生命保険会社の自己資本規制について(その①)
生命保険会社の自己資本規制(以下、資本規制)について書いてみる。
執筆のきっかけ:
以下、アクチュアリー2次試験を受験していた時代は全然わかっていなかったが、合格してしばらくしたら、例えばこんなことがいつの間にわかるようになっていた。
・生命保険会計と資本規制は何が異なるのか、どういう関係なのか
・資本規制のことを考えるときに、どういった論点を気にしたらよいのか
・資本規制について詳しく調べたいときに、どのような資料を参考にすればよいのか
そのあたりのイメージをなんとなくでもつかめるようなものがあるといいなあ、とずっと思っていたので、せっかくだし自分で書いてみようということで書いてみた。
対象とする読者:
・アクチュアリー2次試験(以下、2次試験)の受験者
・資本規制のことをよくわかっていない人
・生保アクチュアリーに興味のある学生
高校生くらいでも雰囲気がなんとなく理解できるレベルで書いてみる。
(途中途中、そのコンセプトを無視してしまったかも。すみません。)
細かいことは気にしない。(知っているけどあえて書かない、そもそも自分自身もよくわかっていないので書かない、いろいろある)
「勘違い、間違いあるかもしれないが、何も書かないより100倍マシ」という気持ちで書いているので、指摘していただければ修正します。
自分のバックグラウンド:
新卒から約10年、バリュエーション(決算系)アクチュアリーをやっている。浅く広く色々な仕事をしていて、資本規制にがっつり関わった経験はあまりない。(ので、たとえばESRの細かい論点とかは正直よくわからない)
生命保険会社の自己資本規制とは:
自己資本=会社が自由に使える自分のお金のこと。たとえば以下
株主から出資してもらったお金
(借りているわけではないため、返さなくてよい)会社が儲けたお金
規制=おかみ(日本であれば金融庁)が決めたルール
→生命保険会社の自己資本規制とは、「生命保険会社はいろいろなリスクを抱えているので、つぶれないように、自由に使えるお金をある程度たくさん持っていないといけない」というルール。
(※それって本当の意味で「自由に使えるお金」って言えるの? といわれるとモヤモヤするが・・・ここでは無視)
以下のギャンブルを考えるとイメージしやすいかも?
コインを1回投げて、表が出たら300万円もらえて、裏が出たら何ももらえない
参加費:100万円(1回あたり)
1回あたりの期待値は+50万円(=300万円*50% + 0万円*50% - 100万円)なので、ギャンブルを(たくさん)やったほうがお得に見えるが・・・
自己資本が100万円しかない人は、1回目で裏が出てしまうと破産してしまうため、「絶対に破産したくない」と思うとギャンブルに参加できない
自己資本が1億円ある人は、破産する確率はほぼゼロなので、参加するはず(かつ、やればやるほどお得で、お金が増えていく)
つまり、収益性(=期待値=平均的にどれくらい儲かるか)とは別に、(財務の)健全性(=どれくらいの確率で破産してしまうか、自己資本がなくなってしまうか)も気にする必要がある、ということ。
上のギャンブルの例では明示しなかったが、実際の自己資本規制においては、たとえば「time horizon=1年、確率=0.5%(200年に1度のレベル)のリスク事象」をみたいなもの想定して、レシオ=自己資本÷リスク の指標によって、健全性を確認している。
(自己資本が少なかったりリスクが大きい場合に指標が小さくなり、もし100%を下回った場合、200年に1度のレベルのリスク事象に対応できない(自己資本が足りず破産してしまう)ということになる)
ちなみに「絶対に破産しない」ということはありえない。というか、もしそうしたいなら生命保険ビジネスをやるなという話になる。上のギャンブルの例でいうと、自己資本が1億円あったとしても、100回連続で裏が出たら破産してしまうし、その確率はゼロではない。
(※2次試験の教科書に出てくる「相当程度の確度」とは、そういうこと)
資本規制にひっかかる(上記の指標が低い)とどうなるか:
少し足りない程度であれば、なんとかして指標を上げる努力をする。
自己資本を増やす
(株主に出資してもらう、なんとか利益を増やす、など)リスクを減らす
(運用資産をより安全なものに変える、再保険により死亡リスクを外部に移転する、など)
もうどうしようもない(と監督当局である金融庁が判断した)場合は、まだ自己資本が残っていたとしても、会社がつぶれることとなる。
仮に資本規制がそもそもないとして、自己資本を好き放題に使ってしまい自己資本がなくなって会社がつぶれる場合と何が違うのか?(=ギャンブルの結果次第ではじゅうぶん持ち直せるのに、なぜ早めにつぶしてしまうのか?)
