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ゆるっと、ほっこり読み物

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温かい気持ちになりたい時、優しさに包まれたい時におすすめです。
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記事一覧

お月様とふたりで

眠れない一人の夜 テレビのチャンネルを変えても どれもピンと来ない 面白かったはずのスマホの動画も なんとなく見る気がしない 「なんか甘い物食べたいなぁ」 何かに導かれるかのように コートを着て寒い夜に飛び出す私 私の足は近くのコンビニまで 行こうとしている 星がいつもより多く見える空 冷たい風に首元をコートで隠す 遠くの方で時々聞こえる 車の通る音 忙しかった昼間と違って なんとなく落ち着く カーテンの隙間から溢れる ほんのりとした優しい光 どこかから漂うシ

でこピン猫

仕事が終わって 職場のドアを開けると 温かい風が前髪を揺らす 柔らかい春の匂い 先月はまだ暗かった空が だんだん明るくなってきた いつも一緒に帰る 同じ職場のおばちゃんと同期の子 3人で職場の外にある階段を降りる 階段の途中の隅に チョコンと座ている茶色い猫 お昼ご飯を外に買いに行く時はいないのに 帰る時間には毎日ここにいる 足の先だけ白くて 靴下を履いているみたい 毛並みからして お年を召した猫らしい 職場のおばちゃんはいつも 「お疲れ!」と言って 猫の額に軽く「で

猫の額とスズメの涙

今日がついてない一日でも 今までが冴えない人生だったとしても 明日、何かが変わるかもしれない 周りの人の言うことなんか 所詮、猫の額ほど視野の狭い人の 価値観の押し付けに過ぎない ただの嫉妬かもしれない だから私の可能性とは 何の関係もない そんなことをブツブツ言いながら キッチンのシンクを  ピカピカに磨き上げた 秋の少し冷たい風が 窓の白いカーテンと遊んでいる 何も考えなければ 穏やかな空間なのに 「私何やっているんだろう」 汗ばんだ額をタオルで拭きながら

「大丈夫ですか?」と言われて

人がまばらなスーパーから出て  空を見上げる さっきまで夕焼け色だったのに すっかり暗くなって 街灯が眩しく光ってる はーっ 思わず出てしまう深いため息 いつもと変わらない日常と 疲れ切った心と何となく重い体 カートをガラガラと鳴らして 駐車場を歩く 「帰ったらやる事がいっぱいだ」 そんなことを考えていると 突然カートが止まった そして訳も分からないまま 私とカートーは地面に投げ出された 駐車場の真ん中にある排水溝に カートの車輪がはまったらしい いつもは気をつけてい

猫の足跡

空き地の木の下に茶色い猫がいる 晴れた日はいつもそこでお昼寝 薄茶色の柔らかそうな毛が 陽に照らされてる 両手を揃えて眩しそうに 通りがかる人たちを眺めている 散歩中の黒い大型犬が 古い家の柴犬に吠えかかる 吠えて吠えて 自分の強さを主張する 柴犬は少し離れた犬小屋の裏で 素知らぬ顔で オモチャのボールを噛んでいる 諦めた黒い大型犬は 飼い主に引っ張られながら去ってゆく 幼稚園バスから降りてきた女の子が  母親に抱っこをせがむ 抱っこされて安らいだ顔の女の子と 少し重そ

アリさんへの八つ当たり

市役所の出入り口の横で立ち止まる私 なかなか進まない山のような量の手続きに  グッタリ疲れてウンザリする 疲れとイライラで書類がファイルに うまく入らない パラっと一枚書類を落とす 「なんだかなぁー」 紙を拾うだけなのに体中が重くて痛い ふと紙の横でちょこちょこ歩く アリさんを見つける 私は思わず「チッ、君は呑気でいいね」と 舌打ちと捨て台詞を吐いてしまった 落とした書類をファイルにしまうと もう一度アリさんを見てみる 自分の体の半分くらいの 大きな荷物を持ったアリさんは

葉っぱの上でお昼寝

ここのところ忙しすぎて 心も体も疲れ切ってしまった 頭も体も思うように動かない 今日は半日だけど 久しぶりに、ゆっくりしよう できることなら 自分の体をてんとう虫の サイズくらいに小さくして 穏やかな池の水面に浮いた 大きな葉っぱの上に寝転んで 春の温かい風に吹かれながら  優しいお日さまの光のもと ゆらゆら、ゆらゆら 気が晴れるまでお昼寝をしたい

