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「具体的に観光まちづくりってどうやるの?」の、ヒントになる論文を読む。

 観光まちづくりを含め、まちづくりって実際にどうやるの?と、考えていた時に面白いと思った論文です。「システムズ・アプローチによる住民選好の数量化・見える化ー中心市街地活性化の新しい政策創出の方法論ー」というタイトルだけ聞くと、難しそうで読む気を無くしそうですが、とっつきやすく分かりやすい内容です。慶應義塾大学の津々木晶子氏ら(2011年当時)の論文です。


超要約すると…、

 秋田市の中心市街地活性化の取組をVモデルなる枠組みでやってみたら意見がまとめやすく良い案ができた、という内容です。具体的には、
 ① インタビューした住民の声を、5Wで仕分けし、重要度を一定の基準で数値化することで、求められる理想のまちづくりストーリーを作る。(住民選考の数値化・見える化と理想のシナリオ作成)
 ② 現在と理想のストーリー実現後の、それぞれの街のお金と情報の流れを図示する。(顧客価値連鎖分析:CVCA)
 ③ 理想のストーリーを真ん中に据えて、上に本質的な目的を、下に具体的な取組とその成果を表す指標を置き、関係性をそれぞれ線で結ぶ。(バリューグラフvalue graph)
 ④ ③で整理した項目を表にまとめて数値化することで、重要と考えていることを明らかにする。
 ⑤ 写真などで具体的なイメージをしながらアイデアを転がして複数案を作り、順位づけする。その後、絞り込んだ上位案を市民を対象にアンケートして一つに決める。

まちづくりにはストーリーがいる

 この論文で実務者が肝と感じるのは、施策の組立てのため理想のストーリーを具体的にイメージして共有できる点ではないかと思います。
 私は事業や施策の組立て方を相談されることが多いのですが、よく「三題噺作るのと同じ。」と、言ってました。お客からお題を3つほどもらって即興落語に仕立てるアレです。まちづくりの場合は、住民の声がお題。声(お題)を基にストーリー(案)を作り、案を再度問い修正する…。を繰り返す。ここで重要なのが「ストーリーが面白い」かどうか。ストーリーに魅力を感じた人は納得する。納得する人が増えれば参加者、協力者が増える。そうすればまちづくりの実現可能性は高くなる。KJ法で住民の声を聞いた後、多くの人が魅力を感じる具体的なストーリーを作れるかが、実は非常に重要だと再認識しました。

本内容を進める際の課題

(1) 時間
 ワークショップして声を拾って、ストーリー作って、再度確認して修正して…。当然時間が掛かります。ここが最大のネックではないかと。最近「時間をかける」ことができずに失敗することが多いと感じます。民俗学者の宮本常一の本で、昔は何日間も同じ議題をひたすら話し合い落とし所を見つけた、と、ありました。時間がかけられないと感情的なしこりが残る。これが後に足を引っ張ります。昔、地域全体に影響する仕事を担当した際、出るわ出るわ。20年以上前の話とかがガンガン出てきて往生しました。時間を短縮する技術がファシリテーションなり、今回の論文の技法のようなものかと。ただ、人間の感情を扱う場合には、一定の時間が必要になるため、追い込まれてからではなく、事前にどれだけ準備するかが重要になるかと。なかなかできないですけど。
(2) 話合いの範囲
 対象となる人の範囲も重要です。本論文のように商店街の範囲であれば、比較的似た属性の人が集まるので話がまとまりやすいでしょうが、これが、農村地帯や介護されてる高齢者、外国人が含まれたらどうなるか?これが最近の多様性により意見がまとまりにくい、という奴なんでしょう。ブロック単位で分けるとうまくいくかもしれませんね。どの単位で話し合うか、自体が争いの種になりかねませんが

まとめ

 技法的な部分の詳しい実施方法や理論的背景は、さらに元ネタ論文に当たる必要がありますが、まちづくりを進める一連の手法をわかりやすく書かれているので大掴みするのに最適です。時間短縮の技術がわかりやすく書いてあるのも大変参考になります。最近流行りのデザイン経営とかは、今回の考え方を進めたもののようで、検索すると結構デザイン経営の資料が引っかかってきました。デザイン経営の話を聞いていても既視感がすごくあったのも納得です。そういう意味では現代のトレンドでもある内容なのかな、とも思います。
興味のある方は以下から読めます。


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