生命保険契約者保護機構(≒セーフティネット)というものがあり、会社がつぶれても契約者(の保険契約)はある程度守られるため、早めにつぶすことに意味がある。(保護機構が使えるお金にも限度があるため、自己資本がすっからかんになって破産してしまうと、さすがに契約者を救えなくなってしまう)
※説明がイマイチだったためあとから補足:
自己資本の計算方法にもよるが、通常は責任準備金(将来の保険金支払を行うためのお金)は負債として拘束しており、自己資本にはカウントされないため、自己資本がゼロ=支払不能 を意味するわけではない。自己資本は支払能力ではなく支払余力(=リスクに備えるためのバッファ、余裕資金)。ただ、自己資本ゼロというのは少しでも悪いことが起きてしまうと(例:保険金支払いが多かったり、資産運用が不調)、保険金支払いを全うできないということであり、生命保険会社としてそれはダメだよね(せめて●●年に1度のリスクには備えるだけの支払余力は必要だよね)、ということ。
自己資本の計算方法については「その②」で扱うかも。
生命保険会社には、どのような資本規制が適用されているか:
(それぞれの規制について説明する余力がないので、いったん勉強の際に参考にした資料のリンクを貼っておきました。あとで特徴や問題点などちゃんと書くかも。)
現行ソルベンシー規制(ソルベンシー・マージン比率)
(2025年9月末頃まで?)
2次試験教科書(保険2 6章 ソルベンシー)
金融庁資料(古め;その1)
金融庁資料(古め;その2)
ソルベンシー規制の短期的見直し
経済価値ベースソルベンシー規制(ESR;Economic Solvency Ratio)(2026年3月末決算から、こちらに切り替わる)
経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討:金融庁
経済価値ベースのソルベンシー規制 生保経営大転換を読む | 植村信保(※まだ発売していないですが、かなり期待)
経済価値ベースの保険ERMの本質【第2版】 | 森本 祐司, 松平 直之, 植村 信保
ソルベンシー規制の国際動向〔改訂版〕 : 中村亮一
IAISのICS(Insurance Capital Standard、国際資本基準)がもととなっているため、金融庁の仕様書(↑の金融庁のリンク参照)を読んでもよくわからない場合、以下のICSのリンクの仕様書(Specifications)を読むと解決することもあるかも。
Insurance Capital Standard - International Association of Insurance Supervisors
米国:RBC(Risk Based Capital)規制
欧州:ソルベンシーⅡ
その他、G-SIIs(グローバルなシステム上重要な保険会社)向け、バミューダの資本規制が大きく変わるとか、いろいろ耳にしたことはあるものの、全然わかっていない
IAISのICSと、日本のESR規制との関係についてはよくわかっていなかったが、以下の当局資料に記載があった。(全然ちゃんとは読めていない、いつかきちんとまとめるかも)
暫定決定(令和4年6月) 「2.2 連結規制の枠組み」
おわりに:
かつ書いているうちにどんどんボリューミーになってしまったので、その②に続く。書きたいことがとっ散らかっていて、次は何を書こうかきちんと決まっていないが、こんなことを書きたい。
会計と資本規制は何が違う? どのような関係?
ESRでよく出てくるキーワード(経済シナリオやESG、データガバナンス、モデルガバナンス、などなど)
経済価値ベース資本規制について思うこと(愚痴?)
おまけ:2次試験の受験者向けtips
健全性!健全性!!健全性!!!とにかく健全性確保ォォォォォ!!!!
(つまり、保険会社がつぶれないこと、きちんと保険金支払を行うことが何よりも一番重要)
という気持ちで読むと、理解がより進むと思います。
私ははじめのうちはこの勘所がなくて勉強に苦労しました。
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