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慶應義塾大学通信教育課程への入学を目指す皆様へ(基本事項)

1. はじめに

 慶應義塾大学通信教育課程(以下、「慶應通信」)は歴史も古く、日本国内では最も有名な大学通信教育ではないかと思います。また、慶應通信の卒業の困難さも、よく知られています。大学としては卒業率を公表していないのですが、20年ほど前までは5%程度といわれていました。 
 しかしながら、現在は、公表されている入学者数及び卒業者数やガイダンスでの説明状況から総合的に考えると、15%前後ではないかと推測されます。なお、入学者数には変動がありますし、卒業者数も在籍可能年数の幅が広すぎて(最短2年半~最長16年)、正確なところは判りません。いずれにせよ、入学者の6~7人に1人しか卒業ができない、というのが現状ですので、入学を検討される方は、他大学とも比較した上で熟慮していただきたいと思います。(卒業率については後述します)
 なお、は、慶應義塾大学理工学部を卒業した上で、通信課程法学部甲類に学士入学し、76単位履修して卒業しました。慶應通信のスゝメ

2.卒業までの5つの壁

 慶應通信には卒業までに(人によって多少の違いはありますが)5つの壁があると言われています。
(1)英語の壁
 英語は卒業要件の1つですので、必ず通らねばならない道です(慶大卒業生は免除)。決して難しいレベルではないのですが、入学時点で英検準2級レベル、できれば英検2級レベルの英語力が必要です。
(2)レポートの壁
 配本テキスト(市販本の場合も有)を読んで原則4000字のレポートを書きます。しかしながら、科目毎に指定されたテキストだけではレポートが完成しません。テキスト以外に数冊~十数冊程度の文献から十分な情報を集め、出題者の意図に沿って解答していかなければなりません。もちろん、引用形式等もアカデミックルールに基づいて作成されている必要があります。
 レポートを出して受理されると(合否に関係なく)、科目試験を受ける資格が得られますが、単位を取得するためにはレポートに合格しなくてはなりません。このレポートの合格基準が非常に厳しく、1通も合格することなく、中退する学生が多いと聞いています。
(3)科目試験の壁
 1年に4回試験(4月、7月、10月、1月)があります。試験範囲の予告は無く、試験のレベルは通学制と変わらないと思われますので、かなりの準備が必要です。(ごく一部の科目を除いて、過去の試験は在学生に配布される冊子にて公開されていますので、対策は取り易いと思います)
(4)スクーリングの壁
 卒業のためにはスクーリング受講は必修です(普通課程30単位以上、特別課程22単位以上、学士入学15単位以上)。スクーリングは、夏期スクーリング(日吉又は三田)、夜間スクーリング(三田)、週末スクーリング(三田・大阪)、大阪スクーリング(大阪)で行われるため、仕事を休んだり、宿泊費・交通費がかかるなどの負担があります。なお、放送授業及びメディア授業(E-スクーリング)によって最大10単位までスクーリング単位に振り替えることができます。
(5)卒論の壁
 所定の単位を取得すると卒論指導を受けることができます。レポート作成で十分に鍛えられているはずなので、卒論の壁は逆に低い気もしますが、テーマ選定に失敗して着地点が見つからない人や、そもそもテーマを絞り込めずに悩む人もかなり多く、卒論だけで数年かかる人も居るようです。但し、ここまで辿り着けば、卒業できる確率はグッと上がります。

3. 入学前Q&A

Q1:高校卒業後すぐに入学する大学としてよくない点はありますか?
A1:慶應は学生に学習方法を教えてくれるタイプの学校ではありません。年度初めにテキストとレポート課題を送ってきて終わりです。このため、初めて大学レベルの勉強をする人にとっては、何から手を付けていいやらわからない、という問題があります。なお、これを補助するため、学生による自主的な勉強会(慶友会)が各地及びネット上に設立されており、先輩や友人からアドバイスを貰える場合があります。

Q2:試験では小論文と面接があると聞いたのですが通信課程の過去問などは公表がありません。どのような勉強をすれば良いのでしょうか。
A2:筆記試験や面接はありません。書類選考のみですので、入試対策としての勉強の必要はありません。入学願書に、与えられたテーマに沿った小論文(700~800字前後)を2~3本書いて出します。小論文のテーマは、「読んだ本についての論評(→6.参考図書参照)」「慶應で何を勉強したいのか」「数ある通信制大学から何故慶應の通信を選んだのか」等であり、例年大きな変更はありません。これらは自宅で書いて出すことになりますので、ゆっくり時間をかけて作成・推敲できます。 

