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【小説】エターナルラヴァー

 わたしの妻は背が高い。女優でいうならアンジェリーナ・ジョリーに似ている。彫りの深い顔立ちだ。妻は内科医である。大学病院で医局長も務めている。いつも愛車レクサスLC500で出勤する。

 普段料理はしない。仕事が忙しいから家で料理するのはたいへんだ。わが家は外食が常である。結婚当初はわたしが料理をつくっていたが、あまり口に合わなかったようだ。わたしのレパートリーはクックドゥなどの中華具材を利用している。どうやらいつもの味に飽きたらしい。

 「こういうものでも調味料を工夫すれば味に変化がうまれるのよ」
 あきれ顔でそういわれたことがある。自ら料理するのは稀であるが・・・・・

 気分がいいと休日にピザを焼いてくれる。フォアグラやトリュフを乗せた逸品だ。外食も麻布のイタリア料理店をよく訪れる。妻と出会わなければまず縁がなかった店だろう。

 「あなたはわたしを否定しないし、ありのままを受け入れてくれるひとだから」
 妻がいうわたしとの結婚理由である。

 わたしは宅配ドライバーをしている。大手通販会社の荷物を一回いっかいの契約で運んでいる。結婚前から乗っていた自家用のエブリィというミニバンで配達する。妻の収入が大きいのでほどほどの労働ですんでいる。

 ほんとうに妻には感謝してもしたりない。わたしが恐れているのは、妻に嫌われることだ。美しく、仕事もスマートにこなす妻は、わたしの宝石である。だから妻の気持ちに添うように生きている。

 最近気になることが増えた。もちろん妻のことだ。妻の帰宅が遅くなって久しい。朝も本人がいうには、医局が遣わしたという運転手の車で病院に行く日がある。

 もともと湿っぽさとは無縁の女性だが、目元が以前よりも冷たくなった気がしている。わたしの内面はだんだんさざ波だってきた。

 〈なぜなんだろう。なにか妻の気分を害すことをしただろうか〉

 妻に直接問えばいいのかもしれないができない。予想される答えが怖いからか。数か月が過ぎた。気の重い月日だった。仕事も手がつかず。職場に出向くふりをして、ひとり車のなかで悶々とする日もあった。

 一週間ほど前に妻の行動の謎が解けた。玄関前に車が停車する音が聞こえたので窓から外を見る。運転席のドアがあいて男が出てきた。両手を広げる妻と男は間もなく抱き合った。

 私は急いで寝室に戻って寝たふりをした。おそらくわたしの顔は蒼白だったろう。

 今夜も零時を回っている。わたしはやめたはずのたばこを喫ってすごしていた。一時間ほど経過すると家の前で車が停車する音が聞こえてきた。結婚してから、いまわたしははじめて自ら決断する。わたしは机の上のナイフを握り、玄関扉を開けた。

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