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(雑記) さふいふことなら

 「さようなら」とは漢字をあてると「左様なら」で「そういうことなら」という意味だと聞いた。「そういうことならばお別れしましょう」という覚悟の言葉のように思える。侍が一度刀の鯉口を切ってパチンと鍔を鳴らすような。凛として、潔い言葉である。男女の別れ、職場を去るとき等々。
 
 さようなら。いつまでも執着しないのである。過去のもやもやなどきれいさっぱり斬り捨てるのである。「さようなら」の語が言った人物の背中を押す。後はまた歩くだけ。独行道でもかまわない。
 
 無二の親友などとの別離ではやや違う響きがあるか。分岐点でそれぞれの道を行く。さようなら。互いに健勝を祈る気持ちが加わるかもしれない。それでも未練はない。「さようなら」と言ったら各々天下の一人旅である。
 
 わが国の言葉で、いちばん美しい言葉は「さようなら」である。先人たちは覚悟を持って言葉を紡いできたのだと、しばし思いをはせる。
 
 アン・モロー・リンドバーグの『海からの贈物』が読みたくなった。


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