Q3:入試選抜が難しくなっていると言うのは本当ですか?
A3:慶應は合格率を公表していないので、正確なところはわかりませんが、小論文で要求される文字数が増えていることを考えると、実質的に難しくなっているのではないでしょうか。小論文は、問いに対して直接的に答えていること、論旨がしっかりしていること、日本語としての間違いが無いこと、文字数に極端な不足が無いこと等の常識的な事項が守られていれば落ちることはないと思います。ちなみに入学願書提出時に要求される小論文を軽く書けるぐらいでないと、入学~卒業までに課されるレポート20~30通及び卒論にとても耐えられません。

4.卒業率について

 これから入学される方にとって、慶應通信の卒業率は気になるところですが、慶應通信は卒業率を公表していませんので、正確な数値は不明です。しかしながら、毎年の入学者数・卒業者数、及び、平均卒業年数が約8年である点は公表されているので、大まかな傾向はつかめると思います。
 なお、慶應通信は、入学課程によって最低在籍年数が異なる上、在籍の延長制度や休学制度もあるので、上記の公表データだけでは、詳細な計算は不可能です。さらに、入学者数は年度によってかなり変化します。そこで、「各年度の卒業生は5~11年前に入学し、その割合は在籍年数8年を中心としたt分布を取る」と仮定して、「疑似卒業率」を算出したのが下のグラフとなります。 

注)疑似卒業率は、あくまでも傾向を見るためのものです。

 グラフから判るように、1960-1990は10%以下に低迷していましたが、2000年代後半から少しずつ上昇し、概ね15-20%の間になっています。2022年度は慶應通信の設置以来、初めて20%を超えています。
 要因は色々と考えられますが、景気動向、PC・インターネットの発達、他の通信制大学の台頭、学費の値上げ等が複雑に絡んでいると思われます。

 なお、今回ご紹介した「疑似卒業率」は、あくまでも卒業率を推定して傾向を見るための疑似的なものであり、仮定の内容によって数値は大きく変わる可能性がありますので、個人的な参考に留めておいてください。また、卒業率と卒業難易度は必ずしも連動しませんので、「卒業率低い=難易度高い」とはなりませんので、ご留意ください。

5.まとめ

 慶應通信は、一定レベル以上の読解能力・調査能力・文章力を有しており、十分な学習時間が確保できれば、最低在籍年数(高卒から4年)で卒業することも可能です。また、卒業する頃には高い論述能力がついているはずなので、大学院試験や資格試験、公務員試験にも対応できると思います。逆に、大卒の称号だけが何とか欲しいだけであり、与えられたテキストに沿ってレポートを書いて出すのが精一杯という人は何年かかっても卒業できないシステムです。また、仕事が忙しいとなかなか単位取得が進まない可能性が有ります。
 なお、慶應通信の学費は通学制大学や他の通信制大学と比べても安いですが、文献のコピー代等や地方在住であればスクーリング時の宿泊代が予想外にかかるので、それは別途見込んでおいたほうが良いと思います。卒業までにかかる学費のモデルケースも紹介されています。

6.慶應通信卒業生による著書

■山田愛子(愛月)『ビリ婆ル奮闘記 : プラチナエイジで(慶應)金時計』 Kindle(2022/9/24)

■鶴見優子著『オトナの私が慶應通信で学んでわかった、自分を尊ぶ生き方 』セルバ出版(2019/4/5)

■柳川範之著『東大教授が教える独学勉強法』草思社(2017/12/6)

■大森静代著『働きながら60歳で慶應義塾大学を卒業した私の生涯学習法』合同フォレスト(2015/12/25)

■関根 徳男『私の大学通信教育日記―転機をつかめ』近代文芸社 (1996/5/1)

7.参考図書

■慶應義塾大学日吉キャンパス学習相談員著, 慶應義塾大学教養研究センター 監修『慶應義塾大学日吉キャンパス学習相談員の学生による学生のためのダメレポート脱出法 (アカデミック・スキルズ)』慶應義塾大学出版会 (2014/10/21)→入学願書に書く書籍に対する論評については、第2部第4章の「書評レポートの書き方」が参考になります。

■その他の参考図書リストはこちら↓
 レポート・小論文 卒論・修論・博論 アカデミックスキル


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