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山田じゃない男の精液飲んで死ぬ #1


 山田のちんぽを世界一小さくて弱いものを可愛がるみたいに触ってたら潮吹きやがった。ベリベリキュートな古橋の手はじんわり温かい水しぶきでぐっしょり濡れてしまった。舐めてみるとなんとなく尿のような味と匂いがするようだった。なんか出るぅって言われたから、まぁいつものでたらめだろうなー(山田はいっつもテキトーなことしか言わないから)と思っていたのに本当に出してもーて、くそー、くそー、もう使用不可だぞこれとシーツを見せつけられる古橋(23)ブラック企業勤務。初めての潮吹きおめでとう!と手を洗いに行こうとしたら「まってえ、いかないで、ティッシュとってえ」なんていうから、仕方なくとってあげた。まってえいかないでティッシュとってえって、身体もちんぽもでっかい男が言うのはおもしろいなと思う。おもしろいといえば遠野物語の民話でオモシロイゾー伝説っていうのがあった。ある人が山の中を歩いていたらどこからともなく突然オモシロイゾー!と言う声が聞こえて必死に逃げ帰ってきたとか。山田のまってえいかないでえの乙女ボイスが山の奥から聞こえてきたらあんまりにも可愛くて死ぬ。あってたまるかそんな民話。

 この前流し読みしたアニーエルノーの話がいやに頭に残っている。面白くはなかったんだけど、設定がなんとも古橋イズムでよかったんだ。元彼に恋人ができてしかもその恋人は自分より年上のババアで大学教授ときた。そのババアのことをなんとかして知ろうと躍起になっていく話で、あまりのネットストーカーぶりにまるで自分を見ているようで胸が苦しかった。フランス文学って観念をひたすらこねくり回しているような気がしないでもない、知らんけど。サルトルも観念こねくり回している感じだもんね今嘔吐読んでるから超思う。でもフローベールとかゾラとかモーパッサンとかそういう時代の人たちは観念よりは出来事って感じだろーか古橋は頭悪いから観念よりも昔のフランス自然主義の方が好きだな。
 ただ古橋は実存主義者らしく身体を持って何ごとも感じたいし身体ありきとして体験したい。それを言語化してみなさんにお届けしたいと思っています。山田との運命の物語をね。
 古橋は相変わらず山田の元カノのこと何度も何度も何度も何度も何度も知ろうとして成功したり失敗したりしてその都度やんでいます、なんでこんなばかげたことに三時間も費やしてしまったんだろうって思います、やめればいいのにやめようと思えば思うほど止められなくなって古橋の意識だけがそこにとどまって朝を迎えてしまうこともしばしばあります。身体をずっと横たえながら夜通しインターネット・サーフィンをしているからか顔がブサイクに浮腫むんだよねそんでまた病む。山田に囚われることなく一日を終えられるように猫を飼っている男とかスポーツマンとか(正確にはスポーツマンとはまだだけどさ)と一発パコってみるけれど、こいつらチョーいい人なのに最近パコるのさえ超面倒くさくて、ヘコヘコ腰振られてると古橋ってなんでいまここに存在してるのかなーって本気で思ってしまってさ。どのちんぽも最初は新鮮でいいんだけど3.4回目くらいになってくるとほんとうに微妙で飽きてくる、そうするとまじで時間を割く価値ねえなこいつにと思うのよ。ちんぽが使い物にならないのにこいつはなんのために存在しているの?って本気で思っちゃう。本気で。

