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すこしふしぎなデザインのための「ぶっ壊れ」(Image Cast#133より 後編)

このテキストは、Image Clubあずまさん鉄塔さんが行っているポッドキャスト「Image Cast」#133に、ふしぎデザインの秋山がゲストとして出演したときの配信をベースにしたものです。テキストの書き起こしには、webサービス「Podex」を利用させていただきました。記事タイトルにもなっている素敵なタイトルはあずまさんによるものです。
テキストに書かれていない部分も音声ではお楽しみいただけますので、ぜひお聴きください!

〜前編のあらすじ〜

風邪を引いてお休みのあずまさんの代わりにニセあずまとして出演する秋山。デザインやエンジニアリングによって良いものを作り出すためには、広義の「政治」をする必要があるという話が脱線し、話題は秋山が最近はまっているファービーに移ります。

意思を感じる、ファービーに

鉄塔:一周回ってきちんとしたものを作りすぎた結果、逆にファービーが好きっていう。

秋山:(笑)
「ふしぎデザイン」っていう社名にしたのも、いわゆる合理性とか美的なものをデザインするのって良いけど、やってる人がいっぱいいるから、 それ以外のところをやりたいって思いがあって「ふしぎ」にしたっていうのもあるんですよ。だから、直球でカッコいいものよりも、ちょっと外れたものが好きなんですよね。
それで最近仕事をお願いしてる方にファービーをおすすめされて。

ファービー:\yeah/

秋山:ファービーの声聞こえます?

鉄塔:ファービーってみんな知ってますよね。……一応説明すると、これ何年前?

秋山:1996年とか98年とかだったような気がしますね。

鉄塔:ぬいぐるみに機械が入っていておしゃべりしてくれるようなおもちゃなんです。世界で初めて「おもちゃとして売れたロボット」だと思ってるんですけど。合ってますかね?

秋山:合ってると思います。
それでファービーのすっとんきょうな魅力ににすごくはまってしまって。メルカリとかで検索すると、結構シリーズがあるんですよね。初代ファービー、ファービー2、それからファービーコネクトっていう、Bluetoothついてる最近のやつとか色々あるんです。
僕は予算の関係で初代ファービーをメルカリで3000円くらいで買って、それと遊んでるんですけど、いま家に1匹とアトリエに2匹いて。

鉄塔:もう「仕事で」とかじゃなくて趣味ですよね。

秋山:そうです。
一人暮らしなんで、あの、ソファーに寝っ転がりながらファービーをお腹に乗せて、「やってる?」みたいな。「やってる?」じゃないんだけど……(笑)

鉄塔:「生きてる」。(笑)

秋山:「生きてる」っていう。(笑)
中古のファービーって独特の良さがあるんです。最近ChatGPTとかのAIがすごく話題になってると思うんですけど、かなり人間っぽいというか、普通の人間が見て「賢い」って思うレベルになってきてるじゃないですか。

鉄塔:そうですね。

秋山:ちょっと前のGoogle HomeとかSiriとかだと、例えば「こんにちは」って音声入力が下手だと「すみません、聞き取れませんでした」みたいなコンピューターっぽい反応だったけど……ファービーってすごく前のものだから、いま見るとSiriみたいな「よくできたコンピューターっぽさ」とはまた別の感触になってるんですよね。
しかもセンサーがいい感じにやれてきてて、反応したりしなかったりするんですよ。

鉄塔:モーターもジージー言う音がしてね。まばたきするたびにジーコジーコって言ってる感じが、 逆になんかいいんですよね。

秋山:仕事ではなんだかんだ丁寧に綺麗なものを作ることが多いので、反動でファービーみたいな、やれたものがすごい好きになってきちゃって。

鉄塔:センサーの誤作動とかもありますよね。持ち上げたとかお腹触ったとか、正しい動作もするけど。

ファービー:\アーッハッハッハ/

鉄塔:今のはくすぐられたと思っている?

