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図書館司書が「『ふしぎの国のアリス』の絵本ってありますか?」に即答できない理由とは?

こんばんは、古河なつみです。
今回は、一見すると簡単な質問なのに図書館司書時代の私が考え込んでしまったレファレンス質問を一つご紹介します。
(内容については少し改変を加えています)

Q.幼稚園の子でも読める『ふしぎの国のアリス』の絵本を探しています。

有名な作品なので、もちろん絵本もあるはず……とお問い合わせが多いのがこの『ふしぎの国のアリス』という作品です。『しらゆきひめ』だって『シンデレラ』だって絵本があるのだから、当然『ふしぎの国のアリス』の絵本だって図書館にはあるはずだと当時新米司書だった私も考えていました。

いざ探し始めてみると……?

ところが、私が『ふしぎの国のアリス』の絵本を探してみると……

私「(ウチの図書館では一冊もヒットしない!? 何か間違っているのかな?)」

児童書や大人向けの小説本や洋書は山のように所蔵があるのに、絵本の形態だけが全く見つけられません。インターネットで調べると色々と絵本版も出ているのに何故……と首を傾げて児童書に詳しい先輩へ聞きにいくと、彼女はこう答えてくれました。

先輩「小さな子でもわかりやすい『ふしぎの国のアリス』の本はウチにはないよ~
私「え? でもあんなに有名なお話なのに……?」
先輩「とりあえず対応替わるから。後でゆっくり説明するね」

図書館司書が考える「対象年齢」という問題

対応を終えた先輩は、利用者から聞き取りをした上で他の自治体の図書館から角川アニメ絵本シリーズの『ふしぎの国のアリス』を取り寄せる結果になったと前置きしてから話し始めました。

先輩「そもそもルイス・キャロルの『ふしぎの国のアリス』って、高度な言葉遊びだったり、皮肉の効いたやり取りが多いよね」
私「はい、色んな訳者さんが頭を捻って訳していますね」
先輩「つまりこの物語はある程度の語彙力があって、言葉の中に皮肉が込められている事に気づけるくらいの会話ができる子どもへ向けて作られてるってこと。確か、ルイス・キャロルが実在するアリス・リデルという女の子に話して聞かせたのが始まりで……(少し検索してから)そう、この物語を聞かされたアリスは10歳くらいだったんだよ」

その物語を楽しめると想定される子供の年齢」を「対象年齢」と呼ぶことがあります。作家さんや出版社さんが児童書を出す時にはこの「対象年齢」を考えた上で物語の難易度が設定され、本が作られています。

では、この「対象年齢」が元々小学校中学年以上向きだった『ふしぎの国のアリス』を小さなお子さんにもわかる絵本にするにはどうすればいいのでしょうか?

その方法は「言葉を簡単なものに置き換える」「物語を要点だけにまとめる」というものです。つまり物語を「簡略化」して「抄録」してしまいます。これはあらすじを知るには問題ありませんが、物語に触れてもらう、という図書館特有の観点から見るとオススメ度が下がってしまう資料です。そのため、小学校中学年から中高生向けの『ふしぎの国のアリス』はたくさんあるのに絵本は所蔵していない(あるいは書庫に入っている)という図書館が結構あります。

(※図書館の選書(どんな本を図書館へ入れるか決める作業)には各自治体によって様々な方針があるので全ての図書館の事情ではないことだけご了承ください)

私個人としては、その本を与えられたお子さんが楽しんでくれるかどうかが全てだと思っているのですが、子育て中のママさん達とやり取りをしているとやはり「対象年齢から離れた本を与えられても子どもは興味を示してくれない」というケースが多かったので、『ふしぎの国のアリス』や『赤毛のアン』といった児童文学は読むべき時期をお子さん自身が分かっているのかもしれないなぁ……と感じています。

↑あらすじが理解できなくても、仕掛けの面白さで楽しませてくれるタイプの絵本が多いのも『不思議の国のアリス』の魅力ですね!(仕掛けが多い分、壊れやすいため図書館ではなかなか見られない逸品です)。

今回のお話は以上になります。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ


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