かつての『半人村全滅事件』とその犯人の失踪⋯⋯、そして西半人村での猟奇殺人事件⋯⋯、どこがどう繋がっているのか、今の私には皆目見当が付かない。安房吉水が持ってくる調査結果が何か手がかりになると良いのだが⋯⋯。


安房吉水「HAHAHAHAーっ!待たせたな。孫よ」

 ハハハー!と勢いの良いアメリカ風の笑い声を響かせながら、部屋に入ってきたのは、"安房吉水"だ。何故か仮面を付けていた。私と私の父はいつも仮面を付けているが、安房吉水に仮面を付ける趣味は無かったはずだが⋯⋯?

安房吉水「ん?この仮面が気になるか?息子に借りた仮面型変声機だよ。何に使うかって?それは秘密だ」

 なるほど、変声機か。名探偵には必須の装備品だと聞くからな。今度私も作ってもらいたいところだ。

安房吉水「⋯⋯⋯⋯」

安房吉水(実は偽物)「さて!では西半人村全滅事件の調査結果を伝えよう!」

安房吉水(実は偽物、そして犯人)「果たして、西半人村全滅事件の犯人は誰だろうか⋯⋯?」

犯人シリーズ短編小説 Fin…


【読者への挑戦状】


 さて、私はここで読者へ挑戦します。
 前編のタイトル『仮面の怪人 VS ***』ですが、結局、仮面の怪人は何と対決していたのでしょうか?

 え?「考えない名探偵」?または3文字だから「十善創」?

 違いますよ。分からない方は、この下にヒントとなるエピソードを入れておきますので、そちらを読んでみてください。










【読者への挑戦状 ヒントエピソード】


仮面の怪人「まさか、私の目の前にいた安房吉水が偽物で犯人だったとは⋯⋯」

 そしてその犯人の正体は、消息を立っていた幼馴染の袢沢和尚であった。
袢沢和尚は、収監されていた半人監獄で幽霊の声を聞いたらしいのだ。その声から⋯⋯、『最強のトリックを超えたスーパー最強のトリックをも更に超えた最強のトリックを遥かに上回る究極のトリックを遥かに上回る、もはや物理法則を無視する幽霊が犯人としか思えないトリック』を思いついてしまったらしい。当人は、それを会得した自分自身を、『袢沢和尚・ゴースト』と呼んでいた。

 正直、もう良く分からない。確かに常軌を逸したトリックであり、推理した自分自信を正気かと疑うようなトリックの数々であったが、何とか解決することができた。例え相手が幼馴染であっても、名探偵として手を抜くわけにはいかないのである。名探偵の推理に、私情を挟むなど言語同断である。以前、ポンコツの方の警部に『袢沢和尚殺し』で推理を誤ったのは、幼馴染の死に動揺したからでは?と言われたことがあった。だが、それは大きな間違いだ。あの時、推理を誤った理由は他にあった。あの時、私は―――、

下痢が止まらなかったのだ。

 海難事故に巻き込まれただのと下手な言い訳を続け、宿の自室から出ない様にしていたが、本当はトイレから離れたくなかっただけである。村に落ちていた焼肉定食を拾い食いしたのが良くなかったのかもしれない。
 そう、今まで明かさなかったが半人村全滅事件で、私はずっとトイレに座りながら推理をしていたのだ。最終的に自分が動かざるを得ない状態になり、ようやく重い腰、もとい重い尻を動かしたわけだが⋯⋯。もちろん、事件の都合に合わせて腹が調子を整えてくれるわけはなく、結局その後は

『***』

を漏らしながら、半人村を駆けまわることになってしまった。その後はご存知の通り、尻の都合で上手く動けなかった私は、半裸の袢沢和尚の奇襲に会い気絶。半人村は全滅してしまったと言うわけだ。
 思い出すと、悔しい思いがこみ上げてくる。私がもっとちゃんとしていれば、半人村は全滅しなかったのだ。袢沢和尚は、血を流して倒れた幼馴染の俺を見て、後悔の念に苛まれたようなのだ。そして、この先自分が行おうとしているダム爆破による村の水没計画に恐怖した。恐怖し、そして躊躇し、最終的には計画の中止を決意した。


だが⋯⋯、その時には全てが手遅れだったのだ。

奇襲される前の私が村中を駆けまわった結果、私の『***』は村中に散らばってしまっていた。『***』だらけになった村を前にした袢沢和尚に残された道は、ダムを爆破して村と『***』を大量の水で洗い流すしか方法がなかったのである。袢沢和尚の本当の動機は、"汚染された半人村を救うこと"だったのだ。

仮面の怪人「袢ちゃん⋯⋯」

 逮捕された袢沢和尚は、その事実を公表することはしなかった。幼馴染の私の名誉を守るために、"仮面の怪人に勝利して、名探偵になる"ことだけが動機だと言い張ったのだ。

 袢沢和尚は逮捕後、ある二つ名で呼ばれている。その名は、"オレが考えた最強のトリック!!"の登場人物紹介で述べていた通りだ。そして、それは私が名付けたものなのである。その名は⋯⋯

全ての罪を被った犯人を意味する―――


全ての罪を被った黒
を意味する――


全ての【***】を被った黒
を意味する――


その名は

『漆黒の黒』

<ヒントエピソード Fin>

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