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キーポイント

 僕はベンチに独り座っていた。少し離れた場所には、10羽ほどの鳩の群れ。その向こう側には、ベビーカーを押した若いママさん達が、他愛もない話に花を咲かせている。
 今日は何曜日なのだろう? もうどのくらい時間を、この公園で潰してきたのだろう? 初めは新鮮にさえ思えたこの風景が、いつの間にか見慣れた日常へと変わって行く。
 僕は何を求めているのか? ここで答えが見つかるのだろうか?

 きっかけは占いだった。退屈な日常から逃れたい一心で、未来を占いに託してみたのだ。
 占い師は言った。「キーポイントは公園ね」
「キーポイント?」僕は首を傾げた。“ラッキーポイント”じゃなくて“キーポイント”?
 そしてある日、何となく僕は、この公園に来ていた。それを運命と呼ぶか、それとも気紛れと呼ぶのかは分からないが。

 それから毎日この公園へと足を運ぶのが日課となっていた。いつものベンチに、鳩の群れ。そして、他愛もないおしゃべり声。
「今日も無駄足か」
 もう幾度となく口にしたそのセリフを、いつものように呟く。僕はベンチから立ち上がり、出口へと向かおうとした。
 するとその時。「おにいちゃん」と後ろから誰かの呼ぶ声が。振り返ってみると、いつの間にか5歳くらいの女の子が立っている。
「これ、わすれものだよ」
 そう言って、僕の手のひらに両手で何かを渡すと「ママ~」と言いながら、鳩の群れの真ん中を通り抜け、女の子は走り去っていった。
 僕は、その光景にある種の違和感を抱いた。だが、それよりも、渡されたものの方が気になる。さっそく確認してみた。
――それは、10本の鍵束であった。
 もちろん、それは僕のものではない。何の鍵だろう? 扉の鍵か? それからもう一度、女の子の姿を確認しようとする。
……いない?
 確かにママ達の元へと、走って行ったはずなのに? そのとき僕は、先ほど抱いた違和感の正体に気が付いた。
 そう、あの子は鳩の群れの真ん中を走り去ったのだ。しかし、それにも関わらず、群れからは1羽として飛び立たなかったのだ!
 あの女の子は、一体何だったのだろうか? いずれにせよ、どうやら占い師の言葉は当たったらしい。なるほど“キーポイント”ね。
 それから僕は、10の鍵に合う、10の扉を探す旅に出た。うまく探し当てることができるかは分からない。でも、きっと、うまくやれるはずだ。だってそのカギは、僕が握っているのだから。

【了】

イラスト/ちぃ(note.mu/selkie)

#小説 #1000文字小説


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