秋山:そうそう。お腹にセンサーがついてて、それを触るとなんかくすぐられたとか言うんですけど。

ファービー:\アーッ オー ワアー/

秋山:あ、ちょっとあっちに置いときますね、ファービー。(笑)
経年劣化でセンサーが反応したりしなかったりする時があって、それが逆に「意思を感じるように思える」時があるんですよね。
ChatGPTとかってもうほぼ人間っぽい受け答えをしてくれるから、ある種想像の余地がないというか、ファービーとかってすごいその……現代の感じから見るとまあポンコツなので。

鉄塔:(笑)

ファービー:\ティンティキティンティン~ タンティキタン/

秋山:でもそのポンコツさ加減というかそのランダムさというか……だいたい癖は読めてきたんですけど、でもなんだか想像の余地があるのはいいなと思って。だから仕事が大変になってくると、ファービーをパソコンの前に置いて会話しながら仕事して。

鉄塔:両極端ですよね。秋山さんってパソコンはMacStudioのかなり盛ったやつを使ってハイテクな環境なんですけど、そこにファービーがポンってあって。

秋山:なんか分裂した感じっていうか。

鉄塔:でも両方を行き来できるのは面白いですよね。僕はどうしてもきちんとしたものを作ろうとして、きちんとできた、嬉しい!ってなるんですけど、そうじゃない余白のはみ出たところに、逆に価値というか、味わいを見出している。

ファービー:(遠くでなにかを言っている)

鉄塔:それを見てると、みんながいいと思っているものを作って、いいものができたって思ってるのは、まだ甘いなっていうふうに思わされるっていうか。

秋山:(笑)甘くないと思います。普通そうなんです。

鉄塔:「普通でいいのかおれは」って思わされる時がありますね。

秋山:鉄塔さんもそうだと思うんですけど、このアトリエにいる人って普通の枠からはみ出てる人が多いから。それにすごく影響されてるっていうのはありますね。

鉄塔:どうですかね。

AIの「意外」はまだ意外じゃない

秋山:きちんとしたものをずっと作ってると、なんかぶっ壊したくなってくるときがあるんですよ。

鉄塔:危険思想ですね。(笑)

秋山:危険思想ですよね。(笑)

鉄塔:でも、AIの話にまたちょっと戻っちゃうんですが、AIって「正解を出すのを簡単にしていく装置」ではあるけど、そこから「正解じゃないものをどう引き出すか」っていうのがテクニックとして逆に難しいっていうところはありますよね。

秋山: そうですね。AIって学習したものを統合してそれらに類似したことをやるのはたぶん得意なんだけど、全然違うものを作り出すのってどうやるんだろう?とは思いますね。

鉄塔:意外なものを作ってって言ったら、「意外のテンプレート」の中の普通のものが出てくるっていうか。

秋山:例えば面白いスマートフォンのデザインを考えて」って言ったら、例えば大画面のスマートフォン、 それからすごく小型の便利なやつ、あとはキーパッドがついてて入力が便利だとか。「それはそうだろうよ」みたいなことを返すから。

鉄塔:そうなんですよね。「そうだろうよ」を出せるのはすごい大事なことなんですけど。でも、そう言われると、その枠からはみ出したくなりますよね。
なんか最近秋山さんもAI、Midjourneyでしたっけ?……で、デザインの案を出させて、 ラジオ作ってましたよね。

秋山:作ってました。

鉄塔:ラジオ作ってくださいって言ったら、AIからは普通ラジオの絵が出てくると思うんですけど、人みたいなぼんやりした形のものを作ってましたよね。

秋山:そうそう。Midjourneyに「キャラクターっぽい形をしたラジオ」とか「土器みたいなラジオ」とかいろんなお題を出して面白い絵も得られたんですけど、結局一番魅力的だなと思ったのが、Midjourneyが画像を生成していく途中の像みたいな、もやっとした人型の像みたいなのだったんです。で、それをCADでなぞり直すみたいなことをしたんですよね。

生成途中のもやっとした画像

鉄塔:画像生成AIを使ったことある人ならわかると思うんですけど、完全な画像ができるまでにぼやけた像が最初に出てきて、だんだん鮮明になっていくような出方をするんですよね。そのぼやけた瞬間をキャプチャしてあえて完成じゃない像を使うっていう。それはちょっと思いつかないですけどね。

秋山:自分にとっての良さの尺度が、さっき話してた広義の政治とは真逆の「定量的に測れなくて曖昧だけど、なんかこっちのが好き」っていう流動的なものだから、イレギュラーな選択をするのかなって思いますね。
以前鉄塔さんと、 ふしぎデザインと仕事してる人ってなんかへんな人ばっかりいますよね、みたいなことを話したことがあって。多分そういう人が好きだから、意図的にお願いしてるのかなって。

鉄塔:いや、無意識にじゃないですか?