 古橋って山田になりたいんじゃないかと思うんだよね、最近。職場の先輩に私は山田のことが好きなんじゃなくて山田の持つ肉体とか精神のあり方に惹かれているだけなのかもしれない、そもそも山田って何、人というのは肉と精があればすべて定義できるんすかと聞いたらカントみたいなことを言うなと咎められた。これから古橋カントって名前で活動しようかなそれはいいとして山田のこと好きな理由について考えてみるとさ自分に優しくしてくれたからとか思いやりのある人だからとかイケメンだからとかじゃなくて、山田が山田としてそこに存在しているからなんだって思った。山田のムキムキの身体とか、頭の回転の速さとか、ものすごく自信家に見えて実は超繊細な感受性とか、そーゆー山田が持っているものすべてが愛しくて憧れでもう食べちゃいたいくらい、一体になりたいくらい大好きな一方でものすごく嫌いだし憎いんだよな。古橋はもう山田になりたい。山田で在りたい。山田という身体、山田という存在から山田を取り去ってそこに自分自身を移植したいって最近は考えるようになった。だって山田になれれば持ち前の肉体と精神を生かして嫌いな奴を威圧できるし女だからって舐められたりしない。だって山田は男の集団の中で常にトップに立つような人間だから。古橋はマチズモを目指しているのか。死にたがりだけどほんとうは生きたいいちばんダルい人間なのかもしれん。

 山田の精液を取り込むたびに古橋は山田になれるんじゃないかってうっとりしてしまう。山田の臭くて不味くて苦くてとんでもないアホ体液とかうんこを身体中のあちこちになすりつけて主食にして身悶えしたい。男ってのはすぐに精液を飲ませたがる。猫飼ってる男もスポーツマンも、ちょっとさかのぼって野球しかできなかった短小も元彼もみんなそうだった。なんだって小さくて細くて可愛くて弱々しくおとなしく見られがちなこの古橋様にそうやって自分のDNAを飲ませたがるんだ。ほんとうは古橋なんておとなしくもないし見て分かる通り脳内がものすごくうるさくて怒涛の意識の流れの中で生きているんだキログラム。この文体にはフォークナー大先生もびっくりであろうよちなみに古橋は1番米文学が好きです。米文学で好きな人一位!ウィリアムフォークナーさん!二位!ジョンスタインベックさん。三位トニモリスンさん。おめでとうございます。脱線したのでそろそろタイトル回収に向かいますが、もう古橋は山田の精液しか興味ないンだよね。山田の精液以外、自分のまんこにもくちまんこにも入れたくない。そう言う傲慢さが古橋にはあってだからいつもいつもうまくいかないことはわかってるけど多分治らない。何にも治す気ないもん。これからも山田のことを好きでい続けるしこれからも新興宗教山田の教祖として山田と一体になれるよう日々呪いを捧げていく。でも心のどこかで山田以外の精液飲めるようになりたいと思ってる。救われたいって思ってる。

 俺のちんぽを神格化しすぎだよって山田には言われた。俺よりちんぽのでかい男も技巧もすばらしい男も星の数ほどいると。そんなのわかっている。わかっていて、だからなんだと言う感じ。古橋は中イキしたことないからしらんけど、この世の中に古橋を一億中イキさせられるようなちんぽがあることも知っている。山田以上に優しい男なんているし、山田以上に顔が良くてちんぽがでかい男もいるし、山田以上に古橋を考え、古橋という存在をまるごと愛してくれる男なんかきっときっと本気になって数えれば169人くらいいるんじゃないかと思うタンザニアとか含めて。

 でもさ、でもこれだけは言わしてほしいんだけど、山田が正常位で挿入して古橋に覆い被さってくるとき、いちばん大きくて綺麗で熱くてすばらしい星が両手いっぱいに飛び込んでくるような思いがするんだよ。山田の温かい肩を吸うとああ大好きって思って、自分という存在が海みたいに広がって、浅瀬が満ちていくような、黄金の稲穂が広がっていくようなそんな思いがするんだよ。

 もうそれは古橋にとって宝物以外のなにものでもなくて宮沢賢治のクラムボンマヂキチ物語じゃないけどさ、山田は古橋のやまなしなんだよ。恵みなんだよ。誰がなんと言おうと山田は神で、わたしの神は内部にあるんだよ、それは自分なんだよ。もう一人の自分なんだよ。なりたくてなりたくてなりたくてそれでもなれなかった方の向こう岸にいる自分なんだよ。山田の向こう岸にいる女でありたい。山田と言う男が古橋の向こう岸にいるのと同じ感覚で。

 山田とこれからどうなっていくのか古橋にはぜんぜん検討がつかないけどまあ見守ってほしいなと思います。浮気しながら。そのうち性病になる?古橋文学でしたよ。

どんと晴れ。
イワンカラマーゾフ

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