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紙の本が好きなのに、キンドルアンリミ充実生活とは何事か

はじめに
昨年秋ごろアマゾンのキンドルアンリミをサブスクした。キャンペーン中で2か月無料というから気軽にやってみた。思っていたよりおもしろかったので、以下キンドルアンリミのなにがオモロイのか説明します。「そんなのさんざん言われてるやん」と思われますが、わたしがこれから言及するのは、ちょっとめずらしい視点からの話になると思います。というのも、わたしは紙の本を本屋で買う主義のひとだからです。タブレットとか電子書籍専用の端末など持っておりません。キンドルアンリミはスマホで読んでます。なんじゃそりゃ。それをいまから言語化します。

「キンドルアンリミでもっと紙の本が好きになる!」という話になればいいなぁと思いますが、アマゾンの回し者みたいで非常に心外ですね。ともあれ、つづけます。

古典を読めという呪い
かつて小泉八雲ことラフカディオ・ハーン先生はいいました。「新刊を買いたくなったら、ぐっとこらえて古典を買え」と。意訳です。くわしい内容が気になった方は『小泉八雲東大講義録 日本文学の未来のため』という本をお読みください。名著です。さておき、わたしはハーン先生が大好きなので、この教えがいつも頭にあります。すると、どうなるか。新しい本を買うときの警戒心がすごくなります。バカみたいなこと言ってますね。でもこれは深刻です。だって新しい本を読みたいじゃないですか? いまを生きている人間なわけですから。

いいかえれば、ハーン先生は「限られた時間やお金を有効に使いなさい」といっているのでしょう。そのとおりです。本に限らず、あたらしいモノをいちいち買ってたら、スペースがなくなるし、カネもなくなります。じっさいハーン先生の言葉が頭にあると、ちょっと冷静になれて、本選びの集中力が自然と高まります。より満足のいく買い物ができるなぁという実感があります。

おわらない葛藤
しかし! それでも新刊が読みたくなるときはあるわけです。というか、本当は読みたいのです。100年はおろか10年も残らないような、すぐに腐って土に還っていくような、まるで塵芥のような、でもときどき肥やしになるような(と期待したい)新刊本をバンバン読みたいわけです。この欲望は「教養を高めたい」というより「いまを生きる人たちの言葉に触れたい」という社会的な欲望に近いかもしれません。寂しがり屋なのかな(しらんがな)。

「わたしがいるじゃないか」とアンリミがいう
長い前置きでした。結論をいうと、キンドルアンリミはそうした欲望にぴったりのツールでした。「気になってたけどぜったい買わない」と思っていた本が気軽にたくさん読める。そして別に読み切らなくていい。いきなり中身を読めて勝手に放り投げる(削除する)こともできる。また拾うこと(ダウンロード)もできる。見切りがより早くなります。でかい本屋を飛び回って永遠に立ち読みしているイメージです。じっくり読むというより、本当に学びたいことの「アタリをつける」ために読む感じです。

そしてあらゆるジャンルがあります。文学や人文系に限りません。それもたのしい。ハーン先生のプレッシャーから解放されるようです。だって、時間はかからないし、スペースはとらないし、お金も新刊を買いまくるよりかは掛かりません。

あれ、古典もあるじゃん!
そして実はアンリミには古典もありました。評価の定まったちょっと昔の有名な本はアンリミで置いてあったりします。ビジネス、自己啓発、歴史、科学、社会、ジャーナリスティックな読み物などなど。そして、マジの古典もアンリミでときどき読めます。じつは光文社古典新訳文庫がかなり読めてしまいます(いちばん驚いたことでした)。ちなみに、わたしがアンリミで最初に読んだのは、同文庫のエドモンド・バーク『フランス革命の省察』でした。あまりにも名著だったため紙で買い直すというよくわからない所業におよびました。といっても、現在のところ、アンリミから紙の本の購入に至ったのはこの本だけですが。

思わぬ読みもの
意外なものが見つかるのもたのしいポイントです。とくに仕事で必要な情報を集めるとき、なにかを研究するとき、ネット検索で現れる内容は散漫な印象ですが、アンリミで検索すると、一冊の本としてまとまっているものが出てくるので重宝します。そして、本屋には売ってないような自費出版のような本のなかに「これは!」という情報が見つかることもあります。あと、洋書が読めるのもうれしい。それこそ原書の『フランス革命の省察』も読めますし、ちょっとひと手間ありましたが、プロジェクトグーテンベルク経由でハーン先生のKWAIDANも読めます(そうなんですよ! ハーン先生!)。気になったらいきなり読める、思い立ったら読めるという状況が、せっかちな人には合っているかもしれません。まぁすぐにやめちゃうことも多いのですが。

ハーン先生にささぐ結論と注意点
ということで、「キンドルアンリミ充実生活とは何事か」について書きました。ハーン先生の呪いを解呪したい方にはオススメです。あらたなステージに立てます。わたしはアンリミのおかげで雑多な読み物や新刊に手を出すことに躊躇がなくなりました。それがかえって見切りの力をつけているとも思います。立ち読みをずっとしているのですから、そりゃそうです。そして新刊への欲望というか社会的な欲望もかなり満たされるため、古典へのあこがれや意識もますます高まっているように思います(ホントですよ! ハーン先生!)。そしてじつは古典もある。英語も読める。

ただし時間もお金も奪われていることはまちがいありません。だけど、ひと月新刊一冊分くらいのお金で世相を映した有象無象の本の渦を自由に泳ぎ回ることができるのはお得感があるし、おもしろい。ヒマさえあればずっと読んでしまうので注意です。


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