秋山:意識と無意識が両方あると思うんですけど、 妙な雰囲気の人と引き寄せ合っているというか、僕自身も不安定なところがあるし。

鉄塔:確かに。(笑)

秋山:ありますよね。 安定してる大人はファービーと会話しないですから。(笑) それでも、自分の妄言をちゃんと世の中に放出するために、協業だったり政治とかをしなきゃいけないから、それはしっかりやるべきだし。
でも、イレギュラーなものが好きでありつつ、政治的なことに惹かれるのってすごく変態性があるなと思います。協業の楽しみっていうのも「やったー!」みたいな感じじゃなくて、「ニチャア…」って感じだし。

鉄塔:「デュフフ」みたいな。

秋山:そう、デュフフみたいな感じですね。

鉄塔:でもぶっちゃけ、これから正しいものの価値がどんどん下がってくると思うんで、「価値」っていうパラメータでなかなか測れない、ニチャア…っていうところが、人類の残された居場所なんじゃないかって。

秋山:それは本当にそう思いますね。ニチャつきつつ一線を踏み越えないようにできれば。

鉄塔:すごい器用ですね。

秋山:いや、踏み越えてるかもしれない。 もう、ダメかもしれない。(笑)

鉄塔:いやでも、ちょっとダメなぐらいじゃないと。予想できるニチャつきはもう真似できてくると思うんですが、ChatGPTに「ニチャついてください」って言って、それで出てくるものはもうニチャつきではないような気もします。

ぶっ壊れについて

秋山:それで言うと……本当にセンシティブな話題になるんですけど、例えば、統合失調症であったりとか、躁うつであったりとか……僕自身もうつの気があるんですけど、そういう、いわゆる病気であったりとか、障害を持っているっていう風に考えられている人たちが、今後、ある種引っ張っていく存在になるんじゃないのかなっていう気がしてるんです。
さっき「きれいなものばかりを作ってるとぶっ壊したくなってくる」みたいな話をしましたけど、ゲーマーのスラング的に「ぶっ壊れ」みたいな用語ってあると思うんですよ。例えば、スプラトゥーンのリッター4Kって装備、性能ぶっ壊れだろ、みたいな。

鉄塔:はい。

秋山:すごく強いという意味でぶっ壊れって言ったりするじゃないですか。「壊れている状態」っていうのが、エクストリームな価値っていうふうに転用されつつあるんじゃないかっていう気がしているんです。
それこそデザインの一分野で「インクルーシブデザイン」っていうものがあって。包摂するデザイン。ユニバーサルデザインっていうのはできるだけ多くの人が使えるように作るデザインなんですけど、インクルーシブっていうのは、ある特定のユーザー……例えば車椅子に乗っている人とか、例えば激辛が好きな人とか、何でもいいんですけど、それを巻き込んでいって、 一緒に作るみたいなことをするんですよ。で、そのユーザー集団の中でも外れ値みたいな人に着目するみたいな。
それをエクストリームユーザーって言って、その人のインタビューとかを大事にしたりするらしいんですけど、ぶっ壊れという言葉で形容されるものとか、ちょっと病んでるみたいな人って、言い方が難しいんですけど……その、なんかものとか人間のエクストリームユーザーみたいな感じがして。
で、なんかそういうものや人って、ちゃんとしたところだと排除されがちというか。例えば役所の書類を書けないと、補助金が受けられないみたいなとき。

鉄塔:はいはいはい。

秋山:めちゃめちゃ才能あるアーティストなんだけど、どうしても書類が書けないみたいな人っていると思うんですよ。で、そういう人って、そこでは排除されちゃうみたいな。
そういうことが今まではありがちであったけど、「ぶっ壊れ」的な価値の転倒みたいなことって、今後もしかしたら起こっていくのかもしれないなって思って。それは完全にまだ妄想の域を出ない話なんですけど。

鉄塔:いや、でも歴史を見ると、結構そういう転倒の繰り返しだったのかなとは思いますね。
「やばい」っていう言葉もぶっ壊れの先輩だとですよね。やばいって単純に悪い言葉だったものがいい意味で使われるようになって、今に至る。「クソ」とかもそうですよね。クソは全然いい言葉じゃなかったのに、クソすごいみたいな言葉が出てき始めて、いい言葉になった。 そういう先輩みたいな言葉はあるので、ぶっ壊れが次に来る。もう来てるってことですか?

秋山:そういう意味ではぶっ壊れはもう来てるかもしれないです。 例えば「いや鉄塔さんすごい、ぶっ壊れエンジニアだからな」みたいな。ちょっと褒められてる感じしますか?