ハトのマナー

子どもの習い事の送迎のため車に乗り込むと 「ハトがイチャついてる!」 と子どもが嬉しそうに空の方を指差した。 電線にとまっている2羽のハトがクチバシを激しくつけたり離したりいている。 あんなに激しくキスをするハトを見るのは初めてだ。 「ハトもイチャつくんだね!」 小学生の娘には少し刺激が強かったのかもしれない。習い事に行く時はいつもテンションが低いのに、今日は車の中でずっとハイテンションだった。 子どもを習い事の教室に置いて、私は一旦家に戻った。 駐車場に車を止めて空を見上

雨降って地固まる

久しぶりに仕事が休みなのに  朝から頭が痛しい パラパラと雨が降っている リビングでひとり 薬を飲んで「ふぅ〜」と ため息をつく 「最近ついてないな」 部屋中に響き渡る独り言 涙が次々と頬をつたった 昨日は会社のポンコツ上司から 「君は何を言っているのか分からない」と バカにされ 今朝は子どもが学校に行きたくない 友達にマウント取られるのが嫌だと 駄々をこね 自分の思い通りにならないからと 私を怒鳴りつけた隣の家のおばさんは 雨が降ってるのに立ち話 大きな声で下品に笑

変わらない日常 、少しでも変えたい日常

淡い紫とオレンジ色の空に包まれながら 重い足取りの帰り道 今日も周りに流されながら アタフタと動き回って ガラクタみたいな1日が終わる 足を止めて空を見ながら 重い荷物を左手に持ち替える 背の高い垣根から顔を出している 少し枯れかけた白い薔薇たちが 夕暮れの空によく似合う 今日も冴えない1日だったけど この薔薇たちにお会いできたから 今日はいい日だってことにしておこう 踏み出した一歩が、さっきより軽い 私の好きな人は 今頃キラキラしながら 仕事頑張ってるんだろうなぁ

かっこいいヒーローのままでいさせて 〜ティラノサウルスからの手紙

羽毛のことは内緒にしてて かっこよかった僕のイメージが 可愛いイメージになってしまうから 痛風ってバラさないで 肉食だから仕方ないよね 鳴き声を勝手に決めつけないで 僕の声は「低くていい声だね」って 他の恐竜からも評判いいんだ 転んだら起き上がれないって笑わないで カッコ悪くて恥ずかしいから 手は小さいけど足の筋肉がすごくて 立つことは普通にできるんだ   凶暴って言わないで ただ食事をしてるだけだから 君たちだって、お肉は食べるよね プテラノドンは嫌いだよ 僕の手が

入浴剤の魔力

嫌なことがあると 私はお風呂に入浴剤を入れる 買い置きの何種類かの入浴剤を その日の気分によって一つ選ぶ 透明なお湯に黄緑色が広がってゆく 今日は柚子の香り 入浴剤の色と香りに包まれながら ゆっくり深呼吸を何度かする 気が付かないうちにガチガチになっていた 体中の力がゆっくりと溶けてゆく 枯れかけた心の花が 次々と色鮮やかに開き始める 「今日もお疲れさま。頑張ったね」と 自分に言ってあげる 涙をながしてしまう時もあるけど 張り詰めた気持ちが一気に和らぐ 柔らかくて心地い

石鹸の香りがすると思い出す

私が十九歳の時、コンビニでバイトをしていると同じバイトの二つ年上の男の人が時々私に声をかけてくれた。 私は人見知りが激しかったので、仲のいい同じ年の女の子と一つ年下の生意気な男の子としか喋らず、話しかけてくれる彼には「はい」とか「そうですね」くらいしか話すことはなかった。 彼は私がバイトを終える15分前になると店にやって来た。 お客さんがいない時、彼はいつも楽しそうにバイト仲間たちと話している。 ある日、私が帰る準備をしていると彼が私の近くに来て冗談を言った。 私は思わず吹き

砂漠に咲くサボテンの花

知っている言葉が少ないから 素敵な言葉はあげられないけど 道端に咲く小さな花のような ありふれた言葉の花束だけで この想いがあなたに届くなら いばらの道でも集めに行ける 泣いているあなたの  助けになるかどうか分からないけど あなたの涙が止まるまで側にいるよ 目立たないところで あなたが頑張っていること 私はちゃんと知ってるよ だからもう 自分のことを責めないで 薔薇の中に咲いてしまった サボテンの花だと言って 心も体も傷つけないで たとえ今の場所で孤立していても 自