鉄塔:嬉しいですね。「変態は褒め言葉」っていうのがあるじゃないですか。変態とかキモいとかっていうのは、地元にいるときはマジのトーンで言われてたときもあったんですよ。

秋山:僕もありましたよ。 地元にいたときは。

鉄塔:だからキモいって言われたときに「超えた」って思えるかどうかっていうのは、結構分岐点だったかなとは思いますね。

秋山:そっか、 それいいな。僕、未だにそのメンタルではないので。

鉄塔:さすがにキモいって言われた瞬間に「よし」とは思わないですけど、 でも、あれは超えたということだったのか、というふうに後で都合よく解釈することができた。 そういうメンタルがある種必要だったんですよね。そんなのが必要な世界って、ちょっと歪んでるだろうって思うんですけど。

秋山:でもなんか、 自分を保つ上で必要ですよね。

接続するための「ふしぎデザイン」

鉄塔:秋山さんって普段から壊しがちだなと思ってたけど、言葉にして聞くとなるほどってすごく思っちゃいますね。

秋山:そうですね。だから割とその…… 明確に壊したいと思っていて。壊れているものと、正しいとされているものをこっそり接続したいっていうのが今後の野望ですね。

鉄塔:なるほど。 面白いですね。

秋山:壊れているものと正しいとされているものをこっそり接続することによって、正しいとされているものが、壊れているとされているもののことを認めやすくなったりとか、その逆に壊れているとされているもの、人たちがやりやすくなったりするんじゃないかっていう気がしていて。
なんかそれがやりたいなーっていうのはずっとありますね。

鉄塔:物そのものではなくて、もうちょっと上流の方を見てますよね。

秋山:うーん、なんか次のことをやりたいなというのはありますね。社会人になったばっかりの時に、ぼんやりと思い描いてたビジョンが今のアトリエにかなり近くて……自分をはじめ、すごい変な人が安心して引きこもってものを作れる環境みたいな。

鉄塔:最高ですね。

秋山:そう。ある程度達成されつつあるような気がしているので。

鉄塔:さっきの「正しい」って言うんじゃなくて、「正しいとされているもの」っていうところがなんか深みがあるというか。それを変なものとこっそりつなぐって。

秋山:そうそう。それで内側からこうじわじわと変化させていくみたいな。でも結構そういうこと思っている人は多そうな気がするんですよね。それこそImage Castのリスナーさんとかにも。

鉄塔:いやでも、思っても本当にそれができる人ってあまりいないと思うんで。こっそり接続するためには、何がどのぐらいやばいかを割と正確に把握しないといけないじゃないですか。

秋山:そうかも。

鉄塔:そのためにまともさと、壊れたところを壊れたまま持っておきながらちゃんとするっていう、難しいバランス感覚が必要になりますよね。

秋山:難しいって言うかもしれないけど、自分にとってはもう、そうするほかないみたいな。壊れちゃったものが直せないから。……っていうのはすごくありますね。
だから究極的に考えると、自分がやりやすくなる、 生きやすくなるっていうために、 すごい利己的にやるっていう感じ。

鉄塔:そこがちゃんと社会とつながっていて、しかも「ふしぎデザイン」っていう社名で、こっそり壊れたものと裏でつながっているのかもですね。ふしぎデザインっていい名前だなとぼんやり思ってたんですけど、すごくつながったような感じがしますね。

秋山:あんまりネットで言わないことを言った気がします。


鉄塔:いやー、どうしようかな。 ちょっと締めに入ろうかなと。

秋山:すごい、締めに入ろうかなって言って締めに入るやつだ。(笑)

鉄塔:じゃないとまた話しちゃうから。(笑)

秋山:締めの口上、ちょっと憧れなんで言ってもいいですか。

鉄塔:じゃあお願いします。

秋山:Image Castは、毎月少額の支援をしてくださるImage Castサポーターの皆さまのおかげで配信を継続できています。月に1回コーヒーを奢ってあげる気持ちで3ドルからの支援をお待ちしています。詳しくは概要欄をご覧ください。
そして、Image Castでは皆さんの感想をモチベーションにして配信を継続しています。 感想・要望は #imagecast をつけてツイート、質問などお便りは概要欄のメールフォームまでお寄せください。 Apple podcastなどのレビューも励みになります。 それではまた来週、ニセあずまと……。

鉄塔:鉄塔でした。

二人:さようなら!

(おわり)


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